↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
最終章 これからの私

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/77

第七十六話 伝えたい気持ち、まだ知らない私

 月曜日の朝。


 鏡の前で髪を整えながら、私は星のヘアピンを手に取った。


 土曜日に莉奈と出かけたとき、選んでもらったもの。


 指先でそっとなぞってから、髪につけてみる。


「……うん」


 鏡の中の私は、少しだけうれしそうな顔をしていた。


 あの日は、本当に楽しかった。


 一緒にお店を見て、ご飯を食べて、公園で話して。


 特別なことをしたわけじゃない。


 でも、莉奈と過ごした時間は、帰ってからもずっと心の中に残っていた。


 そして、ひとつだけ。


 あの日から、ずっと考えていることがある。


 莉奈が笑うと、私もうれしくなる。


 莉奈が隣にいると、安心する。


 もっと一緒にいたいし、これからのことも話したい。


 それって、ただ仲がいいからなのかな。


「……うーん」


 考えても、すぐには答えが出ない。


 私はヘアピンをつけ直すと、鞄を持って部屋を出た。


 答えが分からないなら、焦らなくてもいい。


 でも、自分の気持ちから目をそらしたくはなかった。


     ◇


「湊、おはよー!」


 教室に入ると、彩花の元気な声が飛んできた。


「おはよう、彩花」


「おっ、今日もそのヘアピンつけてる!」


「えっ? う、うん」


 彩花は私の顔とヘアピンを交互に見て、にやっと笑った。


「お気に入りなんだ?」


「……そうだけど」


「へえー? 誰が選んでくれたんだっけ?」


「彩花……!」


「はいはい、そこまで。朝から湊を困らせないの」


 美咲が呆れたように言いながら、私の隣の席に鞄を置いた。


「でも、似合ってるよ。莉奈が選んだんでしょ?」


「美咲まで……」


「ふふ。図星みたいね」


 結衣も小さく笑っている。


 みんな、こういう話になると本当に容赦がない。


「……もう、みんなして」


 頬が熱くなるのを感じながら席に着くと、ちょうど莉奈が教室に入ってきた。


「おはよう、湊!」


「お、おはよう!」


 目が合う。


 莉奈は私の髪を見ると、ぱっと笑顔になった。


「わあ、ヘアピンつけてくれたんだ!」


「うん。……せっかくだから」


「うれしい! やっぱり似合ってるね」


 何気ない言葉。


 たったそれだけなのに、胸の奥がぽかぽかと温かくなった。


 私はきっと、こういう瞬間が好きなんだ。


 莉奈が喜んでくれること。


 莉奈が私を見て笑ってくれること。


 その笑顔を、もっと近くで見ていたいと思うこと。


 ……やっぱり、少し特別なのかもしれない。


     ◇


 昼休み。


 いつものように五人で机を囲んでいると、凛が私を見て口を開いた。


「湊、最近よく笑うようになったね」


「えっ、そうかな?」


「うん。前から笑わなかったわけじゃないけど、今はなんていうか……自分で楽しんでる感じがする」


 凛らしい、まっすぐな言葉だった。


 私は少し考えてから、うなずいた。


「……そうかもしれない」


 以前の私は、何かを決めるたびに、これでいいのかと考えていた。


 自分の姿も、周りとの関係も、これからどうなっていくのかも。


 正しい答えがどこかにあるような気がして、ずっと探していた。


 でも、今は違う。


 迷うことがあっても、自分で選んでいい。


 選んだあとに、また考えたっていい。


「神社のことも、もう大丈夫そうだね」


 凛の言葉に、私は鞄の中の鈴を思い浮かべた。


「うん。もう、何かを確かめるために行く必要はないんだと思う」


「そっか」


 凛はほっとしたように笑った。


「なら、これからは普通に遊ぼうよ。神社のことを気にせずにさ」


「賛成! 次はみんなでカラオケ行こうよ!」


 彩花が勢いよく手を挙げる。


「この前も行ったばかりじゃない?」


 美咲がすぐに突っ込む。


「何回行っても楽しいじゃん!」


「私はいいと思う」


 結衣が静かに賛成し、凛も「私も」と続けた。


 みんなの視線が、最後に私へ向く。


「湊は?」


「……うん、行きたい!」


 答えながら、私は笑った。


 こういう何でもない予定が、これからも増えていく。


 そのことが、今はとても楽しみだった。


     ◇


 放課後。


 みんなと別れたあと、私は莉奈と二人で駅まで歩いていた。


「土曜日、楽しかったね」


 莉奈が言った。


「うん。すごく楽しかった」


「また行こうね。今度は映画とかどう?」


「いいね。私、気になってるのがあるんだ」


「ほんと? じゃあ、それ見に行こうよ!」


 次の約束が、あっという間に決まっていく。


 それがうれしくて、でも、今日はそれだけで終わらせたくなかった。


「あのさ、莉奈」


「ん? どうしたの?」


「……ちょっと、聞いてほしいことがあるんだけど」


 口にした途端、緊張が押し寄せた。


 莉奈は歩く速度を緩め、私の顔をのぞき込んだ。


「うん。なあに?」


 その優しさに、余計に言葉が詰まってしまう。


 何を伝えたいのか、自分でもまだ全部は分かっていない。


 だけど、ひとつだけ確かなことがあった。


 私は、莉奈とこれからも一緒にいたい。


 楽しい日も、悩む日も。


 何かが変わるときも、変わらない日々の中でも。


「……今度、また二人で出かけたい」


 結局、最初に出てきたのはそんな言葉だった。


 莉奈は一瞬きょとんとして、それから笑った。


「ふふっ。それ、さっきも話してたよ?」


「そ、そうなんだけど……!」


「うん。行こうね。何回でも」


 莉奈がそっと手を差し出した。


 私はその手を見つめ、少しだけためらってから握った。


「……ありがとう」


「どういたしまして?」


 莉奈は不思議そうに首を傾げたけれど、何も聞かずに隣を歩いてくれた。


 今はまだ、全部を言葉にすることはできない。


 でも、伝えたい気持ちは、少しずつ形になっている。


 いつかちゃんと伝えられるだろうか。


 自分の気持ちを、自分の言葉で。


     ◇


 家に帰ってから、私は机の上に鈴を置いた。


 静かな部屋の中で、小さな鈴は何も告げない。


 もう、答えを求める必要はない。


 私が何を大切にして、誰と一緒にいたいのか。


 それを決めるのは、私自身だから。


 星のヘアピンを外し、机の上にそっと置く。


 鈴とヘアピン。


 片方は、私が自分で選んできた道の証。


 もう片方は、これからも大切にしたい人との思い出。


 その二つを眺めて、私は小さく笑った。


「……明日も、楽しみだな」


 明日は、いつもの学校。


 みんなと話して、莉奈と笑って、また新しい一日を過ごす。


 特別な奇跡がなくても、未来はちゃんと続いていく。


 そして私は、その未来を自分で選んでいく。


 そう思えたことが、何よりもうれしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。