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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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21.雪姫の想い

(防人様って、想像していたのと違った)


 多比人が仕事に出かけ、楓が葵の特訓に出かけた日中、家事の手をふと止めて雪は思った。


(防人様って、強くて光り輝いていて、もう、何も考えずについて行けばそれでいいと思っていた)


 雪は多比人と出会ってからのことを考えていた。


(ずっと自分を打ち負かした男と結ばれることを夢見てきた。姉が囚われてからはいっそう鍛錬し、周りからは姉を越えたのではとも言われた。そんなわたしを打ち負かすことが出来る男であれば、きっと姉を救い出してくれると思っていた)


 つけっぱなしのテレビでは、ワイドショーでコメンテーターが好き勝手なことを言っている。


(でも、そんな都合の良い男は当然現れなかった。友達が皆結婚していく中、わたしだけが恋人も出来ずにひたすら鍛錬して強くなっていった。だからと言って、愛姫様に到底勝てる自信もなかった。姉を救い出したい、鷹姫おばあ様をもっとよく補佐したい、でも自分にはどちらも上手く出来ない)


 洗濯が終わったことを知らせる電子音が聞こえてくる。


(自分で自分が許せず、でも、誰かに助けてほしくて気が狂いそうになっていた。いつしかわたしは、独りで下界との境近くの林で剣を振るうようになった。あそこなら、気味悪がって誰も来ないからだ)


(そんな時、突然現れたのが多比人様だった。あの時のわたし、酷い顔をしていただろうなあ……しかもいきなり斬りかかるなんて、今思うとどう考えても尋常じゃない)


 雪は思い出しながら、後悔のため息を大きく吐く。


(わたし多分、もう限界だったんだ。姉の代わりになりたいし、それを期待されているけど自分には無理。姉を取り返せばすべてから解放されると分かっていてもそれも無理。でもやらなきゃいけない。そんな時、現れたのが多比人様だった)


(かっこよかったなあ、多比人様。わたしの剣がまるで歯に立たなかった。わたしが何度渾身の剣戟を打ち込んでも、余裕でわたしの胸のあたりを見ていた。きっと体幹の動きを見切っていたのだろう。片手間にわたしの剣をさばいている感じだった。あんなの初めてだった。わたしの剣を飛ばされ、地べたに仰向けにされ、喉元に剣を突き付けられた時、興奮して思わず抱き着きそうになってしまった)


 その時のことを思い出した雪は、恥ずかしくなって両手で顔を覆う。


(しかも突きつけられたのは、何度も話で聞いていた防人様の剣。おまけに春姫様のお孫様だって言うし……。剣が多比人様の手に吸い込まれていったのを見た時、わたしったら興奮のあまり、結婚まで申し込んじゃって……しかも結婚してくれなかったら死ぬなんて言っちゃって……自分がこんなに積極的な女だって知らなかった)


 雪は恥ずかしさのあまり、たたんであった衣類をポコポコ叩く。


(勢いで申し込んだ結婚を取り消されたくなくて、いきなり実家に連れて行って公認の仲にしてもらった。皆の前で鷹姫おばあ様に認めてもらって、誰がどう見ても多比人様をわたしのものにしたかった)


 また、大きなため息を雪が吐く。


(わたしったら自分のことばっかり。多比人様はお優しい人だから、きっとそんなわたしを哀れに思って、しかも強引さにびっくりして結婚を了承してくれたのだろう。その挙句にわたしからも皆からも愛姫様を討ち取ってほしいと神討ちまでお願いされて……。北山様に聞いて初めて知ったけど、西ノ庄の防人様って、愛姫様に負けちゃったんだ……知らなかった)


 雪は、再び両手で自分の顔を覆う。


(防人様なら神討ちなんて簡単なことだと思い込んでいた。でも、北山様の話を聞いて、防人様といえど危険なことだというのが良く分かった。多比人様、わたしと結婚するのと引き換えに、そんな危険なことをするのって割が合わないとか思っていないかな……)


(多分、多比人様はお優しいから、鷹姫様や庄のみんなの願いだから引き受けてくださったのだと思うけど、どう考えてもわたしとの結婚は余計だ)


(しかもわたしと一緒にいればいるほど、わたしが何も出来ない女だと、がっかりされているのではないだろうか。時姫の妹だからと期待したのに、何だこれはと……)


 テレビではダイエットに良いという商品の宣伝が流れている。


(防人様は、何も考えずについて行って、すべて解決してくれる存在だと思っていた。でも、多比人様はすごく繊細でお優しいお方だった。防人様の剣だって、多比人様がわたしや皆の勝手な願いの押し付けで、神討ちという危険な行為をさせられることに不満で出てこないのだろう。でも、多比人様はそのことを気に病んでおられる。わたしは妻としてそのことをお支えしなければならないのに、何も出来ていない)


(よっぽど楓のほうが多比人様のお役に立てている)


 テレビから聞こえる笑い声に、雪の気持ちはさらに沈んでいく。


(楓とは同じ布団で寝たって言っていたけれど、多比人様は楓みたいのがお好みなのだろうか。確かに楓は十六歳で成人したばかり。二十一歳の行き遅れのわたしよりずっといいに決まっている)


(鷹姫おばあ様は、男なんて隣にいさえすれば勝手に向こうから襲ってくるなんて言っていた。それなのに、わたしが隣の布団で寝ていても多比人様は何もしてこない。やっぱり結婚なんて約束するんじゃなかったって思っているのかな)


 雪の目から、涙があふれてくる。


(いつ婚約を破棄されるのかと思って、毎日びくびくしている。でも、多比人様との婚約は絶対に破棄したくない。あんなにわたしのことを優しく気にかけてくださる殿方は初めてだ。防人様があんなに優しい方だなんて思わなかった)


 涙をたたんだばかりのタオルで拭きながら雪は思う。


(この家で多比人様と暮らす生活が好き。もう、神討ちや時姉様や鷹姫おばあ様を救い出すなんてどうでもいいと思っている自分がいる。すべてから逃げ出して、ここで静かに多比人様と一緒に暮らしていたい。わたしは何て残酷で薄情な女なんだろう。あんなにわたしを大切にしてくれた時姉様や鷹姫おばあ様が、今こうしている間にも囚われて酷い目に遭っているというのに)


 雪の目から涙があふれ出てくる。


(もう神討ちなんてしないでほしい。多比人様がいなくなってしまったら、わたしは生きてはいけない)


 雪はこのところ、独りになるとずっとこんな風に考えてうじうじ涙を流していた。


(ダメだダメだこんなことばかり考えていては。うじうじしている女なんて、殿方が嫌うに決まっている。そう言えば、狙っている男の胃袋をつかめと時姉様が言っていた。この前山でイノシシを見かけたから、今日はそいつを獲って、多比人様に精のつくものを食べていただこう)


 そう決心すると、雪は洗濯物を干した後、自分の刀を持って山の中に出かけて行った。





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