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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第七章 鈴と守り手と私 

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第七十四話 守り手の役目、その終わりに

 翌日の放課後。


 私は、莉奈たちと一緒に神社へ向かっていた。


 昨日、長い間閉ざされていた扉が開いた。


 巫女さんと、扉の向こうにいた人が、ようやくお互いの願いを伝え合うことができた。


 それを思い出すたび、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 けれど、ひとつだけ気になっていることがあった。


 ――私の役目は、これからどうなるんだろう。


 守り手として選ばれた私。


 でも、誰かの代わりに答えを決めるつもりはないし、鈴に言われたとおりに生きるつもりもない。


 そのことは、もう決めていた。


 だからこそ、最後にちゃんと確かめておきたかった。


「湊、また考えごと?」


 莉奈が私の顔を覗き込む。


「うん。私の守り手としての役目って、もう終わったのかなって」


「そっか」


 莉奈は少し考えてから、私の手を握った。


「でも、湊は湊でしょ?」


「……うん?」


「守り手でも、そうじゃなくても。私にとっては、いつもの湊だよ」


 その言葉に、私は思わず笑ってしまった。


「莉奈って、ときどきすごく大事なことを、さらっと言うよね」


「そう?」


「そうだよ」


「じゃあ、これからもさらっと言うね」


 莉奈は得意げに笑った。


 私はその手を握り返しながら、神社へ向かって歩いた。


     ◇


 社の奥では、巫女さんと、扉の向こうにいた人が並んで待っていた。


 昨日まで扉の内側にいたその人は、今は社の外へ出ている。


 まだ少しぎこちない様子ではあったけれど、その表情には以前のような張り詰めたものがなかった。


「来てくれたのだな」


「はい。聞きたいことがあって」


「守り手の役目について、か?」


 私が頷くと、その人は静かに微笑んだ。


「ならば、答えよう」


 巫女さんも、私たちの方へ向き直った。


「あなたが守り手として選ばれたのは、誰かの願いを叶えるためではありません」


「……自分で選ぶため、ですよね」


「はい。あなたは、ご自身の願いによって今の姿を選びました。そして、周囲の方々との縁の中で、自分がどうありたいのかを考えてきました」


 巫女さんは、私の手元に視線を落とした。


「鈴が知らせたのは、あなたの人生を決める運命ではありません。あなたが自分の意思で歩んでいく、その道の存在です」


 私はそっと鈴を握った。


 今まで、この鈴が鳴るたびに何か特別な意味があるのだと思っていた。


 けれど、鈴が私の代わりに何かを決めたことは、一度もなかった。


 私が沙耶を励ましたときも。

 莉奈と一緒にいたいと思ったときも。

 今の自分を好きだと伝えたときも。


 選んだのは、いつだって私だった。


「では、守り手の役目は……」


 凛が尋ねる。


「この鈴を、誰かに渡すことですか?」


 その人は首を横に振った。


「いや。次の守り手を探す必要はない」


「えっ?」


「守り手とは、誰かに引き継がせなければならない地位ではないのだ。鈴に選ばれた者が、必ず何かを成し遂げなければならないわけでもない」


 その人は、私をまっすぐに見た。


「お前は、もう十分に選んできた。誰かの言葉を聞き、自分の気持ちを伝え、他人の人生を勝手に決めないと誓った。それでよい」


 胸の奥にあった緊張が、ゆっくりとほどけていく。


「……じゃあ、私はもう、特別なことをしなくてもいいんですか?」


「もちろんだ」


 その人は穏やかに笑った。


「友と笑い、悩み、時には迷いながら、自分の人生を生きればよい。守り手であることを理由に、自分を縛る必要はない」


 私は、ゆっくりと息を吐いた。


 よかった。


 本当に、よかった。


