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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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11/22

11.北ノ庄の防人様

「あるじ~、お帰りなさ~い!」


 多比人が仕事から帰ると、居間で畳の上に寝そべりながら楓はテレビを見ていた。


「下界は美味しいお菓子があるんですね~。この『かっぱかにせん』、とまらないんですけど」


 くつろぎ過ぎている自分のシノビに呆れながら、多比人は言った。


「葵ばあちゃんの特訓はどうなったの?」


 テレビから目を離さずに楓が答える。


「主を守った名誉の負傷で楓は現在療養中です。このテレビってすごいですね。お昼にやってたドラマ、人妻が不倫してドロドロのやつ、最高に面白かったです」


 下界を満喫している自分のシノビに多比人が言う。


「今晩は冷麦でいい? スーパーでてんぷら買って来たよ」


「楓は冷麦大好きです! 主は雪姫様の良い旦那様になりますね~」


「そ、そうかな……」


 多比人がまんざらでもなさそうに頭を掻く姿を見て、楓は思った。


(主様、ちょろ過ぎです)


 多比人が調理した冷麦を机の上に置き、楓と二人で夕食を食べ始める。自分以外に家に誰かいるのは良いなあと多比人は思った。特にこの実家は広く、自分ひとりだけだと寂しい。


 テレビでは、『北山リゾート』の北山社長が、女優と浮名を流しているのが報じられていた。北山社長はとっかえひっかえ美人で有名な女優、モデルやアイドルなどとつき合うプレイボーイとして最近よくテレビで取り上げられていた。


「すごいね、この人。何であんな美人とたくさんつき合えるんだろう。女の人も嫌じゃないのかな。それとも、それ以上に魅力的なのかな」


 楓は麺を口にくわえたまま、テレビに見入っている。


「どうしたの? 楓もこういう人に憧れるの?」


「……主、このモテモテ男……防人様です」


「防人!?」


「そうです。この人、『北ノ庄』の防人様の北山様です。『北ノ庄』に美人で性格も良いと評判な奥様がいながら、下界でこんなことしていたんですね~。奥様御存じなんでしょうか? ふ、不倫?」


 楓が目を輝かせながらテレビを見ている。


 テレビでは、北山社長にインタビューしようと群がる記者達を、綺麗な女性秘書が押しとどめていた。


「ああ! この女、『北ノ庄』の『防人のシノビ』です! あいつこんなことしていやがったのか!」


 療養中とは思えない勢いで楓が立ち上がってテレビを指さす。


「何だ! あんなミニスカートのスーツなんて着やがって、イヤらしい。シノビのプライドはないのか! 主、楓も主の秘書としてミニスカスーツ着たいです!」


「ああいうのは身長がないと似合わないよ」


「二年後、いや、一年後には伸びています。そしたらスーツ買ってください!」


「僕は社長じゃないから秘書なんていらないよ」


「くっ、主は社長じゃないんですか。じゃあこれから社長になって楓を秘書にしてください! 北ノ庄の防人様に出来て、東ノ庄の防人様に出来ないことなんてないでしょう!」


 悔しがっている楓に、多比人は聞いてみた。


「ところで、神界に防人って僕以外にもたくさんいるの?」


「はあ? 主は何を言っているんですか? 防人様がそんなにうじゃうじゃいたらどえりゃーことですよ」


 てんぷらを食べながら楓が多比人を冷ややかな目で見る。


「神界には下界との接点となる、東西南北の庄にひとりずつ、合計四人の神界の守護者たる防人様がいました」


「いました?」


「そう、いました。昔はその四人の防人様が神界を守るとともに、愛姫様が行いを乱されると、それを正して神界の秩序は保たれていたのです」


 楓が冷麦を大皿から自分の器によそる。


「防人様はその能力として神界と下界を行き来できます。行き来している間に下界の女にうつつを抜かした南ノ庄の防人様は行方不明。単身愛姫様に挑んで返り討ちにあった西ノ庄の防人様は絶えました」


「……へ、へぇ~、西ノ庄の防人って、愛姫様に負けたんだ……」


「現在残っているのは我が主含めて二人だけです。しかも北山様は愛姫様の言いなりで、『何にもしない防人』ですから役には立ちません。いや~、あの奥様を大切にしていると評判の北山様が下界でこんなことをしているとは。クケケケケッ、奥様に知れたらどういうことになるのでしょう? 修羅場?」


 お昼の不倫ドロドロドラマに洗脳された楓が嬉しそうに笑う。


「北山社長の『北山リゾート』って、最近急成長して凄く儲かっているって話だよ。防人をやりながら下界で事業も成功させるなんてすごいね」


「すごいやり手で甲斐性があるから女も寄ってくるのでしょう。主も頑張ってください」


「頑張るって、無理だよ。僕はしがないサラリーマンだし」


「では楓が主の上司にあたる方々をすべて暗殺し、社長に登り詰めさせて差し上げましょう」


「そういうの止めて。そういうこと言うから会社についてくるなって言っているんだよ」


 今朝、楓が多比人と一緒に会社に行くというのを、家にあるスナック菓子をいくらでも食べていいからという条件で止めさせたのだ。


「主は変なところでお堅いところがありますね」


「変なところって、上司を暗殺するなって言っているだけでしょう!」


「……ほう。殺さなければいいと」


 楓がニヤリと笑う。


「お前、やっぱり絶対会社についてくるな」


 多比人は明日、大量にスナック菓子を買ってくることに決めた。




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