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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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37.大神官の憂い

「またいなくなられたのか!」


 神都の中枢、大神殿では大神官の怒鳴り声が響いていた。


 女官達が平伏している。


「また祈祷札を作るのをさぼって、どこかほっつき歩いているのだな!」


「さっきまでそちらで祈祷札を作っておられましたが、もう飽きたから嫌だとおしゃって……」


「何でお止めしなかったのだ!」


「大神官様、恐れながら愛姫様をお止めすることなど我々には無理です」


 自分で言っておいて、確かに女官に愛姫様をどうにかするなど無理なことだと思いながらも、大神官は愚痴らずにはいられなかった。


「三か月ぶりに帰ってきたと思ったらもうこれだ。これから秋にかけて祈祷札のかき入れ時だというのに何をなさっているのか……こちらの気も知らず、気ままなものだ。これだから神というものは困ったものだ」


「今は夏祭りの時期。愛姫様はお祭りが大好きでいらっしゃるので、おそらくそこかしこのお祭りを堪能されていることと存じます」


「そんなことは分かっておる!」


 大神官の一喝に、女官達がさらに平伏する。


「金は持たせていないだろうな」


「はい。かなりおねだりされましたが、それだけは大神官様にきつく止められていると申しました」


「くっ、それならしばらくすれば帰ってくるか。しかし愛姫様はたかりの天才だからな。気がつけば民から歓待されて、勝手にそこらの作物を豊作にしてしまう。これでは祈祷札が売れなくなってしまう」


 大神官は、苦り切った顔でそう言った。


「愛姫様が戻られたらすぐに伝えよ。こんどは私が直々にひっつかまえて祈祷札を作らせてやる!」


 そう言って、大神官は床をどんどん踏み鳴らしながら自分の執務室へと帰って行った。


「愛姫様、毎日祈祷札ばかり作らされておかわいそう」


「もっと遊びたいっておっしゃられていたわ」


 小さな声で、女官達が愛姫様に同情していた。




☆ ☆ ☆




 ここは神館内に作られた『訴訟前裁き処』。


 二十人ほどの才女達が書類を読み込み、その内容とシノビ達の持ち寄った情報とを照らし合わせ、どう裁断を下すべきかを検討している。


 その奥には所長室と呼ばれる一室があった。


 一人の女性が所長室に入って行く。


「時姫様、シノビからの連絡が届きました。ご報告申し上げます」


 大きな机に向かって書類に目を向けていた時姫が顔を上げる。


滝姫(たきひめ)、ありがとう。聞かせてください」


 滝姫と呼ばれた女性が時姫に報告する。


「はい。雪姫様と防人様御一行は、北ノ庄に入ったそうです。そこで北ノ庄の防人様夫妻と御一緒に、御城下を回られたとか」


「東ノ庄は神都軍に抑えられています。北ノ庄の北山様と手を結ぶことで神界への通路と後ろ盾を確保しましたか。雪の夫、多比人様はなかなかの知将のようですね」


「……それが……さらに報告には続きがございます」


 滝姫が言いにくそうに報告する。


「北ノ庄での商人も招待された宴で、多比人様は『俺は防人だ』と言って、多数の少女を連れてお風呂にお入りになったそうです。さらに全裸のまま女中部屋へと侵入し、『俺の聖剣を見ろ!』と言って踊り狂っていたそうです」


「……」


「その結果、怒り狂った雪姫様に殴られて、気絶されたそうです」


「……そうですか……雪は昔から男を見る目が無いとは思っていましたが……」


「北ノ庄では数馬様を見かけると、娘を持つ親は家の鍵を閉めるようになったそうです」


「まあ、英雄色を好むと言います。防人様ともなれば、いろいろとあるのでしょう」


「はい。雪姫様が心配です」


「……雪ももう立派な大人。信じましょう。報告ありがとう」


「はい。時姫様、もう一つ気になる報告がございます」


「何ですか」


「まだ不確かな情報ですが、南ノ庄で疫病が発生したとのことです」


「疫病?」


「はい。病人が多数出て、広がっているようですが、詳細はまだ分かりません。現在その方面にあたるシノビを増やして探っております」


「よろしく頼みます。あと、引き続き雪達にも密かにシノビをつけて、守護するようお願いします」


「心得ております」


 そう言うと、滝姫は退室していった。


 時姫は窓の外を眺めながら思った。


(我らの希望の防人様……大丈夫なのでしょうか。しかし、あの愛姫様を討つには並外れた変態くらいでないと、敵わないのかもしれませんね)




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