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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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78. 塩屋関

 多比人は、神都攻めの方針決定を先送りした。


 初姫の提案により、まずは七千五百に膨れ上がった将兵を収容するために、手狭な刈坂関(かりさかせき)から北に進軍し、広い敷地を有する塩屋関(しおやせき)を攻略することにした。


 東西に主要な街道が交差する塩屋関は、戦略的に重要な地点であり、かなりの神都側の抵抗が予想されたが、結果は無血入場であった。


 塩屋関の守備兵一千は、戦うことなく逃げ出した。


 多比人達の軍は大いに盛り上がった。


 それを見て、さらに多くの庄の兵達が合流し、軍はさらに膨れ上がった。


 日々戦勝祝いが行われ、将兵は勝利の美酒に酔いしれた。


 総大将だけは、愛想笑いをしながら雪姫のいる自分の部屋に帰って行った。


 雪姫を恐れ、誰も引き留める者はいなかった。


 べろんべろんに酔っぱらった楓が、多比人の部屋に千鳥足で入って来た。


 手には酒とつまみがてんこ盛りになった大皿を抱えている。


「あるじ~! あるじも一緒に飲みましょうよ~!」


 そう言いつつ部屋に入り、戸を閉める。


 すると酔っぱらっていたはずの楓が、酒と大皿をそっと畳の上に置く。


 部屋の中にいた多比人と雪に、唇に人差し指を立てて静かにするように伝える。


 楓がさっと飛び上がったかと思ったら、天井の板を外し、天井裏へと入って行った。しばらくして出てきた楓が言う。


「主、この部屋のまわりに間者はいません、大丈夫です」


 楓は多比人に報告する。


 酔っぱらったふりをして、楓は各軍の様子を探っていたのだ。


「こりゃだめですよ。特に鈴姫の軍は軍紀も何もあったもんじゃない。周辺の民家から、兵糧徴収と称して勝手に家畜を奪ってきて食っています。押し込み強盗まがいのことをしている輩もいますよ。完全に無法状態の烏合の衆です」


「初姫様の軍は?」


「静かなもんです。酒も飲まずに質実剛健なことですね。交代で周囲を警戒していて、鈴姫様の軍すら信用していない感じです。それもどうかと思いますけど」


 多比人は溜息をついた。


「一万くらいの大軍に膨れ上がったけど、中身って重要なんだね。戦国武将の小説なんかで読んでもよく分からなかったけれど、こういう中に身を置いていると、本当によく分かるね」


 持って来たつまみを食べながら、楓が酒を飲む。


「主、これ、やばいですよ。はやくこの軍から離れたほうがいいと思います。こんな奴らの責任取らされるなんてバカですよ」


 楓が言うことも、もっともだと多比人は思う。


「そうは言っても、僕は総大将だしなあ」


「きゃあ~! 総大将様~! 素敵ですぅ~!」


「うるさい! やめろ楓!」


 楓に怒りながら、多比人がちらと雪を見る。


 雪の無表情が怖い。


「じゃあ、解散命令出しちゃったらどうです? 全員帰宅って」


「今そんなこと言ったら、暴動が起きちゃうよ」


 多比人は、軍というものは大将の言うとおりに動くものだと思っていた。しかし実際には、軍とは生き物で、その欲求の通りにしか動かないものだと思い知らされた。


「まあ、指揮は初姫様に任せると決めたし、お手並み拝見と行くよ」


 そう言って多比人もつまみを食べ始めた。


「あの初姫っていうのも食えない感じですよね。それとなく探ってみたら、この関に神都からの援軍が来ていないこと、最初っから知っていたみたいですよ」


「そうなの? それで塩屋関に行こうって提案してきたのか」


 楓の言うことが本当なら、初姫は多比人にすべての情報を伝えていないし、鈴姫は軍紀がむちゃくちゃ。有能な戦国武将ならこの二人を使いこなしたりするのかと、多比人は思った。とてもじゃないが、自分には無理だ。


「それはそうと、歩いていると、いろんな人から『雪姫様ってどんな人なの』とか、『雪姫様って強いですね』って言われます。よっぽど防人様である総大将をボコったのが効いてるみたいですね」


 雪が顔を真っ赤にして俯く。


「『総大将様おかわいそう』って言われました。クケケケケ」


「多比人様申し訳ありませんでした。雪が嫉妬に任せて怒ってしまったせいで……総大将たるもの、女性からモテモテなのは当然です。妻として覚悟していたつもりだったのですが、あまりにもイチャイチャしていて……」


 そう言って雪が多比人に頭を下げる。


「え、嫉妬って、雪が焼きもち焼いてくれたってこと?」


「はい……焼いてしまいました。大量に……」


「それってやっぱり……僕のこと好きってこと?」


「大好きです」


「雪さん……僕もだよ」


「えっと、わたしおトイレ行ってきます」


 楓はそう言って部屋を出た。


(主と雪姫様がラブラブなのは良いことですが、狭い部屋でイチャイチャされるとわたしの居場所がなくなって困ります。はあぁ、しょうがありませんね。今日も時姫様が放ったシノビ達に、テンコ盛りに盛った主の武勇伝でも聞かせてやりますか。あいつらお育ちが良いというか、わたしの言ったことを何でも素直に信じるから面白いのです。クケケケケ!)




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