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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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58.滅びゆく庄

「この野郎! またモッコを壊しやがって! 何度言ったら分かるんだ!」


「親方、すみません! すみません!」


 ここは西ノ庄に接する千両(ちぎり)ノ庄の建設現場。


 身長二メートルほどの大男が、小男の親方に怒鳴られ、小さくなって謝っていた。


 大男が身体を折れそうなほど曲げて、小男にぺこぺこしている様は哀愁が漂っていた。


「ドノの奴、また馬鹿力でモッコを壊しやがった」


「何度親方に怒られれば気が済むんだ」


 まわりの作業員達が、ドノとあだ名された大男を見ながら笑っている。


 ドノというあだ名は、『ウドの大木』の前後を省略してつけられたあだ名だ。つまり、大きいばかりで役に立たないことを意味している。


 ドノは堤の上に岩を運びながら、己の境遇を嘆いていた。


(侍大将だったこの俺が、どうしてこんなことに……)


 この男の本名は朽木(くちき)孝明(たかあき)。東ノ庄で侍大将を務めていた男だ。


 小さい頃から幼馴染の雪に恋焦がれていた。雪と結婚するという多比人を襲った挙句、神都軍の東ノ庄襲撃に際して敗走し、今は流れに流れ、ここで日雇いの土木作業員をしていた。


(雪……逢たいよう……無事でいるのかなあ……)


 朽木は遠くたなびく雲を見ながら、雪のことを想った。


「コラ~! ドノ~! またボケっとしてるのか~! お前は昼飯抜きだ~!」


「親方! すいません! すいません! 昼飯抜きだけは勘弁してくだせえ」


 朽木はそう言って慌てて堤の上から降りて行った。


 その建設中の堤の脇を、三人の旅人が歩いていた。


「あるじ~、これ、何作っているんですかね~」


「堤かな? 川が近くに流れているわけでもないし、何だろうね」


「それより多比人様、そろそろ西ノ庄に入りますよ」


 多比人一行は、西ノ庄へと向かっていた。西ノ庄は、神界で東ノ庄、北ノ庄、南ノ庄と並び、防人を擁した格式高い庄として知られている。百年程前、西ノ庄の防人は愛姫様との『婿見せ』に敗れ、それ以来西ノ庄には防人はいない。


 それでも、かつて防人がいたということで、多比人達の味方になってくれないだろうかと、西ノ庄を訪ねることにしたのだ。


「それにしても、西ノ庄に行くって言うと、この辺りの人は変な顔しますね」


 楓の言葉に、雪も同意する。


「この前、八百屋のおじさんに西ノ庄に行くと言ったら、やめておいた方がいいと言われました」


 多比人も、西ノ庄に行くと言うと、奇特な人達だなあという反応をされるのを感じていた。でも、防人として、かつて防人がいたという西ノ庄にはぜひとも行ってみたかった。防人である自分にとって、何か得られるものがあるのではないかと思っていた。


 しかし、多比人達は西ノ庄に入って、すぐに人々がどうしてそのような反応をするのか分かった。


 西ノ庄は廃墟と化し、土砂に覆われていた。というより、土砂に覆われたから廃墟になったのだろうか。


「……なんですか、これ」


 楓が小高くなった土砂の上に登ってみると、西ノ庄は土砂や倒木に覆われつくしていた。


「そう言えば北山さんが、西ノ庄と接する下界では開発が進み、それで西ノ庄の防人の力が弱まったって聞いた。これも下界の開発の影響なのかな」


 多比人はあまりにも荒涼とした西ノ庄の光景に、この原因が下界の開発だとしたら、祖母や北山さんが必死になって下界の土地を買い漁るのにも納得がいった。


 すでに辺りは夕闇が迫り始めていた。


「主! あそこに明かりが見えます!」


 楓が指さす方を見てみると、遥か遠くの小高くなった丘に、小さな家の明かりが灯っていた。炊事か何かをしているのか、たなびく煙も見える。


「もう暗くなってきたし、いずれにしても、あそこに行ってみよう」


 そう言って多比人達は、ぽつんと建つ、丘の上の家に向かって歩き出した。




 多比人達が家に着いた頃には、既に真っ暗になっていた。


 秋の夜の空気が肌寒い。


「夜分に申し訳ありません。旅をしているものです。どなたかいらっしゃりますか」


 多比人の声に、戸を開けて顔を出したのは老婆であった。


 その老婆は年をとっているものの、気品を感じさせた。


「これはこれは。お客様がこちらにいらっしゃるのはいつぶりでございましょう。さあ、中にお入りください」


 そう言って、老婆は多比人達を家の中に招いてくれた。


 囲炉裏の火が温かい。多比人は老婆の前に座り、挨拶をした。


「突然お邪魔して申し訳ありません。わたしは東ノ庄から参りました数馬多比人と申します。こちらは妻の雪、そしてこの娘は従者の楓と申します」


 そう言って三人は頭を下げた。


「ご丁寧なご挨拶、ありがとうございます。わたしは西ノ庄の庄長、吉姫よしひめと申します」


 老婆はそう言って頭を下げた。


 多比人は驚いた。この老婆が西ノ庄の庄長であったとは。この家は、神界でも格式の高い西ノ庄の庄館とは思えないほど小さかった。


 吉姫は多比人の気持ちを察して言った。


「本来の西ノ庄の庄館は既に土砂に埋もれました。庄民も西ノ庄を捨て、いまでは西ノ庄に住むのはわたし一人だけです。ここに一人で住んでおります」


 広大な西ノ庄のすべてが土砂に埋もれてしまったというのだろうか。防人がいたほどの庄の民がすべていなくなるとは、一体どういうことなのだろう。多比人は、ここには防人にとって知るべきものがあるような気がした。


「吉姫様。実は、私は東ノ庄の防人です。西ノ庄はかつて防人がいた庄。何か自分が防人として生きる上で、大切なものが得られないかとお訪ねした次第です」


 そう言って多比人は頭を下げた。


「そうですか。防人様でしたか。よくいらっしゃいました。西ノ庄が滅びようとしている今、こうして防人様がいらっしゃったのも何かの縁。この西ノ庄で何があったのかをお話ししましょう。それよりもまずは夕食にしましょう。ちょうど千両ノ庄に住む、娘夫婦が昨日野菜を持ってきてくれたところです」


 吉姫は、多比人達に質素だが心のこもった夕餉をふるまってくれた後、静かに西ノ庄で起こったことを話し出した。




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