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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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7.はじめての夜伽

 多比人は用意されたダブルベットほどもある大きな布団に入りながら考えていた。桐の箱を抱えて古舞山に向かった朝。雪に斬り殺されかけ、祖母の妹の鷹姫に再会し、雪と婚約したこと。本当にいろいろありすぎる一日だった。


 しかしそんなことより、多比人には気になることがあった。


(鷹姫様もみんなも、いや、雪自身でさえ神様を討つ、愛姫様を討つことに夢中だ。これって、雪の姉さんである時姫様を取り戻したいってことなのかな)


 燭台に灯された蠟燭の火がわずかに揺れて、天井に映る影が揺れる。


(誰も、雪を幸せにしろと僕に言わなかった)


 多比人は心の中の違和感の正体を考えてみた。


(結婚って、女性にとってとても重要なことだと思うけど、雪も姉を救うために僕と結婚したいと言っていたし、誰もそれが当然のようだった。雪の幸せってどうなのかな)


 天井で揺れる蝋燭の影を見ながら、多比人は雪のことを考えていた。


「多比人様、起きていらっしゃいますか。入ってもよろしいでしょうか」


 襖の向こうから雪の声がした。


「ゆ、雪? 起きているけど」


 多比人がそう答えると、襖がすっと開いた。寝間着姿の雪が入ってきて多比人の前に座り、三つ指をついた。


「ど、どうしたの?」


「よ、夜伽(よとぎ)に参りました」


「夜伽!!!」


 多比人はびっくりして大きな声を出してしまった。


「はい。多比人様はわたしと結婚し、愛姫様を討つと言ってくださいました。それは大変な危険を伴うことです。それに引き替えわたしは剣の腕も姉には遠く及ばず、実際の戦いではあまりお役に立つことは出来ないでしょう。ほかに得意なこともございません」


 雪の黒い瞳の中で蝋燭の炎が揺れていた。


「では、せめて夜伽でもして、多比人様をお慰め差し上げたいのです」


 雪は本気で言っているのだと、多比人は思った。よく見ると雪の細い手が小さく震えている。


「雪、ありがとう。嬉しいよ。でも、僕達は婚約したとは言え、まだ今日知り合ったばかりだよ。そういうことは、もう少し一緒の時間を過ごしたり、おしゃべりしたりして、自然にそういう気持ちに二人がなってからにしようよ」


「……でも、わたしには他に何もありません。わたしの夜伽など、お嫌ですか」


「雪が何もないなんて、そんなことないよ。僕は雪と初めて会った時、斬り殺されそうになっているのに雪の美しさに心を奪われたよ。僕は君に一目惚れしちゃったんだよ。君が望むなら神様だって討つよ。好きな娘の前でかっこつけたいんだ。雪の姉さんを助けて雪も幸せにして見せる」


 多比人は気になっていたことを、思い切って聞いてみる。


「……そんなことより、本当に結婚相手が僕でいいの? 年だって結構離れているし」


 雪はうつむいたまま、しばらく何も言わなかった。


「あの、では……くっついて寝てもよろしいでしょうか」


 そう言うと雪は、多比人の布団に入ろうとした。少し見えた顔は真っ赤だった。


「きゃああああああ!!!」


 布団に入り込もうとした雪が、突然あられもない叫び声をあげた。


 めくれ上がった布団の中から、すました顔をして楓が現れた。


「雪姫様、たとえ婚約したとは言え、ご結婚はまだの女性が男性の布団に入るなど、言語道断にございます。茅原野家の御令嬢として恥ずかしくないのですか」


 楓は布団の上で座り直すとそう言った。


「楓、いつからそこにいたの!」


 多比人がびっくりして尋ねる。


「わたくしは主様のシノビ。いついかなる時も主の側で身を守るのは当然の務めです」


「楓! あなた、わたしの夫の布団に入り込むなど許されると思っているの! そこに直りなさい!」


 雪が立ち上がって楓に指を差してそう言った。


「雪姫様、わたしはもう茅原野家の家人ではなく、多比人様のシノビです。あなたの御命令を聞く謂れはありません。さらに言えば、主はまだあなたの夫ではありません。我が主、安心してください。主の貞操はわたしが守ります」


「……も、もう知りません!」


 そう言って踵を返し、雪が部屋を出ようと襖を開けた。


「ひぎゃあああああ!!!」


 雪がその美しさに似つかわしくない叫び声をあげる。


 開けた襖の向こう側には、人が鈴なりでへばりついていた。襖の外で聞き耳を立てていたようだ。あっという間にみんな雲の子を散らすように逃げて行った。


「チェッ、やらねえのかよ」


「雪姫様のおっぱい見たかったなあ」


「多比人様の意気地なし!」


 みんな口々に勝手なことを言いながら去って行った。


 どうやらこの館にプライバシーはないらしい。


 呆然としていた雪は、はっと気がつくと、一度こちらを振り返ってから足早に出て行った。


「ふふふ、やっと出ていきましたね、あの女狐。主様、安心してください、主の貞操はわたしが死守します」


 そう言って再び布団の中に潜り込もうとした楓に、多比人が言った。


「おまえも出て行け!」




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