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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第一章 百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。

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第六話 女の子になった俺、自分が分からなくなる。

 ――それから、さらに数日が経った。


 最近。


 自分でも少しだけ、気になることがある。


「……」


 朝。


 鏡の前に立ちながら。


 俺は、自分の姿を見つめていた。


 女子の制服。


 肩まで伸びた髪。


 そして。


 鏡の中にいる、一人の女の子。


「……」


 もう、この姿にも慣れた。


 ……慣れてしまった。


 最初の頃は。


 鏡を見るたびに驚いていた。


「なんで俺が」


 そう思っていた。


 女子の制服を着ることも。


 髪が長いことも。


 周りから女の子として扱われることも。


 全部。


 あり得ないと思っていた。


 なのに今は。


「……遅れる」


 時計を見る。


 鞄を持つ。


 そして。


 鏡の前から離れようとして。


「……あ」


 俺は立ち止まった。


 髪が少し乱れている。


「……」


 前なら。


 気にしなかったと思う。


 いや。


 そもそも、こんなに長い髪なんてなかった。


 だから。


 気になるのは当然だ。


「……そういうことだ」


 自分に言い聞かせる。


 鏡の前に戻る。


 指で髪を整える。


 少しだけ。


 乱れたところを直す。


「……よし」


 それだけ。


 本当に。


 それだけのことだ。


 なのに。


 鏡の中の自分は。


 さっきより少しだけ嬉しそうに見えた。


「……」


 気のせいだ。


 絶対。


     ◇


「湊ちゃん、おはよー!」


「おはよ……」


 教室に入った瞬間。


 いつもの声が聞こえた。


「……ん?」


 莉奈が、俺をじっと見ている。


「何?」


「……今」


「?」


「髪、ちゃんと整えてきた?」


「……普通だろ」


「いつもより綺麗」


「そうか?」


「うん」


 莉奈は、なぜか嬉しそうだった。


「似合ってる」


「……」


「可愛いよ」


「朝からそれ言うな」


「えー?」


「心臓に悪い」


 言ってから。


 俺は少しだけ止まった。


「……」


「湊ちゃん?」


「いや」


 まただ。


 最近。


 こういう言葉が、自然に出てくる。


 前の俺なら。


 たぶん。


 こんなことは言わなかった。


「……まあ、いい」


「いいんだ?」


「何が」


「なんでもない」


 莉奈は笑っていた。


     ◇


「湊」


「ん?」


 休み時間。


 美咲が俺の机の横に立っていた。


「次、移動教室」


「あ」


 完全に忘れていた。


「……教科書」


「持った?」


「えっと」


 机の中を見る。


「……あれ」


「どうしたの?」


 莉奈も近づいてくる。


「教科書がない」


「ない?」


「さっきまであったんだけど」


「……鞄じゃない?」


「あ」


 鞄を開く。


 普通に入っていた。


「……」


「ふふっ」


 美咲が笑った。


「笑うな」


「だって」


「忘れてただけだ」


「最近、ちょっと抜けてるよね」


「そうか?」


「うん」


「……湊ちゃん」


 彩花も近づいてきた。


「何?」


「最近、ちょっとふわふわしてない?」


「ふわふわ?」


「うん」


「どういう意味だよ」


「なんか、ぼーっとしてるというか」


「……」


 確かに。


 最近。


 自分のことを考える時間が増えた。


 歩き方。


 話し方。


 仕草。


 そして。


 自分が無意識にしていること。


「……別に」


「怪しい!」


「怪しくない」


「絶対何かある!」


「ない」


「……ある?」


 結衣が小さく首を傾げる。


「結衣まで」


「……気になる」


「何が?」


「……湊ちゃん」


「俺?」


「うん」


 結衣は少しだけ考えて。


「最近」


「うん」


「……前より、女の子っぽい」


「またそれか!」


「だって……」


「俺は変わってない!」


 思わずそう言った。


 すると。


 四人が少しだけ黙った。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……何だよ」


「ううん」


 美咲が首を振る。


「別に」


「なんかあるだろ」


「ない」


「絶対ある」


「………まだ、本人は気づいてないんだね」


「何か言ったか?」


「ううん。なんでもない」


     ◇


 移動教室へ向かう途中。


「湊ちゃん、こっち」


「ん?」


 彩花が手を振る。


「早く早く!」


「分かったよ」


 俺は少しだけ早足になる。


 すると。


「……あ」


 後ろから、莉奈の声。


「何?」


「いや」


 莉奈は俺を見て笑った。


「なんか、走り方まで変わったなって」


「は?」


「今、ちょこちょこって走った」


「走り方まで言うのかよ!?」


「だって前はもっと――」


「言うな」


「まだ何も言ってないよ?」


「言うつもりだっただろ」


「うん」


「即答するな!」


 莉奈が笑う。


 彩花も。


 美咲も。


 結衣まで。


 ……楽しそうだ。


「……お前ら、絶対俺で遊んでるだろ」


「「「「遊んでない」」」」


「絶対嘘だ」


     ◇


 昼休み。


「湊ちゃん!」


「ん?」


「購買行こ!」


 彩花に誘われる。


「いいよ」


 そう言って。


 俺は椅子から立ち上がった。


 その瞬間。


 制服のスカートが少しだけ引っかかる。


「……あ」


 俺は無意識に。


 裾を軽く整えた。


「……」


 そして。


 すぐに止まる。


「……」


 なんで。


 今。


 そんなことをした?


