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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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18/22

18.密約

「どうして北山さんは、神都の敵である、『神討ち』しようとする僕にいろいろ教えてくれるんですか」


 多比人の問いに、北山は頭を振って答えた。


「勘違いしてもらっちゃ困るよ。私は別に神都の味方でも何でもない。ただひとつ、北ノ庄の味方なんだ」


 少しためらってから、北山がさらに言った。


「多比人さん、大変失礼なことをこれから言うけど、気を悪くしたらごめんね。君のおばあさん、春姫様はどうして神界を離れて下界に住むことになったと思う?」


 多比人はそう聞かれて、すぐには返答できなかった。考えたこともなかった。そう言えば祖母は愛姫様を討った英雄。どうして神界から去って、黒森村で暮らしたのだろう。


「それはね、神界の人から非難されて追われたからだよ」


 多比人は驚いて北山の目を見た。


「春姫様はね、愛姫様の行いに苦しんだ神界の人達の要望に応えて『婿見せ』を行い、『神討ち』をした。それで愛姫様はいなくなり、囚われていた人達は解放され、重税は無くなった」


 そこまでは、多比人も知っている話だった。


「しばらくの間、春姫様は英雄だと民衆から感謝されていた。でも、愛姫様がいなくなってからというもの、五年間続けて農作物の不作が続き、民は飢えに苦しんだ。民はこれを愛姫様を討った春姫様のせいだと考え、非難したのさ」


 北山は紅茶をすすると、ため息交じりに言った。


「民の願いで神を討ったというのに、そのことで民から非難される。理不尽でやりきれない話さ。嫌気が差した春姫様は、自ら夫とともに、下界で暮らすことにしたんだよ」


 知らなかった。多比人は、祖母は英雄であるとは聞いていたが、そんな辛い目に遭っていたなんて知らなかった。


 多比人は瓦版で、もてはやされていた自分が、手のひらを返したように『ニセ防人』と非難されたことを思い出した。


「多比人さん、君が東ノ庄にいると、やたら庄の民がお供え物を持って来なかったかい?」


「そ、そう言えば持って来ていました」


「それって、春姫様を追い出した後ろめたさだよ。自分達で追い出しておきながら、下界から睨みを利かせていた春姫様のおかげで、東ノ庄はずっと無税で自治独立を勝ち取っていた訳だからね」


 多比人は初めて聞く、祖母の歩んだ足跡を想って胸が苦しくなった。


「私は自分の愛する北ノ庄だけが良ければいい。北ノ庄さえ良ければ、他の庄がどうなろうが知ったこっちゃない。そのためには神都とも手を結ぶし、役割を放棄した『何もしない防人』と罵られても構わない」


 ああ、自分のことを薄情だと皮肉っているけれど、この人にはその生き方を歩む覚悟があるのだと多比人は思った。だからこそ、いとも簡単に『蒼世』が出てくるのだ。


「多比人さん、私が君にいろいろ情報を教えて、何か助けになりたいと思っているのは、北ノ庄の利になると思っているからなんだよ」


「僕を助けることが北ノ庄の利に?」


「そうだよ。神都にとって最も嬉しいことは、私達防人同士がいがみ合って争い、共倒れすることだよ。そうすれば、東ノ庄も北ノ庄も手に入り、脅威は排除される。私達の仲が良いと分かれば、二人が結束して神都に対抗することを恐れ、ますます北ノ庄に手を出せなくなる。どうだい、そうじゃないかい?」


 多比人は北ノ庄の防人である北山の考えに圧倒された。自分より多くのことを考え、より強い意志で自分の愛する北ノ庄を守っている。果たして自分はどうなのだろうか。


「多比人さん、ここで提案だ。通常は、北ノ庄の下界と神界を結ぶ場所はトップシークレットだ。だが、ここの通行を君に許可しよう。その対価として、私と密約をかわしてほしい」


「密約、ですか?」


「そう。私と君だけの密約だ。なあにそんな難しいことではないよ。要は二つのことだけ」


「二つ?」


「ひとつは、北ノ庄に絶対敵対しないということ。もう一つは、常に我々防人同士が友好的にふるまうということさ」


 悪い話ではない。そもそも北ノ庄と敵対するつもりもないし、北山とは友好的でいたいと多比人は思った。


「『北ノ庄と敵対』とは、具体的にどの範囲まで該当するのですか。北ノ庄は神都と密約をかわしているとお聞きしました。神都への攻撃は、『北ノ庄と敵対』に該当するのでしょうか」


 この密約が、『神討ち』の障害になってはならないと多比人は思った。


「該当しない。『北ノ庄と敵対』とは、多比人さんや東ノ庄による、北ノ庄への直接武力攻撃のことだよ」


 北山は多比人の目をしっかり見て言った。


「多比人さん達の目的は、鷹姫様や時姫様を取り戻し、東ノ庄を復興することだよね。さっきも言ったけど、私は神都がどうなろうと知ったこっちゃない。北ノ庄が良ければそれでいいんだよ。大概のことは私の力で何とかなるけど、多比人さんの防人の力だけはさすがの私も戦って無傷というわけにはいかない。君は北ノ庄にとっても唯一の脅威なんだよ。それを取り除きたいということなんだ」


 北山は偽りを言っていないと多比人は思った。有能なビジネスマンでもあり、北ノ庄を率いる政治家でもある北山は、一筋縄ではいかない策士的な面も併せ持つ男ではないかと多比人は想像していた。北山は相手に真摯であることで、『北山リゾート』をこの若さで築きあげたのだと多比人は理解した。


「分かりました。直接武力で北ノ庄を攻撃しない、私と北山さんが友好的であること、了解しました」


「じゃあ、密約成立ということでいいかな」


「はい」


「雪さんもOK?」


「多比人様が問題ないならわたしも文句はありません」


「そこのシノビちゃんもいいかな?」


「……」


「シノビちゃん? 何かあるのかい?」


「武力攻撃がダメということは、わたしがそこの久禮とかいうシノビに勝負を挑むこともダメなのでしょうか?」


「……久禮、どう?」


「私は防人のシノビとしての覚悟もない小娘に、いくら挑まれても負ける気はしないので、大丈夫です」


「うぬぬぬ」


「じゃあ、シノビちゃんが久禮に勝負を挑むのは例外として良しとしようか。久禮もあんまり酷いことしちゃだめだよ」


「手加減はわきまえております。あんなのでも、私の尊敬する葵様のお仲間のようなので」


 雪が楓の首根っこをつかんで抑えている。


「じゃあ、これで密約成立だ。文書も作成しない、紳士協定だからよろしくね」


「わかりました。よろしくお願いします」


 多比人と北山は立ち上がるとそう言って握手を交わした。


「あと、妻には絶対に私の下界での女関係のことは、内緒にしておいて欲しい」


 そう言った北山の目は、笑っていなかった。



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