↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/109

99.楓の疾走

『闇夜の神都の街並みを、黒い稲妻のように疾走する影が一つ。


 東ノ庄の防人様の懐刀と言われるシノビ、楓の姿であった』


 と、自分でナレーションしながら楓は屋根の上を走っていた。


「楓にしか頼めないことがある。頼んでいいか」


「我が主、おまかせください!」


 すっかり楓の扱い方が分かってきた多比人に、時姫と鷹姫、それに時姫の夫、作磨(さくま)の救出を頼まれた楓は、神館へとまっしぐらに進んでいた。


 しかし、おかしい。あまりにも変だ。


 自分の実力を過大評価している楓でさえも、この非常時に、いとも簡単に神都の城壁を乗り越えられたこと、神都内部で何の攻撃もないことに、違和感を覚えずにはいられなかった。


 楓は死を覚悟してこの任務に臨んでいる。


 死して屍拾う者なし。


 修業中に、シノビの覚悟の在り方としてよく言われた言葉だ。


 しかも、神都を取り仕切るシノビは、大神官直属の服部(はっとり)半分蔵(はんぶんぞう)というシノビ界の大物だ。


 その服部の軍団を、自分一人で相手にしなければならない。まさに命がけの任務である。防人様のシノビである自分に相応しい任務である。


 しかし、楓に襲い掛かってくる服部軍団は誰もいない。


 そうは言っても、神館への進入はこうはいかないだろう。楓の視野に神館の大きな城壁が見えてきた。


 楓が城壁の脇に潜み、息を整えながら辺りを探る。


 ふと見ると、神館の大門と呼ばれる門の脇の通用口から出てくる人影が見える。遠目でよく確認できないが、どうやらシノビのようだ。


 音もなく、闇夜と同化したように楓が忍び寄ると、何やら話声がする。


「いや~、嫌になっちゃうよなあ。先月分のお給料、貰えないままだよ」


「お頭たちは貰っていたらしいぜ」


「ひどくない? 自分達だけずるいよなあ」


 聞き覚えのある声に、楓は目を凝らしてみると、同郷の伝兵衛だった。


 伝兵衛は神都で大物になると言って、東ノ庄から出て行ったのだ。


 そっと近寄り、周囲に気取られないように小声で話しかける。


(伝兵衛、何をしている)


「だって俺達、ボーナスだってもらってないのにさあ」


(おい、伝兵衛、伝兵衛)


「そういえばあいつの母ちゃんさあ、この前ウンコ踏んだらしいぜ」


(伝兵衛、私だ、楓だ。伝兵衛、おい)


「それであいつ、運がついたからいいんだって、馬鹿だよなあ」


「てめえ! 伝兵衛! 何回言えばいいんだ!」


「あ、楓じゃないか。どうしたの?」


 つい大声を出してしまった楓に、伝兵衛と周りのシノビが気づく。


 楓は慌てて背中の刀を抜いて身構える。


「何やってるの楓? そんなもの出して危ないだろ。むやみやたらに人前で刃物を振り回しちゃいけないって、楓の母ちゃんが昔言っていたよ。知らないの?」


「え~伝兵衛、この娘、楓ちゃんて言うの? かわいいじゃん」


「伝兵衛の知り合い? 俺、孫助って言うんだ。よろしくね、楓ちゃん」


「はわわわ」


 楓は動揺していた。シノビの世界で服部軍団と言えば、鉄の規律で知られた最強軍団のはず。それにしてはあまりにもフレンドリー過ぎだ。


「そう言えば、楓って防人様のシノビやってんだよな?」


「マジ! 楓ちゃんスゴくない? 」


「ヤバいね。楓ちゃん。連絡先教えてよ」


 どいつもこいつも全体的に軽い。神都のシノビはこんな感じなのか。死して屍拾う者なしではなかったのか。楓は動揺しつつも聞いてみた。


「伝兵衛、何をやっているのだ。神館の警護はどうした」


「え~、もうやめた」


「給料払ってくれないんだもん」


「服部様もとっくに出て行っちゃったしなあ」


 このシノビ達によると、最近神都から給料不払いが続き、親玉の服部半分蔵は労働基準監督署に訴えてやると言って、神都から出て行ってしまったらしい。


 それ以来、神都のシノビは逃げ出して、最後までのんびりしていた伝兵衛達が今出てきたところだそうだ。


「あとは数名、雅姫様か利姫様のシノビが残っているくらいかなあ」


 伝兵衛がのんきそうに言う。


 シノビはドライであるべきだと楓は教わってきたが、これはあまりにもドライ過ぎだ。


「お前達、主への忠誠はどうしたのだ!」 


 思わず楓は伝兵衛達を問いただした。


「だって、金も払わない奴のために命かけるなんて、おかしいだろ」


「雇用契約はちゃんと守らないとね」


「俺は高給貰えるから神都で働いていたんだし」


 価値観の違いに楓はクラクラとした。今どきのシノビはみんなこうなのだろうか。働き方改革は、シノビの世界にまで及んでいるのか。しかし、こいつらとシノビの価値観について話し合っている暇はない。


「わたしは鷹姫様のところに行かねばならない。ここを通してくれ!」


「いいよ~!」


「頑張ってね~!」


「今度一緒に飲もうね~!」


 楓は神館内部に入る際、相当の戦闘が行われることを覚悟していたが、まさか通用口から普通に入れたことに驚いてしまった。


 しかし楓は、この後死を覚悟することになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。