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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第一章 百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。

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第七話 女の子になった私、疑われる?

 ――翌朝。


「湊ちゃん、おはよー!」


「おはよ〜、莉奈ちゃん」


 …………。


「……」


 教室に入った瞬間。


 俺の前にいた四人が。


 一斉に固まった。


「……何?」


 俺は首を傾げた。


 すると、長い髪が肩からさらりと落ちる。


 邪魔だった前髪を。


 俺は何気なく指先で耳にかけた。


「どうしたの?」


「……」


「……」


「……」


「……」


「だから、何?」


 四人が。


 まだ俺を見ている。


「……湊ちゃん」


 彩花が、恐る恐る口を開いた。


「なに?」


「今」


「うん?」


「……莉奈ちゃんって呼んだ」


「呼んだけど?」


「前まで莉奈って呼んでなかった?」


「そうだっけ?」


 俺は少し考える。


「まあ、いいじゃない?」


「……」


 また。


 四人が黙った。


「なんで黙るの?」


「……いや」


 莉奈が。


 少しだけ困ったように笑った。


「朝から、ちょっとびっくりしただけ」


「そう?」


 俺は鞄を肩に掛け直す。


 そのまま。


 自分の席へ向かった。


 歩く。


 以前より小さな歩幅。


 足音も軽い。


 急いでいるわけでもないのに。


 自然と足取りは、軽く。


 柔らかかった。


 椅子の前まで来ると。


 俺は制服のスカートを少しだけ整えてから。


 腰を下ろす。


 膝を揃える。


 そのまま。


 鞄を膝の上に置いた。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……今度は何?」


「湊」


 美咲が。


 真剣な顔で聞いた。


「なに?」


「……今、自分が何したか分かる?」


「座った」


「そうじゃなくて」


「じゃあ何?」


「……」


 美咲は答えられなかった。


 なぜなら。


 俺にとって。


 今の動作は。


 本当に普通だったから。


     ◇


 休み時間。


「湊ちゃん」


「ん?」


 彩花が俺の机の前に立つ。


「ちょっと見てて」


「なに?」


「湊ちゃん、今から立ってみて」


「?」


「いいから!」


「……?」


 言われるまま。


 俺は立ち上がった。


 椅子を静かに戻す。


 鞄の位置を整える。


 そして。


「これでいい?」


「……」


「彩花?」


「……すごい」


「何が?」


「全部」


「だから何が!?」


「立ち方!」


「立ち方?」


「うん!」


 彩花は俺を指差す。


「前の湊ちゃんだったら!」


 そう言って。


 なぜか彩花が大げさに椅子から立ち上がった。


「よっ!」


「そんな立ち方してない!」


「してたよ!」


「してない!」


「もっと勢いあった!」


「ない!」


「今の湊ちゃんは」


 彩花が俺を見る。


「すっ、て立つ」


「……すっ?」


「うん」


「説明が下手すぎるだろ」


「でも分かるもん!」


「分からないよ!」


「……分かる」


 結衣が。


 小さく頷いた。


「今の湊ちゃん」


 俺を見る。


「……動きが、全部静か」


「静か?」


「うん」


「前は、もっと……」


 結衣は少し考える。


「……雑だった」


「結衣?」


「……ごめん」


「いや、そこは否定してくれてもよくない?」


 俺は少し頬を膨らませる。


「私、そんなに雑だった?」


 …………。


「……」


 また。


 空気が止まった。


「……湊ちゃん」


 莉奈が。


 ゆっくり聞く。


「今」


「なに?」


「自分のこと、なんて言った?」


「……?」


 俺は。


 少し考えた。


「……私?」


「……」


「それが?」


「……」


「?」


 俺には。


 本当に分からなかった。


 昔は。


 確かに。


 自分のことを「俺」と呼んでいた。


 その記憶も。


 ちゃんとある。


 だけど。


