51.恋する正明
「尊姫たん! 尊姫たん! 尊姫たん! 尊姫たん! 何で尊姫たんはミーとの結婚を受け入れてくれないんだ! ミーがイケメン過ぎて逆に引く? そういうことか!?」
ここは花の都、神都の神館近くに居を構える都野重常姫の邸宅である。常姫は現在第三神官波姫の家臣団に属しているが、もともとは大神官直属の家臣でその強さは武神とすら言われていた。
館から聞こえる男性の甲高い声は、武神の館に似つかわしくないものであった。
屋敷の一室で寝転がり、手足をバタバタさせて騒ぐ男性の横に控える、ひときわ胸の大きい家臣の女性が答えた。
「恐れながら、それはないかと」
「結良乃! じゃあ何故なんだ!」
「単に正明様の歪んだ性格がお嫌いなのではないでしょうか」
「……そんなわけないだろ。殺すぞ結良乃……」
「御意」
そう言って、結良乃と呼ばれた女性が頭を下げる。
「ミーは神界にこの人ありと言われる常姫お母様の息子だよ! 家柄、ルックス、学歴……まあ学校は裏口入学だけど、それも実力のうちさ! ニラニラニラ!」
「いま暗に武術、人格、人望は母親から受け継がなかったと言われましたね。あとルックスは否定しておきます。それにそのニラニラという笑い方やめてください。臭そうです」
「……わざわざ解説するなよ。殺すぞ結良乃……」
「御意」
「何でミーの求婚に、尊姫たんは応えてくれないんだ! 祈祷札を五十万神銭から百万神銭にもっと上げれば結婚してくれるかな?」
「もっと嫌われるだけかと」
「……やっぱり殺すぞ、結良乃……」
「御意」
「……お前、御意って言えば何でも許されると思っているだろ」
「御意」
「……もういい。所詮、おまえみたいなおっぱい大きい淫乱な女には、尊姫たんのような清らかなぺったんこの心優しい聖女のような女性の気持ちが分かるわけない!」
「御意」
「ぺったんこの少女は男を誘惑することのない聖女。結良乃、お前に尊姫たんの清純さがわかるか? どの男性にも汚れた感情を抱かせることなく、ただただ清純……そこがそそるのだ! 欲情してしまうのだ!」
「わが主君ながらキモ過ぎて言葉もありません」
「……おい……さっきからちょいちょいミーをディスってるな……」
「御意」
「あ~何でミーの求婚に応えてくれないのだ! 尊姫たん! ユーラブミー!」
「正明様、ひとつ耳寄りな情報がございます」
「……何だ結良乃……またディスりだったら承知しないぞ」
「実はどうして祈祷札を五十万神銭に値上げしても、繭ノ庄が持ち堪えているのか不思議に思い、配下の者に密かに探らせました」
「……いい仕事してるね」
「そうしたところ、尊姫様の行方不明の姉、勝姫様が山賊になっていたそうです」
「あ~あの胸のクソでかい気の強いクソ女のことか。山賊風情がお似合いだ」
「勝姫様は山賊となり、旅行者から金品を奪い、繭ノ庄に流していたのです」
「……それって、尊姫たんと山賊が裏で手を結んで犯罪行為に手を染めていたってこと?」
「御意」
「そこを脅して尊姫たんに求婚すれば、姉想い、庄民想いの尊姫たんはミーの求婚を受け入れてくれると」
「そこまでは言っておりませんが、さすがはクソ主君。このようなことには頭脳明晰です」
「……やっぱりディスってる?」
「ただ、尊姫様と山賊が結託しているという証拠がありません」
「証拠もなく脅しても、逆に尊姫たんに嫌われるだけか」
「御意」
「じゃあそんな情報意味ないじゃないか!」
正明はまたひっくり返って手足をバタバタさせた。
「そこでです正明様。近く繭ノ庄で豊穣祭が三年ぶりに開催されるそうです。そこには尊姫様も当然ご臨席されます」
「……結良乃! みなまで言うな、みなまで言うな! つまり祭りで騒ぎを起こせば陰で見ていた勝姫が尊姫たんを助けに駆けつけるはず。その現場を押さえれば、勝姫と尊姫たんの関係の動かぬ証拠になるはず。そのことを尊姫たんに突きつけて脅せば、ミーとの結婚を受け入れるはず! ニラニラニラニラ!」
「流石はクソ主君。こういう時の頭脳明晰さは恐れ入りまする」
「……まあいいや。それで豊穣祭とやらはいつだ?」
「今週末の日曜日です」
「よし! 結良乃、家臣の中でも特に悪そうな顔面の奴を選んで繭ノ庄へ出発だ!」
「そう言われると思い、既に準備万端整えております」
「でかした! 行くぞ! 愛の試練に!」
「こんなクソに目をつけられた尊姫様がおかわいそうです」
「……また何か言ったか」
「御意」




