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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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46.大工の留吉

 多比人達の部屋の天井の板が外れ、人影がさっと降りてきた。


「弥七、じゃなかった楓。咲姫さんの様子はどうだった?」


「御老公、じゃなかった主。どうもこうもありませんよ」


 口元の覆いを下げて、楓が咲姫の家を偵察してきた結果を報告した。


 楓によると、咲姫は長屋で父親の留吉と二人暮らしということだが、留吉は肺の病になってからは仕事もせずに、飲んだくれてばかりいるようだ。咲姫が内職で稼いだ金を、すべて飲んでしまった挙句、咲姫に暴力までふるっているらしい。


「昔は腕のいい、働き者の大工だったらしいんですけどね」


 楓は雪の出したお茶を飲むと、辟易するように言った。


「ありゃダメおやじですよ。早く見捨てた方がいいですね、咲姫様は」


 よっぽど酷かったのだろう。楓は嫌なものを見てきたと言わんばかりに舌を出していた。


「挙句にプライドだけはあるようで、『うちは庄長の家柄なんだ!』とか言って、長屋の人達にからんでいましたよ。みんな呆れていました」


 多比人は飲んでいた地酒のお猪口を置くと、雪に言った。


「雪、酔い覚ましに少し庄を散策しませんか」




 城郷ノ庄は、中心部に堀川がつくられており、物流が舟を使って行われるようになっている。その堀川にかかる橋の欄干に、一人の男が手をかけていた。


「主! あそこ!」


 楓が指差した方向を多比人が見ると、橋の欄干を乗り越え、男が堀川に飛び込んだ。


「楓! 助けるんだ!」


 多比人の声に、楓が走っていく。


 堀川を見ると、自分で飛び込んだにもかかわらず、男が叫んでいた。


「ひいいいい~! 助けてくれ! 俺は泳げないんだ~!」


 楓が水の中に飛び込み、男の首根っこをつかむと、岸に引き上げた。


「あ、こいつ留吉ですよ!」


 男の顔を見て、びっくりして楓が言った。


 近くの原っぱで焚火をし、留吉の体を温め、衣服を乾かした。


 ふんどし姿の留吉に、多比人が声を掛ける。


「私は北ノ庄でちりめん問屋をしております多比之介と申します。おせっかいかもしれませんが、何故こんなことをしたのか、理由を聞かせていただくわけにはいきませんか」


 留吉は、焚火にあたりながら、事情をぽつりぽつりと話し出した。


「命を助けていただいて、滅相もございません。じつは……ご存じかもしれませんが、うちの女房は、もともとここの庄長の一人娘でした。あっしは大工で、庄館の仕事をいろいろとこなしているうちに恋仲になり、結婚を誓い合うようになったのでございます。最初は身分違いだと反対されました。しかし女房が、結婚できなければ自ら命を絶つと啖呵を切り、夫婦(めおと)になったのでございます」


 焚火の日を見ながら、思い出すように留吉が続ける。


「幸せな日々でございました。娘の(さく)が生まれ、親子三人幸せでした。しかし……無実の罪で女房が神都に送られる際、女房が最後に言ったのです。『娘だけは、咲だけは庄長にさせずに、平凡な娘として幸せに育てておくれ』と……それが今、娘は今の庄長の一人息子の貴頼と恋仲になっちまいました」


 留吉は目に涙を浮かべて多比人を見る。


「貴頼は良い男です。咲を大事に思ってくれています。けど、貴頼と結婚すれば、咲は庄長になっちまう。それでは女房との約束が果たせねえ」


 泣きながら留吉は言った。


「俺は肺病病みで仕事も出来ず、咲の役には何にも立たねえ。このままでは女房との約束も果たせねえし、咲を幸せにしてやることも出来ねえ。自分なんざいなくなった方がいいと思って橋から飛び込んだものの、死にきれねえとはお笑いざまです」


 肩を震わせて泣いている留吉を見ながら、多比人は思った。


(留吉さんも雅姫さんも、自分の娘や息子のことを大切に思ってすれ違っている。どうしたものだろうか……)




☆ ☆ ☆




 翌日、夕食を済ませた多比人達の部屋に、雅姫が訪れた。


「若旦那様、昨日お話しした件ですが、貴頼を神都の学校の寄宿舎に入れることにいたしました」


「貴頼さんは、納得されたんですか」


「はい。学校を卒業する六年後になっても、咲姫さんと一緒になりたいというなら私も考えると言ったところ、納得したようです」


「そうでしたか」


「まあ、若い子のことです。神都は綺麗な娘がたくさんおります。六年もあれば頭を冷やして息子も考えが変わることでしょう」


「雅姫様、とても大切にしていらっしゃる貴頼さんと六年も会えないというのは、雅姫様にとってもお辛いことではないのですか」


 多比人の言葉に雅姫が涙ぐむ。


「あら、まあ、若旦那様はお優しいねえ。この話をしてそんな風に言ってもらえたのは若旦那様が初めてですよ。そりゃ辛いです。心配で胸が張り裂けそうです。でも、貴頼が頑張るんだから、私も頑張らないと」


 雅姫が涙をぬぐいながら笑う。


 雅姫が部屋から出て行ったあとで、雪が多比人に言った。


「よく貴頼さんは納得されましたね」


「そうだね。六年後に交際を認めてもらえると言ってもらったのが大きかったのかな」


「わたしだったら六年も多比人様に会えないなんて言われたら嫌です」


「僕も雪に六年も会えないなんて言われたら死んじゃうよ」


「多比人様……」


「……雪」


 多比人と雪が見つめ合う。


 徐々に二人の顔が近づき、雪が静かに目を閉じた。


「あるじ~、ご報告で~す」


 二人のすぐそばに、いつの間に来たのか楓がいた。


「何だ、楓か。どうした」


 多比人と雪が急に離れる。


「今回主から別行動にしようって言われて、わたしだけこの庄館の美味しい食べ物も食べずに頑張っているのに、『何だ、楓か』って何ですか!」


「いや、楓は頑張ってくれていると思うよ。思うけど……タイミングが……」


「わたしが頑張っているのに、イチャイチャするのは許しません!」


「楓、お前、ひょっとしてこっちのことを見ていて、タイミング図って出てきただろ!」


「偶然で~す!」


「お前、ひとの恋路を邪魔するな!」


「おや~、お邪魔だったんですか~? 気づきませんでした。何をなさっていたんですか~?」


「楓、何か報告があって来たのではないですか」


 雪がビシッとした感じで楓に聞くと、楓の背筋がスッと伸びた。


「そうでした! ご報告です! 咲姫様が留吉さんのところから姿を消しました。こちらに来ていませんか?」




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