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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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92/109

92.大神官菊姫

「まずは月見ノ庄に展開する神都軍四千。あと、東ノ庄付近の警戒に当たっていた橘樹(たちばな)様の私軍一千を抑えねばなりません。彼らはいまだ橘樹様に忠誠を誓っているはずです」


 大神官の執務室では、菊姫、波姫、時姫、雅姫(まさひめ)、利姫(としひめ)が神界の地図を見ながら今後の方針を考えていた。


「時姫、東ノ庄はあなたの旧領、何とかならないの?」


 波姫が時姫の顔を見る。


「私が出向けば東ノ庄周辺の庄長は、協力して橘樹軍を攻撃してくれることでしょう。ただ、土産は必要です」


「いいわ。その辺の母の旧領の一部はくれてやるわ。時姫、成功すればあなたにも東ノ庄をあげるわ」


 菊姫の言葉に時姫が頭を下げる。


「最大の懸念は月見ノ庄の神都軍です。彼らが神都に攻め入れば、我々の二千の兵では太刀打ち出来ません」


 雅姫の言葉に、沈黙が流れる。利姫が口を開いた。


「いま、月見ノ庄の現場は長期戦を呈しています。廻目(まわりめ)殿に、すぐさま落とせと命令するのはいかがでしょう。月見ノ庄を攻め落とせても、敗れても神都軍は弱体化するでしょう」


「どちらにしても神都軍は弱り、そこを叩けばよいという訳ね。よし、大神官名で命令しましょう。背けば逆賊よ」


 そう言って菊姫がにやりと笑う。


「ただ菊姫様。これだけ兵を動かすとかなり金がかかります。ただでさえ今は神館には金がありません」


 雅姫が帳簿を見せながら財政事情を説明する。


「やむを得まい、緊急時よ。各庄から臨時の税を徴収しましょう。代わりに祈祷札をくれてやればいいわ」


 その菊姫の言葉に、利姫が答えにくそうに言う。


「それが……愛姫様が……橘樹様がいないのをいいことにだらけ切ってしまって、草安命(くさやすのみこと)様と遊んでばかりいて祈祷札を全く造っていただけません」


「……神様ばかりはしょうがないわね。まあいいわ。今回の臨時徴収の代わりに、来年はその分税を軽くすると伝えなさい」


「承知しました」


「みんないいい? この一か月が正念場よ。新しい神界を造るのよ!」


 菊姫はそう言って、四人を見渡した。




 翌朝、早速時姫は出発した。


 神館を出た時姫は、完全武装して馬にまたがり、振り返った。


 時姫の背後には、同じく完全武装して騎乗した『訴訟前裁き処』の部下百名程が付き従っていた。いずれも多くが庄長を務めていた一騎当千の強者達であった。


 前夜、時姫は波姫に、自分は忠実な部下であること、兵を率いて戻ってきた際は、波姫のどのような指示にも従うことを誓った。


 波姫はさも当然と言った感じで高笑いしていた。


(愚かな三姉妹です。こちらが流す噂を簡単に信じて引っかかる。やはり神界をあの者達に任してはおけませんね。掃除が必要です)


 時姫は部下達に向かって声を張り上げた。


「これからが私達にとって正念場です! この場所に再び帰ってくるときは、すべてを決する時です! 私達の誇りを取り戻すのです!」


「応!」


 姫達が覚悟を決めた声で応える。


 滝姫が時姫に言った。


「我らは神館に囚われ、一生下働きとしてこの命を終えるものと覚悟しておりました。時姫様のおかげで今、自分達の誇りを、家族を、奪われたものすべてを取り戻す機会を与えていただきました。この御恩に報いるため、我らの命、すべて時姫様にお預けいたします」


「応!!!」


 姫達の目は、覚悟を決めた武士の目をしていた。


 時姫は姫達を見て、自分自身に誓った。


(私は負けません。必ず兵を率いてこの神都に帰ってきます。そしてこの姫達と、新しい神界を造ってみせます)





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