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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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4.女神殺し

「わたしは茅原野(かやはらの)(ゆき)と申します。ここ、『東ノ庄(ひがしのしょう)』を治める茅原野家の次女です。雪とお呼びください」


 多比人は雪に連れられ、雑木林のはずれにある古びた祠の縁台に腰掛けた。


 その祠は、屋根裏にあったものとそっくりだった。


「ここは神がすべてを支配する神界です。多比人様がいる世界は、こちらでは下界と言われています。神界を治める神、愛姫様は愛と豊穣を司る女神です。その力は強大で、作物を実らせたり枯らしたり、気候、天災、疫病など、すべてを意のままに出来ます」


 多比人は雪の説明を聞きながらも、まだ何が起こったのか理解が追い付かない。


「その愛姫様の力に唯一対抗できるのが、防人様なのです。先代の防人様である春姫様がご存命中は、愛姫様も好き勝手は出来ませんでした。しかし、三年前、春姫様の訃報が神界にまで伝わると、愛姫様がご自分の欲望のまま、本性を現したのです」


「本性? というかちょっと待って、防人って何? 春ばあちゃんが防人ってどういうこと?」


「順を追って説明するので最後まで聞いていてください」


「……はい」


 ぴしゃりと雪から言われた。多比人はこの手の女性の言うことには従うしかなかった。


「愛姫様は苛烈でわがままな女神です。自分の言うことを聞かない庄の年貢を釣り上げ、さらには祈祷札と言う愛姫様の祈りが捧げられた札を買わないと、作物が育たないようにしたのです」


「豊穣の女神なのに?」


「豊穣の女神だからこそこのようなことが出来るのです。そして困窮した庄を潰し、自分の腹心の部下を新たに庄長にするということを繰り返しています。しかもこの東ノ庄は、自分の敵であった春姫様のお膝元の庄。年貢をつり上げられ、法外な値の祈祷札を買わされています」


「ずいぶんな女神様だね……」


「はい。さらには『婿見せ』を復活させました」


「婿見せ?」


「新婚の夫婦を愛姫様が呼び寄せ、愛姫様と剣の勝負をするのです。愛姫様が勝てば夫は奪われ、妻は愛姫様の住む神館で一生奴隷のように働かされます。夫婦が愛姫様に勝てば、『婿見せ』で負けて囚われていた者達がすべて解放されますが、『婿見せ』復活後、今まで愛姫様に勝った者はおりません。」


「愛の女神なのに、新婚夫婦を引き裂くって……かなり酷いね」


「愛姫様は愛と豊穣の女神ですが、ご自身は添い遂げる相手もおらず、決して愛を得られないと言われています。愛に飢え、愛を得るために、愛の象徴でもある新婚夫婦を呼び出し、妻から夫を奪うのです」


「愛の女神が愛を得られない……愛に飢えている……恐ろしいね」


「はい、病気がちな母に代わり、若くして東ノ庄の庄長を継いだ我が姉、時姫夫妻も愛姫様から『婿見せ』に呼び出され、敗れました」


「君のお姉さん?」


「わたしの姉、時姫は神界では並ぶものがいないと言われた剣の達人でした。それでも愛姫様には敵わなかったのです。いまでは愛姫様に仕える神官の下女のようなことをさせられていると聞きます。この三年間で五十八組の新婚夫婦が『婿見せ』に呼ばれ、愛姫様に勝てたものはおりません」


「……酷い神様だね、愛姫様って」


「そうです、最悪の神なのです。その横暴に神界の皆が苦しんでいます。姉が囚われた心労から、母は昨年体調を崩して亡くなりました」


 雪が目に涙を浮かべながら多比人に訴える。


「愛姫様に対抗できるのは、防人様の力だけなのです。多比人様、わたしと結婚して、『婿見せ』で愛姫様を討ち取ってはくださいませんか」


「神様を討ち取る……何か、すごい罰当たりな響きだね。僕にそんなこと出来るのかな」


「多比人様なら出来ます。かつて神を討った春姫様のお孫様ですもの」


「春ばあちゃんが神様を討ち取った!?」


 多比人は雪の発言に驚きはしたが、祖母ならそのくらいのことはやってしまいそうな気がした。勝ち気で負けず嫌いな祖母は、これと決めたらやる人だった。


「春姫様は六十年前、愛姫様の横暴を見るに見かねて『婿見せ』で愛姫様を討ち取り、囚われていた何百組もの夫婦を解放し、重税から民を解放したのです」


 多比人は祖母から毎日剣術の鍛錬をさせられていたが、高校生になっても全くかなわなかった。


「どうかわたしと結婚し、姉を解放してはくれないでしょうか」


 雪が目に涙をためて多比人を見る。雪のような美女に見つめられながら、多比人は先日の美好課長の言ったことを思い出していた。


『優柔不断で決断力のないあなたは、未来永劫結婚できないわよ。きゃはははは』


 雪のような美女から求婚されることなんて、今後一生ないだろう。しかも姉想いで性格も良さそうだ。祖母がつないでくれた縁かもしれない。


 そう思う一方で、雪と結婚すれば防人とやらになって神様を討つという、聞くだけで恐ろしげなことをしなくてならない。多比人は躊躇していた。雪とは結婚したいけど、恐ろしいことはしたくない。


「もし結婚してくださらないのなら、わたしは今この場所で自害します。結婚を申し込んで断られた女は、すぐその場で死ぬものと神界では決まっております」


 そう言って雪は腰の刀に手をかけた。


「わかった! わかったよ、雪! 君と結婚するから自害なんてやめて! 出来るかどうかわからないけど、お姉さんを解放できるように頑張るよ」


「本当ですか! ありがとうございます多比人様! 姉を、姉を救ってください!」


 雪は涙を流して多比人に感謝していた。



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