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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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31/68

31.北ノ庄

 ホテルで朝食を食べたのち、北山リゾートの車で白姫山の麓まで多比人達は送ってもらった。


 朝食会場に現れた多比人と雪を見て、北山のシノビである久禮(くれい)が楓に向かって力なく首を振っていたのが気になったが、多比人には確認する勇気はなかった。


 北山と久禮に連れられて、多比人と雪、それに楓が白姫山を登っていく。途中の森の中に、木の根におおきな(うろ)があった。


「ここが北ノ庄への入り口さ」


 あまりにここまでの森が深く、多比人はもう一度来てもここまでたどり着くことが出来るだろうかと思った。


 洞の中に入り、奥まで進むと明るくなり、やがて神界に入った。


 多比人は神界の空気を感じた。


 北ノ庄側は岩だらけだった。大きな岩が積み重なる場所を、北山と久禮に連れられて進む。しばらくして多比人達は街中に出た。


(派手だ!)


 北ノ庄を見ての多比人の第一印象はそれだった。


 町の家々が瓦ひとつとっても立派で、黒光りし、意匠が凝っていた。


 そして柱や板の多くは、朱色に塗られていた。


 町を行き交う人々も、原色系の色合いの服が多く、鮮やかだ。


 東ノ庄も神界では裕福な方だと聞いていたが、北ノ庄はそれにもまして裕福そうだった。これが北山が思いを込めて守護する町なのかと多比人は思った。


 何より多比人が驚いたのは、北ノ庄の館が城だったことだ。石垣の上に真っ白な漆喰が美しい、天守閣を持つ城だ。


 城の門で大勢の家来が控える中、中央に立って多比人達を出迎えたのは、北山の妻、朔姫(さくひめ)だった。


「東ノ庄の防人様、雪姫様。お待ち申しておりました。ようこそ北ノ庄においでくださいました」


 才色兼備と聞いていた朔姫は、知性的な顔立ちの美人だった。笑顔が優しそうだった。こんな美人の奥さんがいながら下界で浮気しまくる北山に、多比人はなんて羨ましいんだと思った。


 そこからは、北山と多比人、雪姫と朔姫が並びながら城下を一周した。北ノ庄と東ノ庄の防人が良好な関係であることを示すためだ。


 夜の城内の宴も、城下の商人が多数呼ばれた。商人は神界中にネットワークを持つ。そのネットワークを通じて、防人二人の関係を内外に知らしめるためだ。


「それで、多比人様。愛姫様をいつ頃お討ちになるのでしょうか」


「多比人様が神都に入られるのは秋頃でしょうか。それとも冬?」


 宴の席での商人の話は、多比人がいつ愛姫様を討つかに集中した。


 商人の間では、愛姫様が討ち取られた後、不作がしばらく続くというのは既定路線のようだ。それに備えて米や祈祷札を確保しておき、不作の際に売り払うことで儲けたいようだ。


 多比人は気になっていたことを北山に聞いてみた。


「ところで、祖母が愛姫様を『神討ち』したにもかかわらず、今も愛姫様がいらっしゃるのってどうしてですか?」


 北山はびっくりして、手に持っていた杯を落としかけた。


「おっと、話していなかったっけ。そりゃ愛姫様は神様だからね。いくら私達が防人と言っても、愛姫様を斬ったところで殺すことは出来ないよ。何年かすると、童の姿で復活し、神界のどこかに現れる。それで二十代半ばの年齢まで成長し、後はそのお姿のままだよ。永遠にお若い、美の象徴さ。あんなお美しい方、見たことないよ」


 北山はよほど愛姫様のことを美しいと思っているようで、うっとりとしながらゆっくりと酒を飲んだ。


 北山のように多くの美女と浮名を流す男でも、愛姫様は特別らしい。


 多比人は、そんな綺麗な女性を斬ることが出来るのかどうか、不安になってきた。


「そんなにお綺麗な方なんですか? 愛姫様って」


 多比人の問いに、近くにいた商人達が答える。


「多比人様、お美しいなんてものじゃないらしいですよ。仲間の商人が、たまたま神館に品物を納めに行った際に、廊下をお渡りになる愛姫様を見かけたらしいんです。そいつは一目見た愛姫様に恋をしてしまって、それ以降床に臥せるようになったのです。今では世を儚んで、出家して坊主になってしまいました」


「何でもこの前の『婿見せ』の際、これから愛姫様と妻が斬り合うというのに、旦那の方は愛姫様に見とれてしまって、思わず妻が旦那を斬り殺してしまったとか」


「いや~愛姫様のような方に、一度でいいからお酌でもしてもらいたいものだ」


「いいなあ~。愛姫様にお酌してもらえるならお前いくら払う?」


「一千万神銭」


「俺なら五千万神銭払う」


「俺は……」


 これからその愛姫様を討とうという多比人の前で、商人達がどれほど愛姫様が美しかを語り合っていた。おまけにその話には北山も多比人もノリノリで加わっていた。少し離れたところから注がれる、朔姫と雪の冷ややかな視線に気づかずに。




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