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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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5.侍大将 朽木孝明

「早速、実家に挨拶に参りましょう」


 雪との結婚を承諾した多比人は、そのまま雪の実家に挨拶に行くことになった。


 先導する雪について歩いて行くと、最初は踏み跡程度だった道が広がり、町中に入ってきた。町は時代劇で見るような江戸時代? 戦国時代? よりもっと昔と思われる作りだった。瓦葺、板葺き、藁葺の屋根の建物が混在し、壁も漆喰のものから板張り、土壁までさまざまだ。


 町を歩く人も、チョンマゲこそしていないものの、着物を着ていた。明らかに現代日本と違う。あの経文の書かれた岩の奥に、このような異世界があったのかと、多比人は信じられない思いだった。


 急に雪が振り返って多比人を見る。多比人は山の中に入って汚れても良いようにと、色の褪せたTシャツによれよれのズボンという格好だった。


「そのお召し物でも良いのですが、鷹姫様の御前に出るのには何ですので、着替えてまいりましょう」


 雪が言うには、鷹姫様と言うのは雪の祖母だった。もう庄長は引退していたのだが、雪の姉である時姫が囚われて以来、庄長に復帰して政務をとり行っていた。多比人の祖母、春姫の妹でもある。


 雪は『呉服 三河屋』と書かれた看板のある店へと多比人を連れて行った。


「これはこれは雪姫様、おめずらしい。今日はどのようなご用件でございましょうか」


「三河屋さん、いつもありがとう。今日はこの人に、着物を見繕ってほしいのです」


「こちらの……男性ですか?」


「そうです。この方は、あの春姫様の孫で防人(さきもり)様をお継ぎになった多比人様です。わたしと結婚することになりました。本日、鷹姫様へのご挨拶に際して恥ずかしくない格好にしてください」


「……う、うへぇ~」


 多比人は生まれた初めて人が腰を抜かすのを見た。


 多比人がいろいろと試着している最中、三河屋の入り口には黒山の人だかりが出来ていた。あっという間に噂が広がり、春姫が東ノ庄を去って以来、六十年ぶりに現れた防人様を一目見ようと集まってきたのだ。


 多比人は、雪が選んでくれた爽やかな水色の着流しに身を包んだ。


「多比人様、カッコいいです」


「……そ、そう?」


 雪に褒められて多比人は鼻の下を伸ばしながら店を出た。それにしても防人見物に大勢の人が集まっている。


「俺は侍大将の朽木(くちき)孝明(たかあき)だ! どけ! 邪魔だ!」


 多比人達に群がる人だかりの向こうで大声が聞こえる。


「あちゃ~、来ちゃったよ」


「やめとけばいいのに、残念な奴」


「振られた女に追いすがる、みじめな奴」


 人々はそうつぶやきながら脇に退くと、通りの真ん中に二人の男が立ちはだかっていた。


 一人は身長二メートル近くある筋肉ムキムキのスキンヘッドの若い男で、毛皮のベストのようなものを着ていた。もう一人は神経質そうな細身の男で、年は多比人より少し上のようだった。


「雪、その男は誰だ」


 ムキムキ男がそう言った。


(たか)ちゃ……いえ、朽木殿、このお方は春姫様の孫で、防人様をお継ぎになった多比人様です」


 雪とこの朽木と言う大男は知り合いらしい。


「おまえと結婚するって聞いたけど、本当か?」


「本当です。今から鷹姫様にご挨拶に伺います」


「……お~い、おいおいおい、うぇ~ん」


 ムキムキの大男が崩れ落ちて大地に四つん這いになり、泣き出した。


 突然のことに、多比人はびっくりしてしまった。


「多比人様、このような男は放っておいて行きましょう」


 そう言うと、雪は多比人の腕を引っ張ってすたすた歩き出した。


 多比人は泣いている大男を気にしつつも、雪に引きずられるように立ち去った。


 人目もはばからず号泣している朽木に、神経質そうな男が声を掛ける。


「朽木殿、お立ちください。あなたはこの庄の侍大将でしょう。皆に情けない姿を見せてはなりませぬ」


節枝(ふしえ)、お前に分かるか? 俺の大好きな雪が、あ、あんなに冴えないおっさんにとられるこの屈辱を。ふええぇ~ん、うぇ~ん……でも、防人様ならしょうがないか……」


「……あの冴えない男、防人様だと雪姫様は言っていましたね。防人様って神にも勝つほど強いって言いますけど、そうは見えなかったですね」


「お、俺の方が強い、かな?」


「少なくとも私にはそう見えました。防人様と言うのは本当でしょうか」


「あいつ、純粋で素直でかわいくて美人な雪を騙しているのか!」


「多比人……この庄の人間ではないですね」


「ようし! 絶対雪をあのニセ防人から救ってみせる! そしたら『孝ちゃんのことがやっぱり一番好き! 結婚して!』って雪に言われちゃったらどうしよう。『孝ちゃんの子供が欲しいな』って言われちゃったらどうしよう。やっぱり女の子が生まれたら、雪に似て美人なのかな。な、名前はどうしよう!」


 妄想の止まらない朽木とは対照的に、節枝と呼ばれた男は遠ざかる多比人と雪を、その神経質そうな細い目で見つめていた。




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