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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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63.病み祓い

 朝食を食べた後、多比人達が出発の準備をしていると、階下から女の叫び声が聞こえた。


 何やら帳場のあたりが騒がしい。


 多比人は自分のいる二階の部屋から、様子を見に帳場へと降りて行った。


「逃げろ! 斑病(まだらびょう)だ! 伝染るぞ!」


 客達が口元を袖で押さえながら叫んでいる。


 帳場では、板前姿の男が震える手で女の子を抱えていた。


 昨日、帳場で多比人に対応してくれた女の子だった。


「娘が! 娘が! 斑病に!」


 板前姿の男は女の子の父親なのだろう。女の子を抱えながら混乱している。


 皆がその父娘から距離をとって見つめる中、多比人はつかつかと近寄って父親に聞く。


「落ち着いてください、どうされたんですか」


「娘が、娘が斑病になっちまった。先月はこの子の母親が斑病でやられたばっかりだっていうのに。何で娘なんだ! なんで俺じゃなくて娘なんだ!」


 父親は泣きじゃくりながら娘を抱いていた。


「突然女の子が帳場で倒れたと思ったら、斑が出てたんだよ! 何だよこの宿は! 客に病気を伝染すのかい!」


 客の女が口元を袖で隠しながら、ヒステリックに叫ぶ。


「斑病の子供が病気をバラまいているわ!」


「伝染ったら責任とれるのか!」


 客達が口々に騒ぎ立てる。


 女の子は目をつぶって、苦しそうにふうふう息をしている。


 多比人が見てみると、直径1cmほどの発疹が、女の子の顔から首筋にかけて広がっていた。


 きっと女の子は、具合が悪くても頑張って働いていたのだろう。


「斑が顔に現れると、普通翌日には死ぬっす」


 いつの間にか隣にいた草安(くさやす)が、多比人にそっと教えてくれた。


 母親を亡くした女の子が、気丈に頑張っていたのにもかかわらず、同じ病に罹って死ぬ。なんと(むご)いことだろうか。なんとやるせないことだろうか。


 自分は聖剣を持つ防人だと言うのに、こんな女の子一人も救えないのかと、多比人は口惜しかった。


「多比人さん、女の子を救いたいっすか」


 草安が多比人の耳元でささやく。


「あんまりお勧めしないっすけど、救いたいっすか」


 重ねて聞く草安に、多比人が振り向いた。


「俺もね、いろんな人間を見てきたっすよ。ほんとにいろんなね」


 貧相な笑いをしながら草安は続けた。


「偉そうなことを言う人間、理想を語る人間、愛を語る人間。でも、こんなぼろを着た瘡蓋(かさぶた)だらけの貧相な男に、ご飯を御馳走して宿まで一緒に過ごしてくれた人間は、初めてっす」


 瘡蓋を掻きながら草安は言う。


「なかなか出来ることじゃないっす。さすがっす。さすがは防人っす」


 多比人はその言葉に驚いて、草安を見る。


「聖剣『神祓(かみはらい)』は、病の神をも祓うことが出来るっす。あの娘の体に聖剣を当てるっす。そうすれば治るっす。庄に向けて『神祓』を振るっす。そうすれば庄から斑病は無くなるっす」


 そう言うと草安は、多比人の後ろに一歩引いた。


 そして、そっと多比人を女の子の方に押し出した。


 多比人が女の子の父親に言う。


「僕は東ノ庄の防人、数馬多比人だ。これより防人の聖剣『神祓』で斑病の神を祓う」


 多比人が右手を真横に出すと、白く輝く聖剣『神祓』が現れた。


 帳場の周りの人々、外から中を覗き込んでいた人々から驚嘆の声が上がる。


 多比人は聖剣を、父親が抱く女の子の肩にトンと置いた。そして剣を上げると、手の中に戻した。


 びっくりしたように父親が多比人を見つめている。


 父親が、多比人からゆっくり女の子に目を戻した。


「斑が、斑が消えている!」


 父親が叫ぶ。


 それを確かめようと、さっきまで自分は伝染りたくないと避けていた人達が、女の子を覗き込む。


「本当だ、本当に治っている! 防人様だ! 防人様が奇跡を起こされた!」


 辺りは大騒ぎになった。


 この大騒ぎに紛れて多比人達が宿から出てくると、いつの間にか草安の姿は消えていた。


「何者だったんですかね、あの草安っていうの」


 楓が頭の後ろで手を組みながらそう言った。


「不思議な方でしたね。どうして多比人様のこと、防人様だと知っていたのでしょう」


 雪が訝し気に多比人の方を見る。


 多比人は首をかしげながら言った。


「たぶん、知っていたのではなく、防人だって僕を見てすぐに分かったんだろう」


「何ですか? 防人様って外から見て何かわかるものってあるんですか?」


 楓が興味津々に聞く。


「僕も良く分からないよ。多分、草安さんは、そういうのが分かる人だったのじゃないかな」


 多比人は歩きながら思った。


(草安さんは僕のことを防人って言っていた。ふつう神界の人は防人様って"様"をつけるのに、同等、いやそれ以下の者を呼ぶように言っていた)


 多比人は草安の、瘡蓋だらけの貧相な顔を思い浮かべる。


(そして、『神祓』のことをよく知っていた。草安さんって一体何者だったのだろう)




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