47.嵐の夜
「貴頼なら、さっそく寄宿舎に行く準備をするって蔵に行きましたけど」
貴頼の居場所を尋ねる多比人に、雅姫が答えた。
「ああ、そうですか。それなら構いません。ちょっと話がしたかったもので」
そう言って多比人は引き下がった。
「ひょっとして、どこかでの蔵で咲姫さんと逢引き中かもしれないからな」
小声で多比人が雪に言った。
「確かに。もう少しでしばらく会えなくなると分かれば、逢いたいですものね」
雪が答える。
「そうは言っても少し気になるな。楓、貴頼さんを探してきてくれ」
「分かりました!」
楓はそう言うと、植栽の茂みに隠れたかと思うといなくなった。
いつの間にか外は雨が降り出した。風も強い。
多比人と雪は庄館の部屋にいたが、部屋から見える中庭ですら、雨風がかなりの勢いになってきた。
軒下から楓が顔を出す。
「主、この庄館、むちゃくちゃ蔵があるんで遅くなりました。貴頼さんは全く見当たりません! 恐らくこの庄館の中にはいません!」
多比人はそれを聞くと、すぐに部屋を出て雅姫に会いに行った。
雅姫は執務室で、女官にいろいろと仕事の指示を出している最中だった。
「お仕事中申し訳ありません。貴頼さんが見当たらないのです」
それを聞いた雅姫は、手から筆を落とした。
「貴頼!!!」
走り出した雅姫を追いかけていくと、貴頼の部屋に行きついた。そこにもいなかった。雅姫は自分の部屋に行くと、机の上に一通の手紙を見つけた。
『母上様。僕は咲姫さんとどこか遠い所で一緒になります。今まで本当にありがとうございました。愛しています。 貴頼』
雅姫は半狂乱になった。
外は暴風雨だ。
「貴頼~!! 貴頼~!!」
雅姫は庄館の母屋から、真っ暗闇の暴風へ向かって叫びながら飛び出していこうとするのを多比人が抑える。
女官達があわただしく集まってきた。
「貴頼様を探せ! どこに行ったか知っている者を探し出すのだ!」
女官頭が指示を出すと、暴風雨をものともせず、女官と衛兵達が町中へと走っていく。
大混乱の中、母屋に楓が走ってきた。
「主様! 貴頼様と咲姫様は万智ノ庄方面に向かったそうです! 農家の人が、二人が歩いて行くのを見たそうです!」
「万智ノ庄方面と言えば、野犬の出る方じゃないか!」
多比人がそう言うと、半狂乱になった雅姫が多比人に縋りついた。
「若旦那様、私の大切な貴頼が、大切な貴頼が野犬に襲われて死んでしまいます。どうか、どうかお救いください! 若旦那様!」
その時、暴風雨の闇の中から、留吉がずぶ濡れになって現れた。
「咲がいねえ! 俺は咲に、気に入らねえならどこへでも行けなんて酷いことを言っちまった。こんな嵐の夜に、咲がどっか行っちまった。ここに来ていねえか!」
「留吉さん、貴頼さんと咲さんはどうやら一緒にいなくなったらしい。どこか遠い所へ行くという置手紙が見つかった」
そう言う多比人の言葉に、留吉が目を見張った。
「ど……どこか遠くっていったい……」
「万智ノ庄方面に向かったそうです」
「若旦那……この時間にあっち方面に行くって……あそこは野犬の巣だ」
留吉ががっくりと膝をつく。
「もう……だめだ……俺のせいだ……俺が結婚を認めなかったばっかりに……」
「留吉さん! あんたのせいじゃないよ!」
雅姫が留吉に叫んだ。
「私のせいだよ! 咲姫さんと一緒になることを反対していたのは私だよ! こんなに好き合っていたなんて知らなかった……理解してあげられなかった」
雅姫が泣き崩れる。
「二人とも、諦めるのはまだ早い。行くぞ! 雪さん! 楓!」
多比人はそう言うと、雪と楓とともに、暴風雨の闇の中へと飛び込んだ。それを追って、留吉、雅姫、女官や衛兵達も走り出した。




