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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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28.北山リゾート

 会社に出勤すると、上司である岡本課長が引きつった顔で多比人を待ち構えていた。


「支社長がお呼びだ。多比人君、すぐに行くぞ」


 支社長室へ向かう途中で、岡本課長が聞く。


「何かあったのか、多比人君?」


「いえ、何も思い当たることはありませんが……」


 そう答えながらも、多比人は思い当たることがたくさんあった。本社社長からの更なる追及か、楓達が何かしでかしたか。


 支社長室に入ると、支社長も血相を抱えていた。


「数馬君、君は北山リゾートの北山社長と懇意にしているそうじゃないか」


 支社長の言葉に、少し多比人はほっとした。


「ええ、まあ。個人的な友人です」


「ええ、まあ、じゃないよ数馬君。ダメじゃないかそんな大切なことを黙っていては。北山リゾートは、我が社の大切な取引先のひとつだと知っているだろう」


 確かに多比人の会社が北山リゾートと取引があるのは知ってはいたが、多比人とは全く違う部門での取引だった。


「何と北山社長直々に、我が社ともっと強固な協力関係を結びたいから、しばらく多比人君を北山リゾートに出向させてくれないかとの申し出だ」


 どういうことだろう。多比人が神界で自由に動けるようにしてくれるというのだろうか。多比人は北山の好意を信じることにした。


「分かりました。出向させていただきます」


「そうかそうか。本社の社長直々に昨日の夜、私の携帯に電話がかかって来て焦ったよ。出向してくれるか、いや~良かった。出向させることが出来なかったら、私を左遷させると言われて焦っちゃって。てへっ。いや~ありがとう数馬君!」


 そう言って、支社長は多比人の手を握ってぶんぶん振っていた。


 この会社は大丈夫だろうかと多比人は思った。


 こうして、多比人は大手を振って北ノ庄から神界へと旅することが可能になった。




☆ ☆ ☆




 『北ノ庄』への入り口に位置する白姫山一帯は、北山リゾートによって、国有地以外はほぼ完全に買い占められていた。白姫山の外輪山にあたる、白霧岳の麓には、北山リゾートが誇るスキー場とホテルを中心としたリゾート地が広がっていた。夏にはマウンテンバイク、パラグライダーやキャンプなどのアウトドアスポーツなどが行われ、国内国外を問わず、大勢の避暑客が楽しんでいた。


 そのリゾート地で最も高級なホテル、『白姫北山ホテル』のロイヤルスイートルームに、多比人達は案内されていた。


「これは私からの多比人さんと雪さんへの婚約祝いだよ。神界に入る前に、今夜はゆっくり楽しんでくれると嬉しいな」


 部屋から見える雄大な景色を二人に見せながら、北山はそう言って笑った。


「ここから見える土地、全部北山さんのものなんですか?」


 多比人はあまりにも広大な風景を見ながら言った。


「そうだよ。そもそもこの土地を買い占めるために私は北山リゾートを興したんだからね」


「そうなんですか!?」


「そうだよ。北ノ庄に接する下界の状況は、北ノ庄のありかたに直結するからね。西ノ庄なんて、接している下界の山が大規模に開発されてしまった。その影響で西ノ庄の土地は荒廃し、防人の力すら弱まったと言われているからね。これも大切な防人の仕事さ。春姫様だって同じだろ」


 多比人は祖母が、古舞山(こぶやま)の麓の何の価値もない土地を買い漁っていたのを知っていた。評価額が低すぎて、相続税すらほとんどかからなかった無価値な土地だ。さらに祖母は、村会議員から村長にまでなって、古舞山の麓を開発させないという条例まで制定してしまっていた。


 開発も出来ない無価値な土地を買い漁って、祖母はいったい何をやっているのだろうと多比人は不思議に思っていたが、今やっと真意が分かった。祖母はどこまでも防人だったのだ。


 自分を追い出した人達を守るため、村長にまでなる。自分にそんなことが出来るのだろうかと多比人は思った。


「明日は北ノ庄で歓迎の宴を用意しているけど、くれぐれも私の下界での女関係のことは、黙っておいてくれよ」


 笑顔でそう言う北山の目は、笑っていなかった。


「と、当然じゃないですか。ここまでお世話になっておいて、そんなこと言う訳ないじゃないですか。特に男女の関係は、他人が気安く踏み込んで良いものじゃありません。なあ、楓、雪」


「楓は主の御命令に従います」


「雪も、いいよね」


「……」


「雪?」


「……北ノ庄の朔姫(さくひめ)様は才色兼備と有名です。どうしてそのようなお方がいながら、下界で数多くの女性とおつき合いなさるのでしょうか」


 雪が北山の目をまっすぐ見てそう言った。


「うう、雪さんにそう言われると辛いな。確かにうちの朔は、対外的にはそう見えるかもしれないんだけど、実際は凄く怖いんだよ。凄い目で睨まれたりするんだよ。下界での行いは、いわば僕の息抜きさ。神界で良き夫であり善き防人であるためのね」


 雪は目を伏せて言った。


「殿方には殿方の御事情があるということですね。理解は出来ませんが納得はしました。神界では下界での北山様の浮気は他言いたしません。ご安心ください」


「あ、あ、ありがとう」


(あの北山さんをタジタジにさせるって、雪ってすごいな)


 多比人は素直に感心していた。


「感心している場合じゃないですよ。浮気したら主はきっと首ちょんぱされますよ」


 小声で楓が多比人にそう言った。


(浮気は許さないってこと? じゃあ、雪は僕のこと、好きだと思ってくれているのかな? ということは、キスしても大丈夫かな?)


 多比人は今夜、ホテルの部屋での計画実行に決意を新たにした。




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