27.多比人一家の会議
この日、多比人の家には雪、楓に加えて、葵と坂元医院の坂元医師が集まっていた。いずれも、神界の存在を知る人間であった。
畳の上に置かれた大きな机を囲んで、一同が座る。
「今日はお忙しい中、お集まりくださりありがとうございます」
多比人が口火を切る。
「本日お集りいただいた理由は、僕が考える、『鷹姫様、時姫様奪還計画』についてご意見、ご指南を頂きたいと思ったからです」
会社で行うプレゼンのように、多比人が続ける。
「祖母、春姫は、『婿見せ』で神を討った結果、その後の作物の不作の責任を負わされて神界を去り、この家で暮らすこととなりました」
楓が頷きながら聞いている。
「そのことは春姫不在を招き、結果として現在の東ノ庄の危機的な状況につながっていると考えます」
葵が何か言いたそうだったが、多比人は続けた。
「つまり、神都、愛姫様に勝つにしても、勝ち方が重要と考えます」
多比人が一同を見回す。
「いまだ聖剣を扱えない僕が言うのも何ですが、防人がひとりだけで頑張って、愛姫様に勝ってはいけないということです」
「多比人様、当然わたしも一緒になって戦います。多比人様をおひとりにはしません」
「楓もです!」
「雪、楓、ありがとう。嬉しいよ。でも、僕が言いたいのはもっと多くの人に一緒に戦ってほしいということなんだ」
多比人はゆっくりと、自分自身にも言い聞かせるように言った。
「僕だけでなく、神界を変えたいと思っている人達の力を結集して愛姫様を倒すんだ。それが出来なければ、まだ愛姫様を倒すべき時ではない。本当に神界を変えたいなら、神界みんなの力で変えないといけないんだ」
多比人は続けた。
「神界の人達が、自分達の大切なものを守りたいという気持ちを僕は集める。そして一緒に戦う。防人ひとりじゃダメなんだ。みんなで勝つことが大切なんだ。それが出来れば、僕と雪はずっと東ノ庄にいられると思う。戦いの後も、東ノ庄のみんなを守っていけると思う。」
葵が涙ぐみながら言った。
「よう申されました。春姫様が生きていらっしゃれば、今の立派になった多比人の言葉、本当に喜んでくださるでしょう」
坂元医師が口を開く。
「部外者の俺が言うのも何だけど、方針としてはまあいいじゃろう。具体的にはどうするのじゃ?」
「神界で、愛姫様に不満を持っている人達を探します。具体的には、神界を回りながら、楓にも協力してもらい、反愛姫様の人や庄をつなぎ、勢力を結集します」
「そんなに愛姫様に不満を持つ奴なんているのか? 相手は神様じゃろ、不満も何も、人間風情は受け入れるしかないじゃろう」
「不満を持つ者は絶対にいる」
葵が口を開いた。
「春姫様が愛姫様を討った時も、重税に『婿見せ』の乱発、訴訟の不正、役人の横暴など、民の怒りは煮えくり返っておった」
「つまり、今回も同じような状況だろうと」
「そう言うことだ」
葵の説明に、坂元医師は納得したようだ。
「すでに北山さんに、北ノ庄から神界に入る許可をもらっています。雪と楓と一緒に神界をいろいろと巡り、愛姫様に不満を持つ者達をつなげようと思います」
多比人は、自分は祖母と違って周りを引っ張っていくタイプではないと思っていた。その代わり、みんなの意見を聞いて調整することは得意だ。逆に言えば、聖剣の出せない自分にとって、これが一番現実的な方法だとも思っていた。この計画を進めるうちに、きっと聖剣だって出てきてくれるに違いない。
「楓は防人様のシノビです。我が主の決めたことに従います」
楓が何の迷いもなくそう言い放った。
「よう申した! それでこそ防人のシノビよ」
葵が嬉しそうに愛弟子を見つめてそう言った。
多比人が雪を見ると、雪はためらいがちに言った。
「神界には、どこにでも神都に味方する者がいると思われます。神界をたった三人で旅するなど、危険ではないでしょうか」
多比人は雪を安心させるように言った。
「そもそも、僕たちの顔を知っている人間なんてそんなにいないさ。それも、庶民に化けて回れば、そんなに見つからないんじゃないかな」
「……分かりました。わたしも一生懸命多比人様をお守りします」
そう言って、雪はうなずいた。
「葵ばあちゃん、どう思う?」
多比人は経験豊富な葵に尋ねる。
「まあ、案外少人数の方が動きやすいだろう。しかも多比人の顔を知っているものなど、ほとんどおるまい。神界を旅するだけというのならあまり心配はいらん。ただ、反神都勢力に近づくときは、必ず最初に楓に探らせてからにしなさい」
「わかりました。楓、頼んだぞ」
「おまかせください!」
楓が立ち上がって、胸を張る。
「そこで、ちょっと相談があるのですが……」
打って変わって申し訳なさそうに多比人が言う。
「神界のお金って、どうやって手に入れたらいいんでしょうか?」
旅をするにしても、反神都勢力に接触するにしても金が要る。多比人は会社を経営したり、投資をしていた祖母の遺産のおかげでかなりの財産を相続していた。しかし、それを神都のお金、神銭に換金する術を知らなかった。
「何だ、そんなことで悩んでいたのか。春姫様は本当に何もお前に言っていなかったのだな」
そう言うと葵は、多比人達を連れて屋根裏へと続く階段を登っていった。
隅に置かれていた、大きな木箱を葵が開けると、光り輝く小判が大量に入っていた。
「こ、これは!?」
この小判がすべて金で出来ているとしたら、いったいどれくらいの金額なのだろうか。多比人は卒倒しそうになった。
葵が小判を一枚取り出して多比人に見せる。
「これ一枚で一神両。一神両は十万神銭。価値的には、下界で言う十万円ってとこだな」
黄金がうなっているというのは、こういう状態を言うのかと多比人は思った。
「多比人、東ノ庄は金の産地だ。これが東ノ庄の力の根源だ。これは春姫様がお前に託したものだ。好きに使え」
多比人は大量の小判を見ながら、改めて自分が祖母の策にはまっていることを思い知らされた。
でも、もう決めたのだ。
祖母の策ではなく、自分から雪と楓と一緒に神界に飛び込むのだ。神界は祖母が英雄となり、追われた場所。それでも祖母は、僕に防人になってほしいと願っていた。その神界を自分の目で見て、自分の足で巡りたい。そこで実際に自分が見聞きし、感じることを大切にしたい。そして祖母とは違う、自分に合ったやり方でみんなを助けたい。
多比人は雪達を見回しながら、そう思った。