 これからも私は、学校へ行って、みんなと話して、莉奈と一緒に笑っていいんだ。


 何か特別な使命を背負わなくても。


 ただ、自分の人生を生きていいんだ。


     ◇


「では、最後にひとつだけ」


 巫女さんが、私の鈴へそっと手を伸ばした。


「その鈴を、どうなさいますか?」


 私は手の中の鈴を見つめた。


 もう、持っていなければならない理由はない。


 神社に返すこともできるだろう。


 ここに置いていけば、守り手としての役目も、本当の意味で終わるのかもしれない。


 私は少しだけ考えた。


 そして、首を横に振った。


「……持っていたいです」


「よろしいのですか?」


「はい。でも、何かを決めてもらうためじゃなくて」


 私は鈴を胸元に寄せた。


「ここでみんなと出会って、いろんなことを考えたことを忘れないために。私が、自分で選んできたことの証として、持っていたいです」


 巫女さんは、優しく目を細めた。


「それもまた、あなた自身の選択ですね」


 その人も、満足そうに頷いた。


「ならば、持っているとよい。鈴の意味は、持つ者の人生を縛るものではないのだから」


 私は、鈴を大切にしまった。


 もう、音が鳴るかどうかを気にしなくていい。


 この鈴は、これからの私の人生を決めるものではない。


 今までの私が、自分で選んできたことを思い出させてくれる、小さな証なのだ。


     ◇


 神社を出たあと、私たちは駅前のカフェに立ち寄った。


「いやー、これでひとまず一件落着って感じ?」


 彩花がメニューを開きながら言った。


「そうだね。でも、まだ全部がすぐに元どおりになるわけじゃないと思う」


 凛が答える。


「長い間、閉じこもっていたんだもんね。これから、ゆっくりふたりで話していくんじゃないかな」


 沙耶は、窓の外を眺めながら微笑んだ。


「でも、もうひとりで抱え込まなくていいんだよね」


 結衣の言葉に、私は頷いた。


「うん。きっと、これからだよ」


 注文したパンケーキが運ばれてくると、彩花がさっそく身を乗り出した。


「ねえねえ、湊と莉奈、また半分こする?」


「えっ?」


 莉奈が私を見る。


「……する?」


「う、うん。いいけど」


「はい、決定!」


 美咲が楽しそうに笑った。


「相変わらず仲がいいねえ」


「もう、美咲まで!」


 私は頬を膨らませた。


 でも、莉奈が隣で笑っているのを見たら、結局、私も笑ってしまった。


 パンケーキを半分に分けて、莉奈の皿に乗せる。


「はい、どうぞ」


「ありがとう。じゃあ、こっちも」


 莉奈が自分の皿からひと切れ分けてくれた。


 いつもと変わらない、何気ないやり取り。


 でも、今の私には、それが何より嬉しかった。


     ◇


 帰り道。


 駅でみんなと別れたあと、私は莉奈とふたりで歩いていた。


「ねえ、莉奈」


「なに?」


「私、今の自分になれてよかったって、改めて思った」


 莉奈は、静かに私の話を聞いてくれた。


「前は、自分がどうなりたいのか、ちゃんと分かっていなかった。でも今は、好きなものも、大切な人も、少しずつ分かってきた気がする」


「うん」


「それに、これから先も、まだ知らない自分に出会えるんだよね」


「そうだね」


 莉奈は、そっと私の手を握った。


「私も、これからの湊をもっと知りたいな」


 その言葉に、胸がきゅっとなった。


「……私も、莉奈のこと、もっと知りたい」


「じゃあ、これからも一緒にいようね」


「うん!」


 私は、迷わず答えた。


 夕暮れの道を、私たちは並んで歩いていく。


 鈴の役目は、もう終わりに近づいている。


 でも、私たちの日常は、これからも続いていく。


 誰かに決められた未来じゃなく、自分たちで選んでいく未来。


 その先に何が待っているのかは、まだ分からない。


 それでも私は、楽しみだった。


 明日も、その先も。


 今の私として、みんなと一緒に笑っていけることが。


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