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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第二章 百合を見る側だった私が、なぜか百合の中にいるんですけど?

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第九話 私、百合好きと言っちゃった。

 ある日の昼休み。


「……ねえ、湊ちゃん」


「ん?」


 いつものように、五人で昼食を食べていたときだった。


 莉奈が何かを思い出したように、こちらを見る。


「湊ちゃんってさ」


「うん?」


「好きなものって何?」


「急だね?」


「ちょっと気になっただけ」


「ふーん」


 私は箸を止めた。


 好きなもの。


 そう言われると。


「……まあ、色々あるけど」


「例えば?」


 彩花が身を乗り出してくる。


「漫画とか?」


「うん」


「アニメとか?」


「うん」


「ゲーム?」


「それも好き」


「じゃあ、他には?」


「他?」


 私は少し考える。


 そして。


「……百合かな」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「?」


 四人が一斉に止まった。


「……何?」


「いや」


 美咲がゆっくり聞く。


「今、なんて言った?」


「百合」


「……百合?」


「うん」


 また、静かになる。


「だから、何?」


「湊ちゃん」


 彩花が恐る恐る聞いた。


「うん?」


「百合って」


「百合」


「……あの百合?」


「他にどの百合があるの?」


「いや、そうだけど!」


 私は首を傾げる。


「私、前から百合が好きだったんだよね」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「なんでまた黙るの?」


「いや」


 莉奈が少しだけ笑った。


「そうなんだ?」


「そうだよ」


「前から?」


「うん」


 私は頷く。


「かなり前から好きだった」


「……へえ」


 美咲が何とも言えない顔をする。


「知らなかった」


「言ってなかったからね」


「なんで?」


「なんでって」


 私は少し考えた。


「別に聞かれなかったし」


「……」


「それに」


 少しだけ笑う。


「わざわざ言うことでもないかなって」


「いや」


 美咲が小さく呟いた。


「結構、大事な情報だったと思う」


「そう?」


「そう」


     ◇


「でも」


 彩花が少し首を傾げる。


「湊ちゃん、百合好きなんだ?」


「うん」


「どんなのが好きなの?」


「どんなの?」


「ほら!」


 彩花が指を立てた。


「幼なじみ同士とか!」


「うん」


「先輩後輩とか!」


「うん」


「クールな子と元気な子とか!」


「うん」


「……全部好き?」


「好き」


「即答!?」


 私は笑った。


「女の子同士が仲良くしてるのって、いいじゃない?」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……何?」


