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ばあちゃんの遺品が聖剣だった!  作者: 渓夏 酔月


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103/109

103.作戦会議

 布で仕切られた帷幕(いばく)の中で、反神都軍の面々が作戦会議を行っていた。


 神都の地図が置かれた机の周りを囲むのは、多比人、雪、初姫、時姫、柿ノ木(かきのき)龍前(りゅうぜん)、西村(にしむら)義盛(よしもり)、廻目(まわりめ)頼光(らいこう)の七人だった。


 廻目が口火を切る。


「神都を囲む城壁の門は四つ。東西南北にひとつずつだ。単純にすべての門から同時に攻撃しよう。それが守る側からすれば、一番やっかいなはずだ」


「神都の兵力はどのくらいだ」


 初姫の質問に時姫が答える。


「神都内に残してきたシノビからの報告によると、もともと三千くらいはいましたが、逃亡する者が多く、今では千もいないようです」


「これは楽勝ですな」


 西村が明るい声を上げた。


「問題なのは相手の兵力じゃねえ。愛姫様の存在だ」


 そう言って、廻目が全員を見回す。


「愛姫様の力は規格外だ。現にかつて西ノ庄の防人様が敗れている。防人様が負けるようなことがあると、土壇場でひっくり返されねえとも限らん」


 みんなの視線が自分に集まるのを感じて、多比人が口を開く。


「愛姫様は僕と雪が討ち取る。勝つか負けるかじゃなくて、絶対勝たなければならないんだ。多くの庄から理不尽な税を取り立て、祈祷札で人の心を弄び、疫病が蔓延しているというのに何もしない。その諸悪の根源である愛姫様を討たなければ、何も解決しません」


 誰もが愛姫様との戦いが、すべてを決すると思っている。


「その代わりと言っては何ですが、それまでは交戦を出来るだけ避け、敵味方とも負傷者は最大限出さないようにしていただけますか」


「防人様の不殺の誓いですね。いいですよ、了解です。ただ、どうしても部下がやられそうな時に殺(や)っちまうのはいいですよね」


「それは、それぞれの判断に任せます」


 それを聞いて、安心したように廻目が頷いた。


「ところで、防人様。愛姫様とお知り合いということはありませんよね」


 そう言って遠慮がちに聞く時姫に、多比人は目を丸くする。


「僕が? 愛姫様と? 会ったことも見たこともありません」


「そうですか。以前、愛姫様が防人様を知っているかのように話していたもので……忘れてください。私も愛姫様が何を言っているのかよく理解出来なかったのです」


 時姫はそう言うと、頭を下げた。


 ずっと時姫は多比人と目を合わさない。意外と恥ずかしがり屋なのかなと、多比人は思った。


(それにしても、時姫様って美人だな。神界一の剣の達人で才女。囚われの身でありながら第三神官まで上り詰めるという優秀さ。そんな時姫様がさっきから僕の前では恥ずかしそうにして目もろくに合わさないなんて、やっぱり僕は神界ではイケメンなんだろうか。ふっ、罪な男だ。僕にはもう雪がいるんだ。ごめんなさい時姫様)


「まあ、何にしても愛姫様を防人様の聖剣でぶった斬ってもらわないと、この戦の決着はつかないことは明らかだ。大役を頼みますが、よろしくお願いします」


 廻目が頭を下げると、皆も一緒に多比人に頭を下げる。


「大丈夫です。それが僕と雪の役割です」


 多比人の力強い言葉を聞いて、時姫は思った。


(こうして見ていると、なかなかの男のようですが、お酒を飲むと変態性欲大魔王に変わるのでしょうか。酒の席では近づかないようにしましょう)


