55.奉納相撲
「ごっつあんです!」
力士達をとりまとめる親方が、二十人の力士を引き連れ、大会本部の尊姫のもとに挨拶に来た。大きな体の力士が二十人も並ぶと壮観だ。
「奉納相撲は愛姫様に捧げる大切な神事。期待していますよ。よろしくお願いします」
「ごっつあんです!」
尊姫の激励に、力士達が応える。
力士達とともに、尊姫達が土俵へと向かう。
庄の民からの歓声が凄まじい。
行事の呼び出しで力士が土俵に上がり、相撲が始まった。
大男達がぶつかり合い、土俵下に転がる。
「お相撲って、かぶりつきで見たの初めてですが、もの凄い迫力ですね!」
雪が声を声援でかき消されながら、尊姫に言う。
「凄いでしょ! この熱気が凄く盛り上がるのです!」
観客の盛り上がりは凄まじいものがあった。尊姫は神都からわざわざ力士達を呼んだというが、これほどの盛り上がりなら納得だ。
「次は俺だ!」
その声の方を見ると、ふんどし姿の広重が、塩を撒きながら土俵に上がっていた。
「広重~! 頑張れ~! 負けたら晩飯抜きだ~!」
立ち上がった尊姫が、自分の侍大将を応援する。
自分達の庄の侍大将の登場に、民衆は大盛り上がりだ。
「はっけよい!」
行事の掛け声に力士と広重がぶつかり合う。がっぷりよつになった二人は、土俵中央で動かない。大声援だ。
「広重気合い入れろ~! 負けたらぶっ殺すぞ~!」
「……尊姫様……」
尊姫のあまりに気合の入った声援に、雪はびっくりした。やっぱり勝姫と尊姫は姉妹なのだと雪は思った。
がっぷりよつだった広重と力士は、急に広重が力士に背中を向けたかと思ったら、一本背負い投げで力士は土俵下にぶっ飛んで行った。
「やった~!!!」
尊姫が飛び跳ねて喜ぶ。観客も大盛り上がりだ。
さらに庄の民の力自慢が飛び入りし、相撲はさらに盛り上がっていく。
土俵の周りは黒山の人だかりになっている。
屋台でも人が溢れ、祭りは順調に盛り上がっていた。
その盛り上がりを、山の上から勝姫が眺めていた。
「祭りは順調だな。神都の奴らが来るとすれば、奉納相撲が終わり、踊りが行われている最中か、拝月の祈りが捧げられている時だな」
勝姫は、手下達に告げる。
「どれだけ神都の奴らが暴れても、決して手を出すなよ。奴らの目的はわたしと尊が通じていると、民衆の前で暴露することだ。雪達に任せるんだ」
☆ ☆ ☆
奉納相撲が終わり、拝月塔の周りを民衆が踊りながらまわる。お囃子の音に合わせて大勢の民が踊る。山の端から大きな満月が昇っていく。
騒がしい祭りの中に紛れて、民に偽装した男が言った。
「お前達は選りすぐりの顔面の怖さだ。ここに来る途中も子供達に泣かれて大変だった。その顔面を生かして、屋台に嫌がらせをするのだ!」
「驚くべきは、この男達より正明様を見て子供達がギャン泣きしたことです。子供達には内面が分かるのでしょう」
「……結良乃、何が言いたい……」
「御意」
「……まあいい。よし、お前達、行け!」
第三神官波姫家臣団武闘派筆頭、都野重常姫の息子正明は、民衆に偽装した三十名ほどの手下に、祭りへの嫌がらせを指示した。
「へへへ、『じゃがバター』のバター、こんなに塗っちゃうよ~!」
「おらおら! どきやがれ! 『金魚すくい』の俺はプロ。すべてすくっちゃうよ~!」
「ひゃっは~! 俺は『型抜き』の鬼。永遠に出来ちゃうよ~!」
「ふは~! 俺はゴルゴと呼ばれた男! 『射的』ですべての景品落としちゃうよ~!」
正明の手下どもは、屋台に対して凄まじい嫌がらせを始めた。
祭りを楽しんでいた民衆は、恐怖のどん底に叩き落された。
一方、ここにも民に偽装した者達がいた。
「樽彦様~、豊穣祭をぶっ壊す秘策って何ですか~」
「フヒャフヒャフヒャ。杏、よくぞ聞いてくれた。第一神官家臣団重臣、真喜野利姫の息子であるこのボキが、お釈迦様でも震え上がる極悪非道の秘策を考えついたのだ!」
「極悪非道の秘策? 樽彦様にそんなこと出来るんですか~」
「ボキを誰だと思っているのだ杏! この秘策を考えついてからというもの、自分自身恐ろしくて夜も眠れず、昼寝ばかりしているのだ!」
「……まあ、いいです~。どういう秘策なんですか~」
樽彦は抱えていた桶の蓋をとると、中身を杏に見せた。
「なんですか~これ?」
「雷魚だ!」
「雷魚?」
「そうだ雷魚だ。これを金魚すくいの屋台のおじさんの目を盗み、水槽に放つのだ。そうすれば十数分後には、雷魚がすべての金魚を喰らいつくし、金魚すくいの水槽にはただ一匹、この雷魚が悠々と泳ぐのみとなるわけだ。どうだ恐ろしいだろ! 子供達に一生のトラウマを植え付けるぞ! 屋台のおじさんは、下手をすればショック死するぞ!」
杏はどうしようもないものを見る目で樽彦を見ていたが、諦めたように言った。
「まあ、騒ぎにはなるだろうからいいですかね~。じゃあ樽彦様、早く金魚すくいの水槽に、その魚を入れてきてください」
樽彦が、雷魚の入った桶を抱えながら杏に聞く。
「……本当にやるの?」
「樽彦様が、祭りをぶっ壊すって言ったんじゃないですか~」
「金魚……かわいそうじゃないかな」
杏が背伸びして樽彦の頬を触りながら言う。
「勝姫様を、ご自分のものにしたいんじゃないんですか~。女は悪い男に憧れるものですよ~」
「そうか! そうなのか! ボキはやるぞ! 悪い男になってやる!」
そう言って、樽彦は雷魚の入った桶を抱えたまま、黒山の人だかりができている金魚すくいの屋台へと走って行った。




