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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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84.鈴姫の首

「そうか。頼光(らいこう)が勝ったか」


「はい。南ノ庄の鈴姫率いる反乱軍一万は、神都軍により壊滅。圧勝にございます」


 大神官冬芽(ふゆめ)橘樹(たちばな)に第四神官大町(おおまち)柳木(やなぎ)が笑顔で奏上した。


「初姫はどうした」


「現在、月見ノ庄へ数馬多比人とともに撤退中とのことです。兵部官長が追撃中でございます」


「そうか、よくやった。頼光に伝えよ。防人を無理に討たずとも、無力化すればよいとな」


「ははっ」


 そう言って頭を下げた柳木が、脇にあった桐箱を机の上に置く。


「鈴姫の首にございます」


 橘樹が嬉しそう笑う。


「開けよ」


 控えていた男の兵士が桐の箱を開けると、中から塩漬けにされた鈴姫の首が出てきた。


 名門南ノ庄の庄長である鈴姫は、三十代前半の美貌で知られた女性だった。しかし、髪が乱れ、歯を食いしばり、目を見開いたままの塩漬けにされた首は、醜く、無念さにあふれていた。


「きゃああ! 早く、早くそんな不吉なもの! 早く仕舞いなさい!」


 鈴姫の首を見た菊姫が、恐怖のあまり兵士に命令する。


「菊姫よ。これが兵を挙げるということだ。ひとつ間違えば、首になるのは我らかも知れぬのだ。よく見ておくがいい」


 桐の箱の蓋を戻そうとした兵士を手で制しながら、橘樹がそう言った。


「何をお母様は言っているの! この神聖な神館にこんなものを持ち込むことを許すなんて、どうかしているわ! そもそも、わたしから軍への命令権を剥奪したのはどうしてよ! 自分の娘よりあの廻目(まわりめ)とかいう男を信用するなんて、どうかしているんじゃないかしら! お母様は耄碌したのよ!」


 菊姫は激高しながら喚きたてた。


 橘樹はゆっくりと菊姫に言った。


「菊姫よ。お前は私の大切な娘だ。私がここまで頑張ってきたのは、自分の家族を守りたかったからだ。菊姫、毬姫、波姫。お前達こそ、私の宝なのだ」


「あなたが大切なのは、最初の旦那と、死んだ子供でしょ! わたし達のことなんてこれっぽっちも大切なんて思ってもないくせに! わたしの持っている庄なんて、あんたの半分しかないじゃないの! 軍への命令権を剥奪されて、わたしはいい笑い者よ!」


 怒り狂った菊姫を見て、橘樹は力なく首を振った。


「菊姫様、大神官様に対してあんまりです。お控えください」


「お前はうるさい!」


 そう言って菊姫は大町柳木を蹴りつけた。


 そのはずみで鈴姫の首が机から落ち、菊姫の足元に転がった。


「ひいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」


 菊姫が叫びながら半狂乱で政庁から出て行った。


 疲れ切った顔で橘樹が退出していく。


 第五神官として出席していた時姫が、政庁からの帰り道、波姫に耳打ちする。


(本日の菊姫様の御様子を見て、やはり次の大神官様は波姫様こそふさわしいと確信いたしました)


 波姫が笑いながら時姫に耳打ちする。


(やっぱりそう思う? あんたが鈴姫の首を政庁に持って行ったらって言った時はびっくりしたけど、あんなにビビるなんて。菊乃姉さんは大神官の器ではないってみんな分かったんじゃない?)


 時姫と波姫が顔を見合わせて笑い合う。


 波姫と別れた後、時姫はひとりほくそ笑んだ。


(もともと鈴姫はいけ好かない女でしたが、最後に良い働きをしてくれました。あと、菊姫様にはまだまだ活躍していただかねばなりませんね。さらに追い込んでおきましょう)


 翌日から、神館内では誰が言うともなく、大神官様は菊姫様を第一神官から降格し、代わりに毬姫様を昇格させるおつもりだという噂が流れた。


 その噂を信じてか、菊姫は自身の館から、病気療養と称して一歩も出てこなくなった。




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