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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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26.多比人の気持ち

(雪のような素敵な女性と婚約出来るなんて夢のようだ)


 多比人は心からそう思っていた。


 美好課長にこっぴどく振られて、一生結婚なんて出来ないと言われ、左遷された挙句、突然出来た婚約者に、多比人はぞっこんだった。


 特に、一目惚れした相手に斬り殺されそうになるという刺激的な体験が、多比人に強烈な感情を植え付けていた。


(雪に殺されるならいいかも)


 雪と毎日同じ屋根の下に暮らし、雪が作ってくれたご飯を食べ、三つ指ついて会社に送り出してくれる今の生活がたまらなく幸せだった。


 でも、多比人はいつも不安にさいなまれていた。


(雪は本当に僕と婚約して良かったのだろうか)


 結婚を申し込まれた理由だって、自分が防人だと分かり、姉の救出に役立つと思ったからなのだろう。『婿見せ』は愛姫様と戦うチャンスであり、それは結婚した者しか呼び出されない。そのための結婚だということは分かっている。


(つまり、僕は姉の救出のために雪に利用されているに過ぎない)


 それでも多比人は良いと思った。姉の救出のために利用されようが、そのことで雪と結婚でき、今もこうしてひとつ屋根の下、夫婦のように暮らしていられるなら十分だと思った。


(でも、姉のためとはいえ、こんな僕と仮初にも夫婦になるということを、雪は相当無理しているのではないだろうか)


 ひょんなことから布団を並べて一緒に寝るようになったものの、雪は一言も話すことなく布団に入ってしまう。


(雪、めちゃくちゃ寝返りしているよな)


 多比人が寝ていると、となりの布団の中では雪がしょっちゅう寝返りしていた。


(私は起きていますよ。寝込みを襲ったら承知しませんよってことなんだろうなあ)


 多比人はいっそのこと、雪の布団の中に入ってみようかとも思ったが、雪が寝返りを打って警戒していると感じ、何も出来ずにいた。


(姉のために形上の結婚はするけど、体は許さないってことなのかなあ)


 多比人は雪が料理を作ってくれたり、きちんと家事をこなしてくれることを考えた。


(形上の妻としての仕事はこなします。隣の布団に寝て、夫婦のように暮らします。でも、絶対に体は許しません、ってことなんだろうか)


 多比人は少し悲しくなった。


(雪と結婚できたとしても、これは辛いなあ。そう言えば、婚約したというのにキスすらしたことがない。これって順序的にどうなんだろう。まずはキスしたい)


 多比人は脳みそをフル回転して考えた。


(自然だ、自然な雰囲気でキスできる状態に持ち込むのだ)


 自然な雰囲気をどうやって作り出せるのか。多比人は考えた。


(楓だ。いつも楓がちょろちょろしているせいで、雪と良い雰囲気になれない。まずは雪と二人きりになる状況を作らなければ)


 多比人は、北ノ庄から神界に入る際、北山リゾートのホテルに招待すると言っていた、北山の言葉を思い出した。


(高級ホテルでの二人っきりの夜。これだ、これしかない。神界に入る前夜にキスをして、その勢いで神界に入れば何事も上手くいく気がする! 決断できる男になれる気がする!)


 手を握りしめ、多比人は決意を新たにしていた。


(あ~、雪とキスしたい。考えたら興奮してきた。あ~早く神界に行きたいなあ)


 徐々に神界に行く目的が、当初からずれ始めていることに、多比人自身は気づいていなかった。



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