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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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66.エロおやじ

 多比人達は、宿の近くの居酒屋に入り、ちびり、ちびりと酒を飲み始めた。


 地域の情報を得るのには、酔っ払いと話すのが手っ取り早い。


 特に、各地を回る商売人は様々な情報を持っている。


「何でい、あんたら南へ行くのか。悪いこと言わないからやめときな」


「南の方は疫病が流行っているよ。庄境を閉じる庄が多いから、こちとら商売あがったりだよ」


 神界を行き交う商人達の懐を、疫病は直撃しているらしい。


「まあ、ここのエロおやじの庄だけは別だがな」


「逆にエロおやじは疫病に乗じてウハウハらしいぞ」


 エロおやじと言うパワーワードが気になって、多比人が商人達に聞いてみる。


「エロおやじって何ですか?」


「何だい兄ちゃん知らねえのかよ!」


 商人達はそれはもう、詳しく教えてくれた。


 この和名倉(わなくら)ノ庄の庄長が、筋金入りの幼児趣味の変態らしく、『エロおやじ』と呼ばれているそうだ。


 その『エロおやじ』は、親の貧しさに付け込んで子供を男女問わず安い値段で買い叩き、自分の館に集めて毎晩変態的なエロいことをしているらしい。その館は、誰が呼んだか今では『エロおやじの館』と言われているそうだ。


 しかも最近の疫病の流行で経済的に困窮した家庭が増え、館に子供を売りに来る親は増える一方らしい。エロおやじはそれを喜んで買っているそうだ。


「そんな人身売買が許されるのですか」


「それよ、兄ちゃん。その変態は大神官様の息子様だ。誰も神都に訴え出る奴なんていないよ」


「それにな、子供を売ることで食い扶持が減って喜んでいる親もいるんだよ」


「ここらじゃちょくちょく、いいところに連れて行ってやるって子供をだまして連れてくる親を見かけるよ」


 多比人は暗い気持ちになった。


「子供を売る親も親なら、買う奴も最低ですね。主! そいつらぶった斬ってやってくださいよ!」


「楓! 飲み過ぎです!」


「あ~雪姫様! お酒だけはとりあげないで! あ、そう言えば、雪姫様って最近特にお綺麗ですね! 道行く男性が今日も振り向いていましたよ!」


「そ……そうかしら……お酒は今日だけですよ」


「は~い!」


 最近は疫病を恐れ、庄境を閉ざしてしまう庄が多い。自分の変態趣味のためとは言え、感染しているかもしれない子供を受け入れたりするのだろうか。


 大神官は、愛姫様に仕える最も身分の高い家臣だ。いずれ愛姫様を討つためにも、大神官のことは知っておきたい。子は親の鏡と言う。大神官の息子がどんな男か見てみたいと、多比人は思った。




 その晩、多比人はほろ酔い加減で宿に帰ってくると、風呂を浴びてのんびり部屋でくつろいでいた。すると宿の主人が多比人の部屋を訪ねてきた。


「多比之介様、ちょいと、私の知り合いがお話したいことがあると申しているのですが、よろしいでしょうか」


 多比人が楓を見ると、頷いている。


 ひととおり宿の周囲を楓に確認してもらっていたが、怪しい気配はなかったらしい。用心のため、多比人は北ノ庄のちりめん問屋の多比之介ということになっていた。


「はい、いいですよ。どなたですか」


 多比人がそう言うと、笑顔の人の良さそうな初老の男が入って来た。


 そして、多比人の前に正座し、頭を下げた。


「防人様、突然お邪魔して申し訳ありません。この和名倉ノ庄の庄長、冬芽(ふゆめ)鹿野(しかの)と申します」


 びっくりした多比人の横で、雪と楓が身構える。


「これはこれは。私は防人様に害をなすために来たのではございません。お願いがあってまいりました」


 鹿野はそう言ってにっこり笑った。


「どうして私が防人だと分かったのですか」


「この庄には関所の税がなく、たくさんの商人が行き交う流通の要所です。私はそれら商人達と懇意にしているのです」


「商人達の情報網を甘く見てはいけないと言うことですか」


「そういうことになりますなあ」


 そう言って、鹿野は笑った。


「それで僕に願いとは何でしょうか」


「防人様は病を(はら)えるとお聞きしました。我が庄から病を祓っていただきたいのです。当然、タダとは言いません」


 鹿野は懐から包みを取り出し、それを開いた。


 小判がどっさりと入っていた。


「庄から病を祓うことは承知しました」


「さすが防人様。話が早くて助かります」


「お金はいりません、その代わりと言っては何ですが、教えていただきたいことがあります」


「はて、この小判の代わりになるような情報を、私が持っているとも思えませんが」


「鹿野さんは、幼児を集めていると聞きました。そしてエロおやじと言われていると聞きました。しかし、あなたを見ているととてもそのようには見えません。その理由を教えていただけますか」


 鹿野は嬉しそうに笑った。


「当代の防人様は素晴らしいですな。これでは妹達はおろか、母でさえも敵いますまい。そんなことでよろしければお話ししましょう。ただ、こればかりは私の口から言うよりも、実際に見ていただいた方が良いと思います」


「見た方が?」


「はい。明日、我が館にお越しください。そこで庄の病を祓っていただいた後、防人様に見ていただくとしましょう」


 そう言うと、鹿野は奥様のお化粧代の足しにと言って、小判を置いたまま帰っていった。


「主、相手は大神官の長男ですよ。このままここにいて大丈夫でしょうか」


 楓が不安そうに聞く。楓は自分が気づかないうちに、大神官の息子に自分達のことを探知されたのがショックだったようだ。


「逃げるのであれば、わたしが露払いします」


 雪が、隠し刀を仕込んである杖を握る。


「多分向こうの方が僕達より数枚上手だよ。殺すつもりならもうとっくに殺されている。ここはじたばたしないで、明日はたっぷり『エロおやじの館』を見学させてもらおう」


 そう言って、多比人は宿の二階から見える、賑やかな和名倉ノ庄の通りを眺めていた。



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