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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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97.穏やかな日差し

「な、何ですと~! 鷹姫様は、雪姫様のおばあ様ですと~!!!!」


 そう言って、樽彦は炬燵の横の畳の上を転がりまくった。


「ボキにとって雪姫様は神! 鷹姫様は神の上のお方! と言うことは……ゼウス? 天皇陛下? 宇宙の真理!!!! うお~!!!!!! うげっ!」


 興奮して転げまわっていた樽彦は、杏に蹴られて止まった。


 起き上がった樽彦が、炬燵に座る鷹姫に跪いて言う。


「鷹姫様、今日よりボキは鷹姫様の忠実な僕(しもべ)です。何なりとお申し付けください。この樽彦、お役に立ちます!」


 目をキラキラさせている樽彦に、鷹姫は言った。


「では、外で何が起きているか聞いてきてくれるか? 樽坊」


「イエッサー!」


 そう言って樽彦が颯爽と部屋から出て行く。


 杏が鷹姫と橘樹(たちばな)に一礼して後を追う。


「変わった子じゃな」


「ふむ。利姫(としひめ)の息子らしいが、母親とだいぶ違うな」


 しばらく寒い日が続いていたが、今日は風もなく、陽射しがぽかぽかと温かい。


 鷹姫と橘樹は、炬燵に入りながら将棋を指している。


「樽坊は、うちの孫のことを好いているようだ。あれでは斬られてしまいそうだが」


「お前の孫と言えば、時姫は凄いな。嫌がらせに波姫の下女にしたら、神官になるまで這い上がってきおった。どう育てればああなる?」


「時か。あの子は育てたというより勝手に育ったのだ。私や親から勉強しろとか剣術の稽古をしろとか言ったことはない。自分でこうと決めたら頑固なまでにやり抜いてしまう」


「……うちは、育て方を間違ったなあ。やりたいことは何でもやらせたが、それがいけなかったのか」


「何を言う。仮にも三人の娘を神官までにしたのだ。なかなか出来ることではない。……私は、親としては落第だ」


「……華姫(はなひめ)のことか。いまさらながら……その……都合の良い話かもしれないが……悪かった」


「おや、天下の大神官様に謝られたぞ。恐ろしや」


「時姫を『婿見せ』などに呼ばなければ……申し訳ない」


「いや……あの子を殺したのは私だ。体の弱いあの子を庄長にしたのは私のエゴだ。自分の娘に立派な庄長になってもらいたいという、私の欲があの子の寿命を縮めたのだ」


 鷹姫は将棋の盤面をじっと見つめている。


「私は常に冷静に考え、行動したいと考えている。だが、自分の子供にはそれが出来なかった。冷静に考えれば、責任感の強いあの子に庄長などさせれば、寿命を縮めてしまうのは分かりきったことだ。庄長などにするのではなかった。夫と二人で静かに過ごさせてやればよかった。悔やんでも悔やみきれぬ」


「……私が言うのも何だが……鷹姫……本当にそう思っているのか」


 鷹姫が顔を上げて、橘樹を見る。


「私はお前が羨ましかったぞ。華姫の庄長としての名声は神都にまで届いていた。正直、私の娘とは雲泥の差だ。そんな優秀な華姫が、庄長として立派な姿を母親に見せることが出来て嬉しくないはずなかろう」


「……」


「鷹姫とて自分の子には目が曇るか。それでは私が娘達のことを、上手く育てられなかったのも無理はないか。鷹姫、華姫をもっと誇ってやれ。この天下の大神官様が悔しがるほど優秀な庄長であったとな」


「……橘樹……お前は情に厚い女だな。優秀な者達がお前について行くのがよく分かる」


「挙句に自分の娘にこうして軟禁されているがな」


「……そう言えば、何故私を牢に入れなかったのだ。こんな炬燵に三食昼寝付きの待遇は、あまりにも生ぬるくはないか」


 橘樹がくくくっと笑った。


「鷹姫、お前は忘れているかもしれないが、かつて神館にお前が訪れた時、下級女官だった私がお前に茶を出したのだ」


「……そうなのか?」


「ああ、年はあまり違わないとは言え、お前は既に庄長代理のような立場だった。当時の私の身分とは天と地の差だ。そのお前が、私のお茶を飲んでこう言ったのだ」


『ああ美味しい、遠くから来たばかりなので身に沁みます。これは相手のことを想って淹れてくれたお茶ですね。ありがとう』


「私は当時、神館に来てくれた客人に対して精いっぱい頑張ってお茶を淹れていた。相手の疲れ具合や体の大きさなどを考慮して、一番良さそうな量と温度に気を遣って淹れていたのだ。でも、そのことを理解して誉めてくれたのは鷹姫、お前だけだった。それがとても嬉しかったのだ」


「……すまぬ、全然覚えていない」


「よいのだ。私は嬉しかったのだ。牢に入れなかったのはその礼だ」


「人には感謝しておくものだな。おかげで牢屋暮らしから炬燵に変わった。よし、橘樹。今度は私がお前にお茶をそそいでやろう。これも将来何か役に立つかもしれぬ」


 穏やかな日差しの中、軟禁部屋からは二人の笑い声が聞こえてきた。






○或る日の大神官様(その4)

雅姫に利姫など、橘樹は自分の優秀な部下を娘達の家臣にしました。娘達を支えて欲しいと思ったのです。その際、今後は自分よりも娘の命令を優先するようにと伝えました。そのような訳で、雅姫達も菊姫の命令を優先していますが、橘樹に害をなすことには反対でした。菊姫は橘樹を牢獄に入れようとしましたが、家臣達の反対で、鷹姫と一緒に軟禁することになったのです。


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