「湊ちゃん?」


「……いや」


 彩花が不思議そうに俺を見る。


「どうしたの?」


「なんでもない」


 俺は歩き出す。


 けれど。


 その後も。


 妙に意識してしまった。


 階段を降りるとき。


 スカートを少し気にする。


 椅子に座るとき。


 自然と裾を整える。


 髪が顔にかかれば。


 耳にかける。


「……」


 全部。


 無意識だった。


 気づいてから。


 急に恥ずかしくなった。


「……なんだよ、これ」


「何が?」


 彩花が聞く。


「いや」


 言えるわけがない。


 ――俺、最近。


 無意識に女の子みたいなことしてる。


 なんて。


     ◇


 放課後。


 その日は。


 珍しく五人で帰ることになった。


「今日、駅前寄る?」


 彩花が聞く。


「いいね!」


 莉奈がすぐに答える。


「湊は?」


「俺?」


「うん」


「別にいいけど」


「……私も」


 結衣が頷く。


「じゃあ決まり!」


 彩花が嬉しそうに笑う。


 俺たちは。


 いつものように並んで歩き始めた。


「……」


 少し歩いて。


 俺は、ふと気づく。


 自分の隣。


 右には美咲。


 左には彩花。


 少し後ろには結衣と莉奈。


 ……なぜか。


 四人とも。


 俺の近くにいる。


「……近くないか?」


「そう?」


 美咲が言う。


「普通」


 結衣も頷く。


「普通だよ!」


 彩花は笑う。


「湊ちゃんが気にしすぎ!」


「莉奈」


「なに?」


「お前は?」


「私も普通だよ?」


「一番怪しい」


「ひどい!」


 笑い声が広がる。


 そのとき。


 前から自転車が近づいてきた。


「あ」


 俺は反射的に。


 一歩だけ横へ避ける。


 そして。


 そのまま。


 美咲の腕を掴んだ。


「危ない」


「……」


「……?」


 自転車が通り過ぎる。


「大丈夫?」


「……うん」


 美咲が、小さく頷く。


 俺は。


 自分が美咲の腕を掴んでいることに気づいた。


「……あ」


 慌てて離す。


「悪い」


「……別に」


 美咲は顔を逸らした。


 けれど。


 耳が少し赤い。


「……」


「……」


 彩花。


 結衣。


 莉奈。


 三人が美咲を見ていた。


「な、何」


「別に?」


 莉奈が笑う。


「……また?」


 美咲が睨む。


「何でもないよ」


 絶対何かある。


     ◇


 駅前。


「これ、美味しそう!」


 彩花が店の前で声を上げた。


「新作だって!」


「へえ」


「湊ちゃん、食べる?」


「どうしようかな」


 メニューを見る。


「……」


「……?」


「湊ちゃん?」


 俺は、しばらくメニューを見ていた。


 甘いもの。


 以前の俺なら。


 あまり自分から選ばなかった。


 どちらかといえば。


 しょっぱいものの方が好きだった。


「……これ」


 気づけば。


 指を差していた。


「え?」


「これ?」


 彩花が聞く。


「……うん」


「甘いやつだけど?」


「そうだけど」


「珍しい」


「そうか?」


「前の湊なら選ばなかった」


 また。


 前の俺。


「……なんなんだよ」


「え?」


「最近、みんな昔の俺と比べすぎだろ」


 四人が少しだけ黙った。


「……ごめん」


 彩花が言う。


「いや」


 俺は慌てて首を振った。


「怒ってるわけじゃない」


「……」


「ただ」


 少し考える。