 今。


 自分のことを「私」と呼んでも。


 何の違和感もなかった。


「……別に普通じゃない?」


 俺は首を傾げる。


「今の私、女の子なんだし」


 その言葉も。


 驚くほど自然に出てきた。


 ――昔の自分なら。


 絶対に。


 そんなふうには言わなかったはずなのに。


     ◇


 昼休み。


「じゃあ、お昼行こっか」


 俺が立ち上がる。


「うん!」


「待って」


「……?」


 美咲が俺を見る。


「湊」


「なに?」


「その話し方」


「?」


「さっきからずっと」


「普通だけど?」


「……普通じゃない」


「そうかな?」


 俺は。


 少しだけ考える。


「でも、話しやすいよ?」


「……」


「前の話し方より?」


 自分で言って。


 一瞬。


 止まった。


「……」


「湊?」


「いや」


 俺は。


 首を横に振った。


「なんでもない」


 ただ。


 不思議だった。


 昔の俺の話し方を思い出すことはできる。


 ぶっきらぼうな言葉。


「俺」


「〜だろ」


「〜じゃねえか」


 そういう話し方を。


 確かに。


 自分はしていた。


 覚えている。


 なのに。


「……今のほうが自然かも」


 ぽつりと。


 そう呟いた。


「え?」


「ううん」


 俺は笑う。


「行こ?」


 そう言って。


 四人の前を歩き始める。


 小さな歩幅。


 揃った足取り。


 長い髪が。


 歩くたびに背中で揺れる。


 そして。


 それを。


 俺自身は。


 何ひとつ。


 おかしいと思っていなかった。


     ◇


 放課後。


 五人で歩く帰り道。


「ねえ、湊ちゃん」


「ん?」


 莉奈が隣に並ぶ。


「今日、楽しかった?」


「うん」


 俺は笑った。


「みんなといると楽しいよ」


「……」


「どうしたの?」


「いや」


 莉奈が。


 俺をじっと見る。


「……今日の湊ちゃん」


「うん?」


「すごく変わった」


「また?」


「うん」


「でも」


 俺は。


 少しだけ笑う。


「私には、よく分からないんだよね」


 その瞬間。


 美咲が立ち止まった。


「……私?」


「うん?」


「また」


「あ」


 俺は。


 ようやく気づいた。


「……あ」


 自分の口元へ。


 自然に手がいく。


「……また言ってた?」


「うん」


「そっか」


 俺は少しだけ考えた。


 でも。


 それ以上。


 気にすることはなかった。


「まあ、いいんじゃない?」


「よくない!」


 彩花が叫ぶ。


「なんで!?」


「なんでって!」


「だって」


 俺は笑った。


「私が私って言ってるだけでしょ?」


 …………。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……また何?」


「湊ちゃん」


 結衣が。


 小さく呟いた。


「……本当に」


「うん?」


「……違和感、ないの?」


「ないよ?」


 俺は。


 迷わず答えた。


「全然、普通でしょ」


 昔の記憶はある。


 男だった頃のことも。


 ちゃんと覚えている。


 だけど。


 今の自分が。


 おかしいとは思わない。


 むしろ。


 この話し方も。


 この動き方も。


 この姿も。


 最初から。


 自分のものだったような気がする。


「……変かな?」


 俺は。


 四人に聞いた。


「私」


 少し首を傾げる。


「何か変?」


 その姿を見て。


 四人は。


 誰もすぐに答えられなかった。


 なぜなら。


 目の前にいる湊は。


 もう。


 少し女の子っぽくなった程度ではなかった。


 話し方も。


 仕草も。


 表情も。


 歩き方も。


 ひとつひとつの動作が。


 驚くほど自然に。


 女の子そのものになっていた。


 ――それなのに。


 湊だけは。


 何も変わっていないと思っている。


 昔の記憶を。


 すべて持ったまま。


 昔の自分を。


 ちゃんと覚えたまま。


 それでも。


 今の自分を。


 当たり前のように受け入れている。


 そのことが。


 四人には。


 少しだけ。


 怖かった。

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