第六十七話 おばあちゃんが知っていること
日曜日の朝。
昨日みんなで作ったカップケーキの写真を眺めながら、私はベッドの上でごろごろしていた。
写真の中では、彩花が満面の笑みで親指を立てていて、美咲が呆れた顔をしている。結衣と沙耶は笑い合い、凛も楽しそうに笑っていた。
そして、私の隣には莉奈。
……やっぱり、いい写真だな。
スマホを見ていると、莉奈からメッセージが届いた。
『昨日のカップケーキ、おいしかったね!』
『うん! また作りたいな』
『今度は二人でも作ってみる?』
私は画面を見つめた。
二人で、お菓子作り。
昨日だって、莉奈が隣にいるだけで妙に意識してしまったのに。
……ちゃんと作れるかな、私。
『作りたい!』
少し迷ってから、そう返事を送る。
すぐにハートのスタンプが返ってきた。
私はスマホを抱えて、枕に顔を埋めた。
……朝から何をやっているんだろう、私は。
◇
昼前、グループチャットに沙耶から連絡が入った。
『おばあちゃんに、ノートのことを聞いてみたよ』
その一言で、私はぱっと起き上がった。
続けて、沙耶からメッセージが届く。
『昔、神社に関係する人に預けた紙があったんだって。今日、もう少し詳しく話してくれるみたい』
すぐに凛から返事が来た。
『その人の名前は分かる?』
『まだ聞けてないの。午後にもう一度話してみるね』
私はスマホを握り直した。
破れたページの続き。
そこには、守り手についての大切なことが書かれているかもしれない。
けれど、今度は焦らない。
沙耶が話してくれるのを待とう。
そう思ってスマホを置いた、そのとき。
別の通知が届いた。
莉奈からだった。
『湊、今日ちょっと電話できる?』
私はすぐに返事をした。
『できるよ!』
数秒後、着信音が鳴った。
「もしもし、莉奈?」
『もしもし。湊、今大丈夫?』
「うん。どうしたの?」
『昨日の写真、見てたら湊に会いたくなっちゃって』
「……えっ?」
思わず声が裏返った。
電話の向こうで、莉奈がくすくす笑う。
『ふふっ。そんなに驚くこと?』
「だ、だって……」
『私、変なこと言った?』
「変じゃないけど……その、急だったから」
『そっか』
少し間が空いた。
そして、莉奈が優しく言った。
『今度、二人で出かけるの、楽しみにしてるね』
「……うん。私も」
今度は、ちゃんと答えられた。
電話を切ったあとも、しばらくスマホを見つめていた。
神社の謎も気になる。
でも、莉奈との約束も同じくらい楽しみだ。
どちらか一方だけを考えていなくてもいい。
今の私は、そう思えるようになっていた。
◇
夕方。
再びグループチャットが動いた。
『おばあちゃんから聞けたよ』
沙耶のメッセージに、みんなが反応する。
『預けた紙は、神社の奥にある古い社に関係するものだったんだって』
続いて、写真が送られてきた。
古い木箱。
その蓋には、二つの曲線が向かい合う紋様が刻まれていた。
私の鈴に浮かんだ印と、同じものだ。
『おばあちゃんによると、その紙を預かった人は、神社に仕える巫女だったみたい』
私は画面を見つめた。
神社の巫女。
あの、不思議な女性の姿が頭に浮かぶ。
けれど、沙耶のメッセージはそこで終わらなかった。
『それから、もうひとつ。おばあちゃんは、その巫女さんが誰かをずっと待っていたって聞いたことがあるんだって』
誰かを待っていた。
私は、神社の奥にある閉ざされた扉を思い出した。
扉の向こうにいる存在。
そして、その前に立ち続ける巫女。
もしかすると、彼女が待っているのは――。
『明日、学校で詳しく話すね』
沙耶の言葉を最後に、チャットは静かになった。
◇
夜。
私は机の上に、神社の鈴を置いた。
隣には、昨日買ったピンクのキーホルダー。
片方は、私が自分で選んだもの。
もう片方は、まだ意味の分からない、不思議な鈴。
私は二つを見比べながら、そっと息をついた。
「……巫女さんは、誰を待っているんだろう」
答えは、まだ分からない。
でも、今度神社へ行けば、少しは分かるかもしれない。
私はスマホを手に取り、莉奈とのメッセージを開いた。
『おやすみ、莉奈。また明日ね』
すぐに返事が届く。
『おやすみ、湊! 明日も一緒にいようね』
私は微笑んだ。
「……うん。また明日」
スマホを置き、部屋の明かりを消す。
神社のことも、巫女のことも、扉の向こうの人のことも。
明日、みんなと一緒に少しずつ確かめていこう。
今はただ、明日も莉奈たちに会えることが嬉しかった。




