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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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13/22

13.我こそは防人である

 楓を待つことにしたものの、一時間経っても二時間経っても楓は帰ってこなかった。三時間経った頃、多比人はしびれを切らして自分も庄の中に行くことにした。


 林の中から少しずつ庄に近づくと、いろいろなものが焼けた臭いと、血の匂いが混ざった嫌な臭いがしてきた。


(これが(いくさ)の臭いか)


 多比人が近くを見ると、庄の人の遺体が何人か転がっていた。多比人は初めて見る他殺体に激しく動揺した。しかし、自分も殺されるかもしれないという必死な思いから、遺体からきれいそうな衣服をはぎ取り、自分の着物を脱いで着た。顔を炭で汚し、庄の通りに出る。


 通りの脇では、瓦版が売られていた。売人が口上を大声で叫んでいた。


「何と、我々東ノ庄の善良な民の前に現れたのはニセモノの防人だった! 鷹姫や雪姫達が自分達の私利私欲のためにニセモノの防人を担ぎ上げ、我々を欺いた! 愛姫様はそれを悲しみ、鷹姫達を罰したが、民には何の罪もないと炊き出しをしてくださるとのこと! 我々は愛姫様のもと、神都に忠誠を尽くそうぞ!」


 庄の民達が争うように瓦版を買っていた。先日まで防人のことを褒めちぎっていたと思えば、今度は民を欺くニセモノ呼ばわりだ。


 多比人は背筋が寒くなるのを感じた。


 顔を襟で隠しながら、多比人は庄館へと向かった。立派だった庄館は無惨に焼けただれていた。見てみると、焼け残った柱に一人の少女が縛られていた。


「おい、ニセ防人はどこに行った! 吐け!」


 そう言って、その少女は武者から焼け残った角材で叩かれていた。相当叩かれているのだろう。少女の体は傷だらけだ。


「知っていたって言うもんか! いずれお前達は防人様が成敗してくれる!」


「まだ言うか!」


 武者が少女を角材で勢いよく叩く。ひどい音がする。


「やめろ! 東ノ庄の防人、数馬多比人ならここにいる!」


 多比人は自分が思わずそう叫んでしまったことに、自分自身でびっくりしてしまった。


 叫んでしまった以上、後戻りは出来ない。もうどうとでもなれと、多比人は少女と武者の間に割って入る。武者が驚いて後ずさる。


「楓、これで縄が切れるか」


「主様!」


 多比人は焼け跡で拾った小刀を、縛られている楓にそっと渡す。


「防人だ! 俺達を騙したニセ防人が現れたぞ!」


 周囲の庄の民が多比人を見て指差し、口々に叫ぶ。


 それを聞いた周りの武者達は、多比人から距離をとって刀の柄に手をかけ、身構える。


「貴様がニセ防人か! 神妙にしろ!」


 武者達の指揮官らしき男が裏返った声で多比人に言う。明らかに動揺している。


「我こそは春姫の孫であり、防人を受け継いだ数馬多比人である」


 そう低い声で言いながら、多比人がギロリと武者達を見渡す。びくりと武者達が後ずさる。どうやら完全には多比人のことをニセモノとは思っていないようだ。ざっと見て三十人程か。本隊が来ないうちに片づけたい。


「俺が偽物かどうかは、俺の聖剣『神祓(かみはらい)』に聞いてみるか?」


 多比人がにやっと笑う。また武者達が後ずさる。


(主、縄が切れました)


 小声で楓が伝える。


「誰も我が『神祓』を見た者がいないのは、すべて我が手によって斬られたからだ」


 さらに武者達が後ずさる。


「我が『神祓』を見たい者、前に出よ!」


 多比人がパッと右手を横に出し、手のひらを広げる。


「ひいいいいいいい!」


 武者達は悲鳴を上げると我先に逃げ出した。


「楓!」


「はい!」


 多比人は踵を返すと小脇に楓を抱え、もと来た山道へと走り出した。


「我が主、最高です! 惚れなおしました! あいつらのビビった顔見ましたか! クケケケケ」


 角材で結構酷い殴られ方をしていたが、相変わらずの楓の発言を聞いて多比人は安心した。楓の体が軽くて良かった。楓を背負いながら山道を走る。


「鷹姫様は捕虜となって神都に連れて行かれたそうです。基久(もとひさ)様は他の庄に出かけていて無事だそうです」


「雪は?」


「……雪姫様は神都軍と応戦し、傷を負って下界との境付近まで逃げたとのことですが、現在行方不明です」


「下界との境付近?」


「はい、下界との境付近は普通、神界の者は気味悪がって近寄りません。それで逃げ込んだのでしょう」


 多比人は負傷した雪のことを想うと、胸が張り裂けそうになった。


「絶対に、絶対に雪を幸せにすると決めたんだ!」


 多比人は自分でもどこから力が湧いてくるのかと思うぐらい、ものすごい速さで山道を走った。


 しばらくすると、今朝、多比人と楓が山道に入った入口までたどり着いた。前に雪に連れられて通った道を、少し庄の方面に戻ると古びた祠に出た。


 その祠の扉を多比人が開けようとした。


「なりません、主! この祠の戸を開けると祟られると言われています」


 ちらっと楓を振り向いた多比人は、祠の戸を開け放った。


 すると中には、刀を構えた雪が息も絶え絶えに潜んでいた。


「……た、多比人様……」


 そう言うと安心したのか、雪が気を失って倒れた。着物は血だらけだった。


「ゆ、雪! 大丈夫か!」


 多比人は雪を抱えながら叫ぶ。


「主、追手です!」


 楓の声に振り向くと、武者が何十人もわらわらとやって来る。


「いたぞ~!」


「ニセ防人だ~!」


「ハッタリ防人だ~!」


 武者の声が近づいてくる。


 多比人は気を失った雪を背負うと、下界との境の洞穴へと走った。楓の手をつなぎ、真っ暗な洞穴へと飛び込む。


 ふっと明るくなった先では、古舞山(こぶやま)の風を頬に感じた。多比人は雪を背負いながら倒れ込んだ。山道を走り続けて体力は限界をとうに過ぎていた。


「多比人~!」


 葵の叫ぶ声を聞きながら、多比人は心底安心して気を失った。



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