↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第七章 鈴と守り手と私 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/75

第六十四話 大事なノートと守り手

 翌日の昼休み。


「じゃあ、今日の放課後、みんなで沙耶のノートを確認するってことでいい?」


 莉奈の言葉に、私はうなずいた。


「うん。凛が、破れたページの前後をもう一度見たいって」


「私のおばあちゃんのノートが、そんなに大事なものだったなんてね……」


 沙耶は机の上に置いたノートを見つめた。


 昨日、凛から話を聞いたあと、私はみんなに相談した。


 神社のことを、もう一部の人だけで抱え込むのはやめたい。


 それが今の私の気持ちだった。


「よーし! 放課後は探偵団だね!」


 彩花が勢いよく手を挙げる。


「彩花、ノートを調べるだけだからね?」


 美咲が冷静に突っ込む。


「えー、でも謎の神社に謎の鈴、そして破れたページ! 探偵団以外の何なのさ!」


「……否定しにくいのが悔しいね」


 結衣が小さく笑った。


 私もつられて笑う。


 こうしてみんなと話していると、神社の謎だって、以前ほど怖いものには感じなくなっていた。


 もちろん、気になることはまだたくさんある。


 でも、ひとつずつ確かめていけばいい。


 焦らずに。


     ◇


 放課後、私たちは沙耶の家に集まった。


 テーブルの上には、古いノートと、私の鈴。


 凛も向かい側に座り、ノートのページを慎重にめくっていた。


「この印……やっぱり同じだ」


 凛が指さしたのは、二つの曲線が向かい合うように描かれた紋様だった。


 私の鈴に浮かんだものと、そっくりだ。


「前に見たときは、ほかの印と一緒に描かれていると思っていたけど……」


 沙耶がページの端を押さえる。


「よく見ると、この部分だけ紙の色が違うね」


 結衣の指摘に、全員がノートをのぞき込んだ。


 確かに、二つの曲線が描かれた部分だけ、わずかに紙の色が違っている。


「後から書き足されたのかな?」


 莉奈が尋ねる。


「たぶんね。でも、どうしてここだけ……」


 私が考え込んでいると、凛がノートの前後のページを並べた。


「このページの前には、神社を守る人について書かれてる。後ろは破れているけど、残った部分に文字があるよ」


 凛が、破れたページの端に残る文字を読み上げた。


「『守り手は、ひとつの願いを叶えるために選ばれるのではない』……」


 部屋が静かになった。


 私は思わず、自分の鈴を見つめた。


「ひとつの願いを叶えるためじゃない……?」


「うん。その続きが読めればいいんだけど」


 凛は破れた部分を見つめたまま、しばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと口を開く。


「たぶん、ここに書かれているのは、守り手が何をするべきかじゃない」


「じゃあ、何なの?」


 美咲が尋ねる。


「何をしてはいけないのか……その話なんだと思う」


 凛は私を見た。


「湊。あなたの鈴に浮かんだ印は、誰かの命令に従えって意味じゃない。そこだけは、間違えないで」


「……うん」


 私は鈴を手のひらに乗せた。


 守り手。


 その言葉を聞くたびに、何か大きな役目を背負わされるような気がしていた。


 でも、本当にそうなのだろうか。


     ◇


「ねえ、ちょっといい?」


 ずっと黙っていた莉奈が、ノートの別のページを指さした。


「ここの文章、さっきのページとつながってないかな?」


 そこには、薄くなった文字で、こう書かれていた。


『守り手は、誰かの願いを代わりに選ぶ者ではない』


 その下には、さらに一文が続いていた。


『たとえ大切なものを失うことになろうとも、その選択を他者に委ねてはならない』


 私は息をのんだ。


 誰かの願いを、代わりに選ぶ。


 その言葉が、妙に胸に引っかかった。


 扉の向こうにいる誰かも、かつて大切なものを守ろうとして選択した。


 凛が話してくれた過去も、それに関係しているのだろう。


「……これって、扉の向こうの人のことなのかな」


 私がつぶやくと、凛はすぐには答えなかった。


 やがて、静かにうなずく。


「そうだと思う。少なくとも、その人が何を大切にしていたのかを知る手がかりにはなる」


「じゃあ、どうしてその人は扉の向こうにいるの?」


 沙耶の質問に、凛は唇を結んだ。


「それは……まだ、私からは話せない」


「凛……」


「ごめん。でも、もうすぐ本人の口から聞けると思う。今度こそ、全部」


 その声には、以前のような迷いだけではなく、決意が混じっていた。


 私はうなずいた。


「分かった。じゃあ、そのときは私もちゃんと聞く」


 誰かに答えを決めてもらうんじゃなくて。


 自分で聞いて、自分で考えて、自分で決める。


 それが、今の私にできることだと思った。


     ◇


 帰り道。


 莉奈が私の隣を歩きながら、そっと尋ねた。


「湊、怖くない?」


「……少しはね」


 正直に答える。


「まだ分からないことばっかりだし。私が何を選ぶことになるのかも、分からないから」


「うん」


「でも、前よりは怖くないよ。みんなが一緒に考えてくれるから」


 莉奈は嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。よかった」


 そして、いつものように私の手を取る。


「じゃあ、今日頑張ったご褒美に、コンビニ寄っていかない?」


「ご褒美?」


「うん。甘いものでも買おうよ」


「……莉奈が食べたいだけじゃない?」


「ばれた?」


 二人で笑い合う。


 結局、私たちはコンビニで小さなプリンを買って、帰り道に並んで食べた。


 神社のことも、鈴のことも、まだ全部は分からない。


 それでも、こうして笑っていられる時間がある。


 守りたいものがあるとしたら、きっとこういう時間も、そのひとつなのだと思う。


 私は鞄についたピンクのキーホルダーを指先で揺らした。


 小さな音が鳴る。


 不思議な力なんてない、ただのキーホルダー。


 でも、莉奈とおそろいで選んだ、大切なもの。


 今の私には、それだけで十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。