 この日の打ち合わせで、攻撃の布陣が決まった。


 神都最大の城門、南の宮門(みかど)は兵五千を率いて多比人、雪、初姫。


 西の宮門は、兵二千を率いて時姫。


 東の宮門は、兵五千を率いて柿ノ木龍前、西村義盛。


 北の宮門は、兵五千を率いて廻目頼光。頼光はほとんどの兵を伏せ、手薄と勘違いして北の宮門から逃げ出した敵を、一網打尽にする作戦だ。


 明日早朝をもって総攻撃を開始することを決めると、それぞれの部隊は持ち場へと移動を開始した。


 移動していく大兵団を総覧しながら、多比人は神界を巡る旅の終わりが近づいているのを感じていた。




☆ ☆ ☆




 街道の脇に生えた大木の上から、楓は多比人率いる大兵団を見つめていた。


 陽に照らされた甲冑が、そこかしこできらきらと輝いている。


 自分の主は反神都勢力をまとめ上げ、史上最大となる大軍団を動かして神都制圧に向かっている。


 時姫と雪の再会も果たした。


 一時はどうなることかと気を揉んだ、多比人と雪との結婚も無事に成し遂げた。


 いよいよ『婿見せ』だ。


 あの忌まわしい『婿見せ』が、いまでは希望の光のように思える。


 我が主ならば、きっと愛姫様を討つに違いない。


 『婿見せ』ではもう、自分の活躍するような場面はないだろう。


 自分の役目が終わったことを、楓は誇らしく思うとともに、さみしく思っていた。


「まあ、無事に雪姫様との結婚も出来たし、あの大軍勢を率いるまでに主を成長させました。久禮(くれい)様や葵(あおい)様も褒めてくれることでしょう」


 そう自分に言い聞かせるように言うと、楓は木から飛び降り、脇にあったお地蔵様に向かい、手を合わした。


(どうか我が主が、無事に愛姫様を討ち取れますように)


 穏やかな風が、楓の頬をなぜる。


 楓は懐から小さな瓶を取り出した。以前久禮からもらった媚薬だった。


 象を発情させるほどの媚薬ということだったが、こんなものを使わなくても、もう自分の主とその妻はラブラブだ。


 お地蔵様の隣に猫が二匹いた。


 楓はその近くに媚薬を垂らした。


 猫が舐める。


 すると急に交尾を始めた。


(もの凄い効果ですね。でも、もうこれも必要ありませんね)


 楓は瓶をお地蔵様の前にお供えすると、多比人達の軍勢を追った。


(主の晴れ舞台を見届けなくては)


 楓が去ると、お地蔵様の周囲にはまた静けさが戻った。


 いつもは人で賑わう街道も、戦の危険を避けるため、今は人っ子一人通らない。


 誰もいない街道を、重い足取りで歩く大男がいた。


「……砦は……どこだ……」


 彼の名前は朽木(くちき)孝明(たかあき)。かつて東ノ庄の侍大将をしていたが、今は日雇い労働者になっていた。


 自分の天職と信じる砦造りの仕事が、神都ならきっとあるだろうと思ってはるばる足を運んだが、どこにも募集はなかった。


 打ちひしがれて神都から出てきたところ、かつての恋敵、多比人と雪が並んで大軍勢を率いているのを見た。多比人に大好きな雪を奪われ、向こうは大軍団の総大将、自分は失業中の日雇い労働者、なんという違いだろう。


 ぐうううぅ~。お腹が鳴る。


 今日は朝から何も食べていない。


 僅かに残っていたお金も底をついたのだ。


(いまから多比人に謝って、軍団に加えてもらおうか……いや、それはあまりにも都合が良すぎるというもの。俺はあの時本気で多比人を殺したいと思っていた)


 朽木は逡巡していた。


(でも、雪はきっと俺のことを哀れに思って、多比人に許してくれるように口添えしてくれるだろう。きっとそうだ。雪は俺が惚れていることを知っている。無下にはしないはずだ)


 先ほどは、遠目ではあったが久々に雪を目にすることが出来て嬉しかった。


(俺はもともと東ノ庄の侍大将。雪だって、俺がいたほうが心強いに決まっている。しかも戦で功を挙げて、雪が俺に惚れちゃったらどうしよう。『多比人、悪いな、雪は俺のものだ』『多比人さんごめんなさい! 雪はやっぱり孝ちゃんのことが好きなの』とか言っちゃったりして)


 朽木は妄想が止まらなかった。


「よし! あの軍団に入れてもらおう! 心は決まった!」


 大きな声を出し、朽木は自分を奮い立たせた。


 ふと脇を見ると、お地蔵様の前に綺麗な小瓶が置かれていた。


 朽木はその小瓶をとって匂いをかいでみる。


 甘い匂いがした。


 ふたを開けてみる。


「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ。ぷはー、意外といけるな。腹が減っては戦は出来ないからな」


 久禮が楓に、人間に使う際は一滴でよいと言った媚薬を、朽木は一気飲みした。


「ううっ!」


 朽木が胸を抑える。


 その視線の先には、行為を終えて腕枕しながら一服しているオス猫と、腕に抱かれるメス猫がいた。


「ね、猫ちゃん……猫ちゃん大好き~!!!!」


「「フギャアアアアア~」」


 二匹の猫は、突如大男に追い掛け回され、必死に逃げる。


「待って猫ちゃん! 愛してます~!」


「「フギャアアアアアアアアアア!!!!!」」


 大男がどこまでも猫を追い掛け回す。


 結局、朽木は多比人達の軍勢に追いつくことはなかった。





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