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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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10.大神官

 神界の中心、神都は東西南北に走る碁盤の目のような道で区画されており、その中心に位置する朱雀大路の北に、女神の住む神館があった。最上位の神が住む印として、張り巡らされた高く白い城壁には七本の線が引かれていた。


 その神館の奥深く、人間では最高位である大神官の執務室に、ひとりの女官が入って行った。


「大神官様、東ノ庄の節枝(ふしえ)殿からのご報告でございます」


 その声に、年配の女性が机の上の書類から顔を上げた。


 金で縁取りされた巫女服を着ており、左手首には大神官をあらわす黄金の腕輪が光る。


「東ノ庄に現れた防人は、『神祓(かみはらい)』も出現させることが出来ず、襲撃しても逃げ回るばかりだったそうです」


「ふむ」


「やはり防人が現れたというのは偽りであったのでしょうか。祈祷札の価格を三倍に上げ、黒平良(くろべら)の共同採掘を申し入れたこのタイミングでの出現は、都合が良過ぎます」


 大神官と呼ばれた女性は、握っていた筆を置くと言った。


「雪姫は時姫の妹だ。聡い娘と聞いている。それが見誤ることは考えにくい。聖剣は防人との信頼関係で出現すると聞く。まだ防人は聖剣を使いこなせてはいないのだろう」


「では、防人は本物と?」


「本物でも偽物でもこの際どうでもよい。聖剣を使いこなせなければ本物でも偽物と同じだ。今がチャンスだな、少々の危険を冒してでも黒平良は欲しい」


 大神官は書類に再び目を移すと、こう言った。


頼光(らいこう)を呼べ」


「はい。いよいよ東ノ庄攻めですか」


「シノビを放ち、東ノ庄が偽物の防人を担ぎ上げ、愛姫様に謀反を企てているとの噂を流せ。さらに年貢の未納に、無許可に兵を集めているなどの噂を流し、今回の討伐を正当なものだと民に思わせるのだ」


「御意にござります」


 大神官の命を受けた女官が執務室から去ると、しばらくして精強そうな武官が訪れた。


「お呼びでございますか、橘樹(たちばな)様」


「頼光、仕事だ。東ノ庄を制圧しろ。春姫一族と自称防人をひっ捕らえて連れて来い」


「マジすか? 防人って山をぶった切ったり出来るって聞きますけど大丈夫なんですか?」


「奴はまだ聖剣を使えぬ。案ずるな、すぐにでも兵を出せ」


「どのくらいで行きます?」


「四千」


「四千! それじゃ神都から兵がいなくなっちまうけどいいんですかい?」


「神都の警備は龍前(りゅうぜん)にさせる。東ノ庄は神界に名だたる防人を擁す四つの庄のうちのひとつだ。兵力は少なくても侮ることはせぬ。最大兵力をもって一気に叩け、庄が灰燼に帰しても構わぬ」


「こりゃ大戦(おおいくさ)だ。まあ、給料分は働いてみせまさあ」


 そう言うと、その武者は部屋から出て行った。


 一人になった執務室で、大神官は自分に言い聞かせるように言った。


「いよいよだ。いよいよ待ちに待った春姫一族への復讐だ。春姫の孫だと? 必ずこの手で悲惨な死に方をさせてやる。生まれてきたことを後悔させるほどの苦しみを与えてな」




☆ ☆ ☆




 気がつくと、多比人は柔らかいとは言えないが、清潔なシーツが敷かれたベッドの上にいた。


「気がついたかい? 多比人」


「……あ……葵ばあちゃん」


 多比人から葵ばあちゃんと呼ばれた年配の女性は、多比人が目を覚ましたことにほっとした様子だった。


「多比人、痛みはどうだ。さっき座薬入れたけど、結構痛いだろう」


「坂元先生……ここ、坂元医院ですか? 痛ててて!」


 体を起こそうとした多比人は、体の痛みに思わず悲鳴を上げた。


「じっとしておれ! 骨こそ折れてはいないものの、全身打撲傷だらけじゃ。おとなしくしとれ!」


 坂元と呼ばれた白い顎髭が立派な医者は、包帯だらけの多比人にそう言った。


 多比人は小さい時から風邪をひいたときなどに、祖母に連れて来てもらった懐かしい坂元医院の診察室を見上げながら言った。


「葵ばあちゃんが僕をここまで運んできてくれたの?」


「そうだよ。多比人のシノビが全く役に立たないからね」


 よく見ると、診療所の隅っこで楓が小さくなって座っていた。


「葵ばあちゃん、何で楓のこと知っているの?」


 多比人がびっくりして尋ねる。


「そりゃ多比人、わたしが春姫様のシノビだからさ」


 葵と呼ばれた年配の女性は、昔から多比人の祖母一家と家族ぐるみの付き合いをしていた。今でも祖母のいなくなった家の管理をしてくれ、何かと多比人に世話を焼いてくれている。


 その葵ばあちゃんが祖母のシノビだったというのは驚きだったが、言われてみれば納得だと多比人は思った。昔から何かと祖母を助けてくれていた。だが、どうしていまその正体を明かしてくれたのだろう。


「春姫様は、多比人は防人になりたいとは思わないだろうと言っていたからね。おまえが聖剣を持って山に入ってから、帰りをずっと待っていたのさ」


「僕が山に行ったのを知っていたの?」


「あたりまえさね。シノビをなめるんじゃないよ。と言っても半端なシノビもいるけどね」


 葵ばあちゃんが楓の方を見る。


「……も、申し訳ありません」


 楓が小さい体をさらに小さくして申し訳なさそうに謝る。


「楓はよくやってくれたよ。帰ってこられたのも楓のおかげだよ」


「あ、主様!」


「甘えるんじゃないよ楓! わたしは春姫様に傷ひとつつけさせたことはないよ!」


「す……すいません」


「おまえはわたしが鍛えなおしてやるから覚悟しな!」


「ひいいい!」


 シノビの上下関係は、かなり厳しいらしい。


 翌日、多比人は包帯だらけの格好で須山支社に出社した。その姿に驚いた会社の人は、多比人への陰口すら言うのも忘れてドン引きしていた。





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