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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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88.もっちゃんの回想 4

 華姫(はなひめ)は、医者から子供を産むことは無理だと言われていたが、時姫と雪姫という二人の娘を産んだ。華姫は自分の中に残っていたすべてのものを二人の娘に分け与えたかのように、子供を産んだ後はよりいっそう病気がちになった。


 それでも、まわりもびっくりするような優秀な娘二人の成長を見て、華姫は本当に嬉しそうにしていた。


「基久(もとひさ)の血が混じるから、もやしみたいのが生まれてくるかと思った」


「華姫と基久の子供など、どれだけひ弱な子供が生まれてくるかと思ったが、春姫様に匹敵するような神童だ」


 東ノ庄に優秀な跡継ぎを残す。


 子供を産むなど到底出来ないだろうと諦めていた華姫にとって、このふたりの娘は宝だった。


 特に長女の時姫など、正直末恐ろしいほどだった。


 私が戯れで、三歳になる時姫に剣術の手ほどきをしたところ、もののみごとにボコボコにされ、三か所も骨を折られた。


 最初は三つの娘に骨を折られるなど、相変わらず基久はどうしようもないと笑われていたが、そのうち誰も何も言わなくなった。


 時姫は誰彼ともなくボコボコにしていたからだ。


「これ、時。あまり人をボコボコにしてはいけません。少しは手加減しなさい」


「父上、私は父上が弱いから私にボコボコにされたなどと言われるのが許せないのです。だからすべての者をボコボコにしてやります」


 そう言って時姫は、まったく誰にも手加減することなくボコボコにしていた。


 父として、嬉しいやら、何と言ってよいのやらだ。


 雪姫は、時姫のように理路整然と自分の意見を述べることは苦手だったが、時姫よりも気性の激しさを行動に出すタイプだった。


 雪姫は、小さい時から自分より強い男と結婚するのだと言って、周りの男子達に挑みかかってはボコボコにしていた。たまに物好きな男子が挑んでくることはあったが、悲惨としか言いようのない結果になった。


 時姫と雪姫がいれば東ノ庄は安泰。


 誰もがそう思っていた。




☆ ☆ ☆




 病弱な華姫に代わり、十六歳で元服した時姫が庄長になった。


 十六歳とは思えないほど完璧な庄長だった。

 

「時姫がいればこの鷹姫など、邪魔なだけだ」


 そう言って鷹姫様すら完全に引退してしまった。


 時姫は葉瀬(はせ)作磨(さくま)という、幼い頃から好き合っていた男と結婚した。


 私が言うのも何だが、ちょっと……というか、かなり頼りないところがある、あの時姫がどうしてこいつを選ぶのかなという男だった。まあ、好みは人それぞれなのでよいのだが……。


 時姫が庄長を継ぎ、結婚もして、私達夫婦に穏やかな時間が訪れた。


 今思えばあの時が私と華姫にとって、一番幸せな時間だったのかもしれない。


 ふたりで絵を描いたり、歌を詠んだり、近くの小川の土手につくしを採りに出かけたりと、本当に何でもないことが幸せだった。


 しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。


「神都から……愛姫様の『婿見せ』の勅使が来ました」


 私にそう言った華姫の顔は真っ青だった。


 春姫様が亡くなってまだ二年も経たないというのに、愛姫様は東ノ庄に牙をむいたのだ。さすがに東ノ庄に手を出すことはないだろうと、我々は油断していた。それと同時に、いままで春姫様に、東ノ庄がどれほど守られていたのかを思い知った。


「討てばいいだけの話です」


 時姫はそう言って平然としていた。


 その時姫を見て、皆は時姫なら春姫様と同じように愛姫様を討てるのではと噂した。確かに時姫の剣術の強さは並外れていた。豪の者と名高い月見ノ庄の待姫の娘、初姫も時姫には敵わなかったそうだ。東ノ庄近辺では時姫に挑もうとする者すらいない。


 神都へ『婿見せ』に向かう時姫と作磨を、私と華姫は庄館で見送った。


 結局、それが二人を見た最後になった。


 時姫が愛姫様に負けたのだ。


 華姫の悲しみ様といったらなかった。


 今までにも増して、寝込むことが多くなった。


「時が……あんな優秀な娘が一生神館で囚われの身なんて……」


 出来れば自分が身代わりになりたいと華姫は言ったが、そんなことは叶うはずもなく、東ノ庄の庄館にはただ重苦しい空気が流れていた。


「時姫が囚われているだけとは思えん」


 そう言って平然としている鷹姫様の態度は信じられなかった。この人には感情というものがないのだろうかと思った。


 日に日に華姫は衰弱していった。


「あなた、ごめんなさい。わたしがもう少し元気だったら、庄長をもう少し続けていれば、『婿見せ』に呼ばれるのは時ではなくわたしだったのかもしれないのに」


「わたしがしっかりしなくちゃ雪に申し訳ない。時の代わりになろうとあの子は頑張りすぎている」


 そう言いながらも、誰の目にも華姫の最後が近づいているのが分かった。


『たぶん華姫は今回は大丈夫っす』


 あの貧相な男は『今回は』と言った。


 きっと今がその次なのだろう。


 今ではもう五峰(いつみね)神社の神札は売られなくなって久しいという。


 私は華姫の手をずっと握っていた。


 あの貧相な男は、今思えば神様だったのかもしれないと、私は思った。


「どうか神様、華姫を連れて行かないでください。私から華姫を奪わないでください。華姫はもっともっと幸せになっていいはずです。お願いします、神様!」


 私は神様に祈った。


 自分の命を代わりに捧げてもいいと祈った。


 でも、神様は私ではなく、華姫を連れ去ってしまった。


 私のすべてが無くなってしまった。





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