「俺自身が、一番分からなくなってるだけだ」


 その言葉に。


 四人が俺を見る。


「歩き方も」


「……」


「話し方も」


「……」


「仕草も」


「……」


「最近、昔と違うって言われる」


 俺は少しだけ笑った。


「でも、自分では分からない」


 莉奈が。


 静かに俺を見ていた。


「湊ちゃん」


「ん?」


「怖い?」


「……」


 その質問に。


 すぐには答えられなかった。


「……少し」


 正直に言った。


「俺が俺じゃなくなっていくみたいで」


「……」


「記憶はある」


 自分の胸に手を当てる。


「昔の俺のことも」


「でも」


 言葉を探す。


「今の俺は」


 そこで。


 一瞬。


 言葉が止まった。


「……」


「湊ちゃん?」


「いや」


 俺は首を振る。


「なんでもない」


 でも。


 今。


 言おうとした言葉。


 ――今の私は。


 確かに。


 そう言おうとした。


     ◇


 帰り道。


 夕方の空を見ながら。


 俺は一人で歩いていた。


 ……いや。


 一人じゃない。


 隣には。


 四人がいる。


「ねえ」


 莉奈が言った。


「ん?」


「湊ちゃんは、湊ちゃんだよ」


「……」


「昔と違うところがあっても」


 莉奈は笑った。


「それでも、湊ちゃんは湊ちゃん」


「……簡単に言うな」


「簡単だよ」


「なんで」


「私がずっと見てきたから」


 その言葉に。


 俺は少しだけ黙った。


「昔の湊くんも知ってる」


「うん」


「今の湊ちゃんも知ってる」


「……うん」


「だから」


 莉奈は俺を見る。


「どっちも、湊ちゃん」


「……」


 その言葉を聞いて。


 なぜか。


 少しだけ。


 安心した。


「……ありがと」


 そう言った。


 すると。


 莉奈が少し目を丸くする。


「どうした?」


「いや」


 莉奈は笑った。


「今、すごく自然だったなって」


「何が?」


「……ううん」


 また。


 秘密らしい。


「本当に、お前ら最近なんなんだよ」


「ふふっ」


 四人が笑う。


 その声を聞きながら。


 俺も。


 自然と笑っていた。


     ◇


 その夜。


 鏡の前。


「……」


 俺は。


 しばらく自分を見つめていた。


 女子の制服。


 長い髪。


 柔らかくなった表情。


「……俺」


 声に出す。


 違和感はない。


 まだ。


 俺は俺だ。


 そう思う。


「……私」


 今度は。


 試しに言ってみた。


「……」


 胸の奥が。


 少しだけざわついた。


 違和感がある。


 ……でも。


 前ほど。


 変な感じはしなかった。


「……」


 鏡の中の自分を見る。


 そして。


 無意識に。


 髪を耳にかけた。


 その仕草を見て。


 俺は。


 小さく息を吐いた。


「……少しずつ、か」


 何が変わっているのか。


 どこまで変わっていくのか。


 まだ。


 俺には分からない。


 けれど。


 一つだけ。


 確かなことがあった。


 俺は。


 気づかないうちに。


 少しずつ。


 昨日までの自分とは違う人間になり始めている。


 それが。


 良いことなのか。


 悪いことなのか。


 まだ分からない。


 ――ただ。


 変化は。


 もう。


 止まらなかった。


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