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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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61.或る日の大神殿

 ここは神都の中枢である神館。


 その神館の最奥に位置する大神殿の中でも、最深部にあるのが愛姫様の寝所であった。


 御簾の奥に見える愛姫様のお姿は、悩ましいほどに美しかった。


 年齢は二十四、五歳であろうか。静かに寝息を立てているあどけない顔は、ほんのりと薄桃色に染まり、息をするのも忘れるほどの美しさ。その顔にかかる銀髪は薄く光り、腰まで流れていた。


 体からは光の粒子がわずかに立ち上り、御簾の外にまで甘い香りが漂っている。


 神とはこれほどまでに至高の存在なのだろうかと、誰もが思わず平伏してしまうだろう。


 そんな神聖な寝所の空気が、遠くから聞こえてくるドスドスという足音によって、侵されている。


 その大きな足音は、寝所の中に入ってくると、その足音の主の大声に変わった。


「愛姫様! やっとお帰りになられましたか!」


 声の主は相当怒っているようだ。


「お起きください! 何時だと思っているのですか!」


「……もう牛串は食べられないのじゃ……」


「愛姫様! 寝ぼけている場合ではありません!」


 御簾がぱっと開けられた。


 そこには、血相を抱えた大神官、冬芽(ふゆめ)橘樹(たちばな)が立っていた。


 橘樹が愛姫様の両肩を揺らす。


 愛姫様の布団の周りのメンコやビー玉、ベーゴマが散らばる。


 愛姫様の瞼がゆっくり開く。そして閉じる。


「愛姫様! 起きてください! 相変わらずどこをほっつき歩いていたのです!」


「……祭りじゃ……」


 目を閉じたまま愛姫様が答える。


「勝手に出て行ってはダメって何度も言っているじゃないですか! 橘樹はこの前そう言ったはずです!」


「……言った……」


「じゃあ何で勝手に出かけたのです」


「……だって……橘樹が許してくれない」


「それは愛姫様が祈祷札造りをサボるからでしょう。ちゃんと造ればおこずかい持って、お祭りに行ってもいいって言いました!」


 愛姫様が目を開ける。深紅の瞳が美しい


「祈祷札造りはもう嫌じゃ……面倒くさいし飽きたのじゃ」


「今は農作業で大切な時です。民が祈祷札を待ち望んでいるのです。愛姫様が祈祷札をお造りにならないせいで、祈祷札の値段はうなぎ登りです」


 愛姫様が口をとがらせる。


「前にやっていた神界全体に祈る方が良いのだ。疲れるけど一発でっかく祈る方が妾には向いておるのじゃ。ちまちま祈祷札を造るのは性に合わないのじゃ」


 橘樹が愛姫様の前に座りなおして言う。


「では、愛姫様を普段お世話している女官達のお給金はどうするのです。この神館で働いている者達のお給金はどうなるのです。日々のご飯もお金があるからこそ買えるのです。祈祷札を売らないと何も出来ませんよ。もとの洞窟暮らしに逆戻りですよ」


 愛姫様が急に飛び起きて、橘樹の体にしがみついて言う。


「洞窟は嫌じゃ! 洞窟暮らしはもう嫌なのじゃ~!」


「じゃあ、祈祷札造っていただけますね」


「……わかったのだ……」


「では、朝ごはん食べたら造りましょう。私もお手伝いいたします」


 そう言うと、橘樹は寝所から出て行った。


 愛姫様は、脇に転がっていた光るビー玉を指で転がしていた。


「……多比人が言うから家に帰ったのに……」


 ビー玉を転がして拗ねている愛姫様を、部屋の外で見ながら女官達が声を潜めて話す。


「愛姫様おかわいそう。祈祷札は、大神官様が神都軍を増強したからたくさん造らないといけないって聞いたわ」


「そうは言っても、愛姫様は大神官様のこと大好きだからね」


「そうなの?」


「あんた知らないの? 愛姫様は、幼い時に暗い洞窟の中にいたところを大神官様に拾われたのよ」


「拾われた!?」


「そう。大神官様は死んだ自分の娘が生きていればちょうどこのくらいになっているはずだって、もの凄く大切に愛姫様を育てたらしいのよ」


「自分の娘って……民から石を投げられて殺されたっていう……」


「そうよ。それで大神官様は、愛姫様を一生懸命育てて、廃墟だった神館も建て直し、ここまでにしたのよ。だから愛姫様は大神官様を実の母親のように思っていらっしゃるのよ」


「……大変な母親に育てられちゃったわね。でも、それだったら、愛姫様ってもっと年を取っていらっしゃるのではなくて?」


「あんた何も知らないのね。愛姫様って、二十代半ばまで成長すると、容姿はもうそのままらしいわよ」


「あら~羨ましいわね。女でもうっとりするほどお美しいのに、年を取らないなんて!」


「お前達! 油を売っていないで、早く愛姫様にお食事の用意をしなさい!」


「「「はい!!」」」


 後ろから聞こえた女官長の声に、女官達は慌てて立ち去った。


 女官達が立ち去った後、愛姫様がビー玉から目を離し、顔を上げてつぶやいた。


「……お兄様……」





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