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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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73.第五神官

「時姫を第五神官に……だと……」


 大神官冬芽(ふゆめ)橘樹(たちばな)は波姫からの意外な提案を受け、思案していた。


 目の前で平伏している波姫の後ろで、同じく平伏している時姫を見る。


(残念なことだが、能力において我が娘達は時姫に遠く及ばない。このような国難とも言える非常時に、娘達は次の大神官の座を狙うことと、自分達の利益のことばかりだ)


 橘樹はちらと第四神官の大町(おおまち)柳木(やなぎ)を見る。


(柳木は私の草創期からの腹心。片腕とも言っていいが、自ら献策したり、私に意見することはない。忠実に私の言ったことを成すだけだ)


 もう一度、橘樹は視線を時姫に移す。


(相手は神界にこの人ありと言われた初姫だ。娘達だけでは敵うまい。もともと時姫は初姫と争っていたと聞く。今は非常時だ。この橘樹が時姫を使いこなしてやろうか)


「時姫、顔を上げよ」


 橘樹の言葉に、ゆっくりと時姫が顔を上げた。


「時姫、現時点でのお前の策を述べてみよ」


 菊姫達が動揺する。神官や高官でもない者に、大神官が政策を諮問するなど異例なことであった。


 時姫が堂々と淀みなく回答する。


「恐れながら申し上げます。我ら神都の強みは何と言っても愛姫様を擁していることでございます。愛姫様には申し訳ありませんが、祈祷札を増産し、いっそ無料で配布するというのはいかがでしょうか。そうすれば斑病(まだらびょう)は祈祷札によって治り、民の不満は収まり、初姫は反抗する名目を失うことでしょう」


 時姫がさらに続ける。


「そして私が神都で精一杯救民処を運営します。そうすれば、民は大神官様のお慈悲に感じ入り、世も治まることでしょう」


 そう言って平伏する時姫を見ながら橘樹は思った。


(世を丸く治めたければ自分を第五神官にしろという訳か。食えぬ娘だ。さすがは春姫の一族よ。ただ、時姫は愛姫様の結界で、神館から一歩も出ることが出来ぬ身。始末しようと思えばいつでも始末出来る。それまでは使い倒してみるのも手か)


「さすがは時姫、あっぱれな献策である。お前を第五神官に任じよう。心して救民処の運営に励むがよい」


 心にもない笑顔を作り、橘樹がにっこりと微笑む。


「身命を賭して励みます」


 そう言って時姫が再び深く頭を下げる。口元に出てしまう笑みを気づかれないように。




 自分の知らないところで話が進み、最も被害を受けていたのは愛姫様だった。


「もう限界じゃ~! どれだけ祈祷札を造ればいいのじゃ! もうたくさん造ったのだ!」


「あと十万枚です、愛姫様。さあ頑張るのです!」


「十万枚って……十の次が百で、その次が千で、その次が万で、その次が……嫌じゃ! そんなに造りたくない! 妾はお祭りに行きたいのじゃ~!」


 橘樹が暴れる愛姫様を抱えながら説得する。


「民が大勢斑病で苦しんでいるのです。民が愛姫様の祈祷札を待ち望んでいるのです。さあ、御辛抱ください!」


「もう嫌じゃ~! 完全に飽きたのじゃ~! 夢の中まで祈祷札が出てくるのじゃ~!」


「これが終わったら『婿見せ』させてあげますから!」


「……本当? 本当か橘樹? 『婿見せ』させてくれるのか?」


「いいですともいくらでもさせてあげます」


「やった~! 強い奴と戦いたいのじゃ! 強い奴を連れて来てくれ!」


「いいですよ。飛び切り強いのを連れて来ます。ですからさあ、祈祷札を造りますよ!」


「……わかったのだ……頑張るのだ……」


 今日もずっと部屋に缶詰にされ、ひたすら祈祷札を造り続ける愛姫様を、女官達が遠くから心配そうに見守っていた。




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