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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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100/109

100.脱出しない人々

 神館内部に入っても、警備らしい警備がない。


 事前に廻目(まわりめ)から聞いておいた、鷹姫の軟禁部屋へと進む。


(あの部屋だ!)


 足音を立てずに楓は進む。


 と、その時だった。


「貴様何者だ!」


 鋭い声に一喝され、楓は思わず立ち止まった。


 自分の動きは完璧だった。なのに感づかれた。相手は相当な手練れに違いない。


 明かりが自分に向けられる。


 動けば命が無いことを本能的に察し、楓は動きを止めた。


「なんだ、ぺったんこか。ボキはぺったんこに用はない」


 そう言って、声の主は立ち去って行った。


(ちょっと、いや……かなりムカつきましたが助かりました。何だったのでしょう、あれは)


 楓は声の主をぶん殴りに行きたい衝動を抑えて、軟禁部屋の戸を開けた。


「……楓か」


 鷹姫は布団に横になったまま、楓に呼び掛けた。


 明かりは消えたままだ。


「お助けに参りました、鷹姫様」


「多比人と雪は元気か?」


「ラブラブです」


「……そうか」


「先日結婚されました」


「……『婿見せ』の覚悟は出来たということか」


「多比人様のお言いつけで、鷹姫様と時姫様をお助けに来ました」


「時姫なら兵を率いて出て行ったぞ」


「へ、兵を率いて!? 時姫様は囚われの身では?」


「時姫ならそのくらいのことはするだろうとは思わんか」


「……まあ、そうでしょうけど……」


「せっかく来てくれて申し訳ないが、私はしばらくここにいようと思う」


「!?」


「最後までこの目で見届けてみたくなったのだ。許せ」


「滅相もございません! 鷹姫様の御心のままに。多比人様にはそのようにお伝えいたします」


「頼んだぞ」


「はっ」


 鷹姫のもとを辞した楓は、『婿見せ』で敗れた夫婦の夫のみが収容されている、通称『男の館』へ向かった。ここは深夜だと言うのに、どの部屋にも明かりが灯っていた。


 たくさんある部屋の中から見つけ出すのは困難かと思われたが、時姫の夫、作磨(さくま)のいる部屋はすぐに分かった。どの部屋の入り口にも、住人の名前を示す札が掛かっていたのだ。


 楓は、『作磨』と書かれた札が掛かっていた部屋にそっと入る。


 楓は自分の目を疑った。


 その部屋の中には、数人の男達が炬燵に入ってお菓子を食べながら、本を読んだりゲームをしていたりとダラダラ過ごしていた。


「お、楓じゃないか。どうしたんだ?」


 そう呼びかけられ、振り向いた楓は驚愕した。


 そこには作磨は作磨でも、もの凄く太った作磨がいた。


 お腹の肉が、寝間着からはみ出していた。


「お、お助けに上がりました、作磨様。一緒にここから脱出しましょう」


「脱出ってどこに行くの?」


「え~と、時姫様の妹、雪姫様がいらっしゃる陣中です」


「そこって快適?」


「陣中ゆえ快適とは言えませんが、お命はこの楓がお守りします」


「じゃあ嫌だ」


 作磨はこのだらだら空間に馴染み切っていた。


「ここは働かなくてもいいし、お菓子はいくらでもあるし、夜中どれだけ起きていても怒られないし、ゲームや本はたくさんあるし、最高なんだよ。しかも、お風呂ではかわいい女官の娘が、体まで洗ってくれるんだよ~むふふふ。あ、昌彦氏! その本読んだら貸して」


「OKなり~!」


 作磨は完全なダメ人間と化していた。


 作磨だけではない。囚われた夫達は誰もが太ってだらだらし、ヒキニート化していた。


(男は衣食住足りて、働く必要がなくなるとこうなってしまうのか……)


 楓は『男の館』改め、『ダメ人間の館』を後にした。


 姫達の愛する夫をダメ人間化してしまう……これが愛姫様の策略だとしたら。


 楓は愛と豊穣の女神の恐ろしさに心底震え上がった。


 誰も襲ってくる気配のない、暗闇の神都を駆けながら楓は叫んだ。


「わたしの活躍する場面がないじゃないか~!!!」


 死して屍拾う者なし。




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