 また四人が黙る。


 今日は、なんだか静かになる回数が多い。


「……湊ちゃん」


 結衣が小さく聞いた。


「なに?」


「……前から?」


「うん?」


「……そういうの、好きだった?」


「前からだよ」


「……」


「?」


「……男子だった頃から?」


「あ」


 私は少し考えた。


「うん」


 普通に頷く。


「その頃から好きだったよ」


 四人の表情が、少しだけ変わった。


「……へえ」


 莉奈がゆっくり呟く。


「そうなんだ」


「うん」


「じゃあ」


 彩花が、にやにやしながら聞いてくる。


「男子だった頃の湊ちゃんは!」


「うん」


「女の子同士が仲良くしてるのを見て!」


「うん」


「にこにこしてたの?」


「……言い方」


「してたんだ!」


「別に、にこにこはしてない」


「してたんだ!」


「してない!」


「絶対してた!」


「してないって!」


 私は少し頬を膨らませた。


「……好きだっただけ」


「ふふっ」


 莉奈が笑う。


「可愛い」


「だから、そういうこと言わないで」


「どうして?」


「なんか恥ずかしいから」


「百合好きなのは公言するのに?」


「それとこれとは別!」


「別なんだ」


「別」


 莉奈は楽しそうに笑っていた。


     ◇


「でもさ」


 美咲がお弁当を食べながら言う。


「湊」


「なに?」


「何がそんなに好きなんだ?」


「百合?」


「うん」


「そうだなあ」


 私は少し考えた。


「……距離感?」


「距離感?」


「うん」


「どういう?」


「女の子同士が」


 私は箸を持ったまま、言葉を続ける。


「一緒に笑ったり」


「うん」


「悩みを相談したり」


「うん」


「手を繋いだり」


「……」


「お互いのことを、一番大切に思ってたり」


「……」


「そういうのが好き」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「だから、何?」


「いや」


 美咲がゆっくり箸を置いた。


「……なるほど」


「何が?」


「いや」


「なんでもない」


「最近それ多くない?」


「気のせい」


「絶対気のせいじゃない」


     ◇


「じゃあさ!」


 彩花が急に手を上げた。


「質問!」


「はい」


「湊ちゃん!」


「なに?」


「もし!」


 彩花が楽しそうな顔をする。


「自分の友達同士が、すっごく仲良かったらどう思う?」


「?」


「だから!」


「……仲良いんだなって思う」


「そうじゃなくて!」


「じゃあ何?」


「もっと!」


 彩花が両手を広げる。


「こう!」


「分からない」


「例えば!」


 彩花は少しだけ莉奈のほうを見る。


「女の子同士で、すっごく仲良し!」


「うん」


「いつも一緒!」


「うん」


「お互いのことを特別に思ってる!」


「うん」


「それを見たら?」


「……」


 私は少し考えた。


「……最高じゃない?」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……何?」


「いや」


 莉奈が口元を押さえていた。


「ふふっ」


「笑ってる?」


「笑ってないよ」


「絶対笑ってる」


「……ちょっとだけ」


「やっぱり!」


 なんなんだ、本当に。


     ◇


「湊ちゃん」


「ん?」


 しばらくして。


 莉奈が静かに私を呼んだ。


「百合って」


「うん」


「見るのが好きなの?」


「うん?」


「それとも」


 莉奈は少しだけ意味深に笑った。


「自分がいるのも好き?」


「?」


「何それ」


「別に」


「?」


 私は首を傾げる。


「私は見る側だよ?」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


 また四人が止まった。


「だから!」


 私は少しだけ声を上げた。


「なんで毎回黙るの!?」


「……湊ちゃん」


 美咲が顔を押さえる。


「なに?」


「……本当に?」


「何が?」


「いや」


 美咲は首を振った。


「なんでもない」


「絶対なんでもあるでしょ」


「ない」


「ある」


「ない」


「ある!」


 そんなやり取りをしていると。


 彩花がついに吹き出した。


「ぷっ……!」


「彩花?」


「ご、ごめん!」


「笑ってるじゃん!」


「だって!」


「何!?」


「……いや!」


 彩花は必死に笑いを堪えている。


「なんでもない!」


「それ、絶対なんでもないって顔じゃない!」


     ◇


 昼休みが終わる。


「じゃあ」


 私は立ち上がった。


「そろそろ戻ろっか」


「うん」


 四人も立ち上がる。


 いつものように五人で並び、廊下を歩く。


 私の隣には莉奈。


 後ろには美咲と彩花。


 少し後ろに結衣。


「……」


 私はふと思った。


「ねえ」


「ん?」


 莉奈が振り返る。


「みんな」


「うん」


「なんか今日、変じゃない?」


「そう?」


「そうだよ」


「どこが?」


「……」


 私は少し考える。


「百合って言っただけなのに」


 すると。


 莉奈がくすっと笑った。


「そうだね」


「?」


「百合って言っただけだもんね」


「そう」


「うん」


 莉奈は前を向いた。


「……それだけだよね」


「?」


 何か。


 妙な言い方だった。


 でも私は、深く考えなかった。


     ◇


 放課後。


「じゃあねー!」


「また明日!」


 彩花と美咲が手を振る。


「またね」


「うん、また明日」


 結衣も小さく手を振った。


「……また」


「またね」


 そして最後に残ったのは、私と莉奈だった。


「莉奈ちゃんも帰る?」


「うん」


「じゃあ、一緒に行こっか」


「うん」


 二人で歩き始める。


 しばらく、特に会話はなかった。


 すると。


「ねえ、湊ちゃん」


「ん?」


 莉奈がこちらを見る。


「今日の話」


「百合の?」


「うん」


「どうしたの?」


「……面白かった」


「そう?」


「うん」


 莉奈は少しだけ笑う。


「湊ちゃんらしいなって思った」


「私らしい?」


「うん」


「どこが?」


「秘密」


「また?」


「うん」


「ずるい」


「そうかな?」


「そう」


 私は少しだけ頬を膨らませる。


 すると。


 莉奈が楽しそうに笑った。


「……やっぱり」


「何?」


「なんでもない」


「もう!」


     ◇


 その夜。


「……百合かあ」


 私はベッドの上で、今日のことを思い出していた。


 昔から好きだった。


 女の子同士が仲良くしている姿。


 楽しそうに笑っている姿。


 お互いを大切にしている関係。


「……やっぱり、いいよね」


 私は一人で頷く。


 そしてスマホを手に取った。


 今日。


 四人のグループで撮った写真を見る。


 莉奈。


 美咲。


 彩花。


 結衣。


 そして私。


 五人が並んで笑っている。


「……」


 私はその写真を、しばらく眺めていた。


「……仲いいなあ」


 そう呟く。


 そしてスマホを置いた。


「まあ」


 私は小さく笑う。


「見るのも、こういうのも好きだし」


 …………。


「……?」


 私は一瞬だけ首を傾げた。


 今。


 何か変なことを言ったような気がした。


「……」


 でも、すぐに。


「……まあ、いっか」


 そう呟いた。


 何がおかしいのか。


 よく分からなかったから。


 ――このときの私は。


 まだ気づいていなかった。


 自分がずっと好きだったものを。


 もう、外から見ているだけではないことに。


 そして。


 それを気づかされる日が。


 すぐそこまで近づいていることに。

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