79.覗き見エディ
南ノ庄軍では毎日大宴会が行われていた。
既に神界制覇の前祝いというわけだ。
今宵も大いに酔っぱらった衛伝ェ門は、塩屋関の館の周りを千鳥足で歩いていた。
すると館の陰に、怪しい人影を見た。
衛伝ェ門が近寄ってみると、懐かしい友人だった。
「三洲穂! 三洲穂じゃないか! どうしたんだよこんなところで」
「……違う……わしは三洲穂などと言う男ではない」
「何言ってるんだよ三洲穂! 俺だよ、衛伝ェ門だよ。あだ名はエディって呼ばれてた俺だよ」
「……人違いだ……わしは三洲穂ではない……権三郎だ」
「南ノ庄からみんな来ているよ。五郎だろ、三木助だろ、拓也に幸一郎も来ているよ」
「おい、この辺りには神都のシノビがいるかもしれない。不用意なことを言うな!」
「あとね、藻一郎に町彦、次郎に太助も来ているよ」
「エディ! 不用意にしゃべるな! シノビに聞かれるぞ!」
「種乃介に彦一郎、菊太郎に杉ノ進までいるよ。みんな三洲穂がいるって言ったら驚くよ」
「エディ! だからわしは三洲穂ではなく権三郎って言っているだろう!」
「わしって何だよ。三洲穂はいつも自分のことを俺って言ってたじゃん」
「だから俺は……わしは権三郎だ!」
「そう言えば、これから鈴姫様の寝所を覗きに行くんだけど、一緒に行かない?」
「……何?」
「今日の飲み会の余興で、腕相撲大会をやったんだよ。そうしたら酔っぱらった鈴姫様が、優勝したら一晩自分に何でもしていいって言ったんだ」
「……それでエディ……誰が勝ったのだ」
「ちょっと目が怖いよ三洲穂。勝ったのは彦一郎だよ」
「……あの、巨大なもので有名な彦一郎か……」
「そうだよ、面白そうだろ。だからこれからみんなで鈴姫様の寝所を覗きに行くんだ。三洲穂も一緒に行かないか」
「……行く」
「ほんとに三洲穂は鈴姫様のこと好きだなあ」
「お、俺が義妹のことを好きな訳ないだろ! こ、これは義兄として心配というか、何と言うか……」
「三洲穂の鈴姫様好きは有名だからなあ。水場でやってたってみんな知っているよ」
「……本当なのか……エディ……」
「鈴姫様は自分とやった男の遍歴を、寝物語にぺらぺらしゃべるからなあ」
「おい……エディ……お前も……やったのか……」
「あ、藻一郎だ! お~い三洲穂も一緒に行くってさ!」
こうして節枝三洲穂は、自分の義妹の寝所へと覗きに行くことになった。
☆ ☆ ☆
「三洲穂、何だよその恰好? 笑っちゃうんだけど」
「黙れエディ。変装だ」
三洲穂は手拭いでほっかむりをしており、さながらドジョウ掬いの男のようだった。
「いや~三洲穂は神都の学校に通っているとばっかり思っていたけど、まさかこんなところにいるとはなあ」
「ほんとほんと。鈴姫様への想いを断ち切るために神都に行ったのに、こうして一緒に覗きに行くとはね」
「……藻一郎……お前、何でそんなことを知っているんだ」
「だって、鈴姫様がそう言っていたよ」
「……お前も……鈴とやったのか……」
「あ、三洲穂、そろそろ鈴姫様の寝所だよ」
そう言って藻一郎が寝所の襖に手をかける。
寝所の中からはひい、ひいい、と悩まし気な小さな声が聞こえる。
藻一郎がそうっと襖を開ける。
男達がその隙間に鈴なりにへばりついて目をこらず。
「「「うわあっ」」」
男達が密集した勢いで、襖が開け放たれた。
寝所には、一人ですすり泣く彦一郎がいた。
「ひいい、ひい。ひいいい、ひいひい」
右手には自分のフニャフニャのものが握られていた。
「どうしたんだ、彦一郎! フニャフニャじゃないか!」
「鈴姫様はどうしたんだ! フニャフニャだぞ!」
「何を泣いているんだ! フニャフニャ彦一郎!」
男達が心配して彦一郎に声を掛ける。
すすり泣く彦一郎が、男達の声掛けに慰められ、ようやく口を開いた。
「鈴姫様が……今晩は……防人様の寝所に夜這いに行くから……俺の相手は出来ないって……あんまりだ……あんまりだよう……腕相撲死ぬ気で頑張ったのに……ひい……ひいい、ひ~ん」
「泣くな彦一郎! フニャフニャでも泣くんじゃない!」
「お前はよく頑張ったよ! フニャフニャでも頑張ったよ!」
「十分大きいよ! フニャフニャでも偉い人はたくさんいる!」
「み、みんな……う、う、う……ありがとう!」
南ノ庄の男達はひしと抱き合った。
(やはり、俺の敵は防人か! 俺からすべてを奪っただけでなく、義妹までも奪うのか!)
三洲穂は刀を持つ手に力を入れて、防人への憎悪をたぎらせた。
そんな時、エディがみんなに言った。
「それはそれとして、防人様の部屋を覗きに行かない?」
「エ……エディ……おまえ……天才か?」
男達は防人の部屋を覗きに行くことにした。




