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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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20/22

20.須山支社

 或る日、多比人が出社すると、いつも多比人に嫌がらせをしていた課長に代わって、東京本社から新しい課長が来ていた。


「岡本さん!」


「お~、多比人君じゃないか。君も大変だったなあ。元気か?」


 今回赴任してきた岡本課長は、東京本社での多比人の知り合いだった。それほど頭の切れる人物ではないが、やさしく誠実で、信頼できる男だった。


「うちの社長も悪い男ではないんだが、今回のことは全面的に社長が悪いと私は思っている。大変だったな。でも、俺は須山支社に多比人君がいて助かるよ、よろしくな」


 この日を境に、須山支社での多比人への風当たりは急激に弱まり、いままで蚊帳の外だったプロジェクトにも関わらせてもらえるようになった。


(あきらめずに頑張っていると、道は開けてくるんだな)


 そう思って、多比人は嬉しくなった。


(そう言えば、岡本課長の前任の堀岡課長、どうしちゃったんだろう)


 噂によると、浮気が奥さんにバレて、浮気現場のホテルに乗り込んで来た奥さんと浮気相手が刃傷沙汰になり、飛んできた包丁がお腹に刺さって入院中とのことらしい。


(人生何が起こるか分からないものだ。まあ、俺は絶対浮気なんてしないけど)


 多比人はそう思いながら、今日も雪の待つスイートホームへと帰って行った。




☆ ☆ ☆




「新しい課長が来てから、職場の雰囲気もだいぶ良くなったよ」


「あら、それは良かったですね」


 隣でお酌をしてくれながら、雪が相槌を打つ。


「それにしても、前の課長は急にいなくなっちゃったんだよなあ。突然浮気がばれて刃傷沙汰になってしまうなんて、びっくりだよ」


「……浮気は、いけませんね」


「だ、大丈夫、僕は生涯雪だけだよ。絶対浮気なんてしないから」


「……浮気なら……いいです。ちゃんと戻ってきてくださるなら」


 うつむいてそう言う雪の言葉に、多比人はどぎまぎしてしまう。


(妻公認の浮気OKってことだろうか? いや、いかん。そんなことするわけがない)


「いや、そう言う話じゃなくて、課長が急に代わったって話だよ。そう言う話だったよな、楓」


 多比人は助け舟を出してほしくて楓の方を見る。すると、スッと視線を楓が逸らした。


「……楓……お前……何かした?」


「いや~雪姫様のお料理は相変わらず絶品ですなあ。こんな素敵な奥様がいらっしゃる我が主は幸せですなあ。いやまったく」


 雪が顔を真っ赤にして下を向く。


「楓ったら……素敵な奥様だなんて……。お代わりありますよ、もっとお食べ」


「ありがとうございます! 雪姫様!」


「おい、楓、話を逸らすな。お前……何かしただろ」


「あ~雪姫様のお料理は美味しいなあ。美味しすぎてしゃべる暇がありません」


 しらを切り続ける楓を見て、多比人は末恐ろしくなった。


 最近、多比人の仕事中、葵と楓が自分の周囲に目を光らせていることを薄々知っていた。最初は、目を光らせているだけならよいかと黙認していたが、自分に害をなす人達に工作活動まで始めてしまったようだ。


 今にして思えば、都落ちだと言って、自分に辛く当たっていた経理のお局様も、ちょっと前に経理の不正がばれて、退職してしまっていた。


 ひょっとしてあれも楓達の仕業だったのだろうか。今後は、職場で誰かと仲が悪い素振りなど、絶対に見せられないと多比人は思った。


「……悪は滅びる……」


「何? 楓、今何か言った?」


「いえ、何も言ってはおりません。ごちそうさまです」


 そう言って、楓は不敵な笑みを浮かべて自分の部屋へと戻って行った。


 最近、祖母への忠誠心が、そのまま多比人に向いている葵から、楓がもろに影響を受けているようで多比人は末恐ろしく感じた。


 そんなことを思いながら、多比人は自分が計画していることを、雪や楓だけでなく、葵や坂元先生にも相談してみたいと考えていた。




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