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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第七章 鈴と守り手と私 

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第六十三話 おそろいの鈴と、秘密の約束

 朝、玄関の鏡の前で鞄を持ち上げる。


 昨日買ったピンクの鈴のキーホルダーが、鞄の横で小さく揺れた。その隣には、みんなで選んだ星のチャーム。


 歩くたびに、二つが触れ合って控えめな音を立てる。


 ……うん。やっぱり、かわいい。


 昨日は帰ってからも、莉奈とのメッセージを何度も読み返してしまった。


『またみんなで遊びに行こうね』


 たったそれだけの言葉なのに、見るたびに頬が緩んでしまう。


 私はスマホを鞄にしまい、玄関を出た。


     ◇


「湊、おはよー!」


 学校に着くと、昇降口で彩花に声をかけられた。


「おはよう、彩花」


「おっ、ついてるじゃん! 昨日の鈴!」


 彩花は私の鞄を指さし、目を輝かせた。


「うん。気に入っちゃって」


「いいなー! 私の星も見て!」


 彩花が鞄につけた黄色い星を揺らす。少し遅れてやってきた美咲と結衣、沙耶も、それぞれのチャームを見せ合った。


「こうして見ると、ちゃんと全員違う色なんだね」


 結衣が自分の紫色の星をつまむ。


「凛の水色も、すごく似合ってたよね」


 沙耶が言うと、美咲がうなずいた。


「本人は『たまたま選んだだけ』って顔してたけどね」


「実際、たまたまだよ」


 背後から声がした。


 振り返ると、凛が少し呆れた顔で立っていた。


「おはよう、凛」


「おはよう、湊。……なに? 私の話?」


「うん。水色が似合うって」


「それはどうも」


 凛はそっけなく答えたけれど、鞄についた水色の星を指先でそっと確かめていた。


 その仕草が、なんだか嬉しそうに見えた。


     ◇


 昼休み。


 私は莉奈と並んでお弁当を食べながら、鞄から少しだけキーホルダーを取り出した。


「ねえ、莉奈」


「ん?」


「昨日のこれ、やっぱり買ってよかったなって思って」


 ピンクの鈴を揺らす。


 莉奈は自分の鞄につけた同じキーホルダーを見て、ふわりと笑った。


「私も。おそろいだもんね」


「……うん」


 改めて言われると、ちょっと照れる。


「でも、まさか同じのを選ぶとは思わなかった」


「湊が持ってるのを見て、かわいいなって思ったから」


「えっ。じゃあ、私が先に選んだから?」


「それもあるけど……湊とおそろいにしたかったのも、あるよ」


 莉奈はごく自然にそう言った。


 私は箸を持ったまま固まった。


「……そ、そうなんだ」


「うん」


 莉奈は笑顔のまま、お弁当の卵焼きを口に運ぶ。


 ずるい。


 そういうことを、そんなに普通の顔で言わないでほしい。


 私ばっかり意識しているみたいじゃないか。


「湊、耳赤いよ?」


「赤くない!」


「ふふっ。そう?」


 莉奈が少しだけ顔を近づける。


 私は逃げるようにお茶を飲んだ。


 ……今日も、いつも通り。


 いつも通りなのに、莉奈と一緒にいる時間は、昨日よりほんの少し特別に感じられた。


     ◇


 放課後。


 帰り支度をしていると、凛が私の机のそばまでやってきた。


「湊。今日、少し時間ある?」


「うん。どうしたの?」


「神社のことで、確認しておきたいことがあるんだ」


 その言葉に、鞄の中の鈴が気になった。


 けれど、凛の表情はいつもより柔らかかった。


「怖い話?」


「怖いというより……そろそろ、曖昧なままにしておくのをやめたいんだ」


 凛は私の鞄についたピンクのキーホルダーに目を落とした。


「それ、昨日買ったんだね」


「うん。こっちは本物の鈴じゃないけど」


「……そうだね」


 凛は小さく笑った。


「でも、今の湊には、そっちのほうが大切なのかもしれない」


「どういう意味?」


「そのうち分かるよ。今度はちゃんと、説明するから」


 また曖昧にされるのかと思った。


 けれど、凛は目をそらさなかった。


「次に神社へ行くときは、沙耶のノートも持ってきてほしい。破れているページの前後を、もう一度みんなで確認したいんだ」


「みんなで?」


「うん。私と湊だけじゃなくて、あのノートを見つけてくれた沙耶にも、莉奈たちにも関係があることだから」


 私は少し驚いた。


 これまでは、神社のことを知るたびに、誰かが秘密を抱えていて、私はその断片を追いかけるばかりだった。


 でも今は違う。


 私が何を選ぶのかを、みんなが一緒に考えようとしてくれている。


「分かった。みんなに相談してみるね」


「ありがとう」


 凛はほっとしたように息をついた。


     ◇


 帰り道、私は莉奈と並んで歩いていた。


「凛、少し変わったね」


 私が言うと、莉奈はうなずいた。


「うん。前より、自分のことも話してくれるようになった気がする」


「……私が選ぶことを、ずっと心配してくれてたんだよね」


「そうなんだと思う」


 莉奈は少し考えてから、私の手にそっと触れた。


「でも、湊が一人で全部考えなきゃいけないわけじゃないよ」


「うん」


「分からないことは、一緒に考えよう。答えが出るまで、そばにいるから」


 私は莉奈の手を握り返した。


「ありがとう、莉奈」


「どういたしまして」


 夕方の風が吹いて、鞄のキーホルダーが小さく揺れる。


 ピンクの鈴と星のチャームが触れ合い、軽やかな音を立てた。


 その音は、神社で持っている不思議な鈴の音とは違う。


 何かを知らせるような、不思議な響きでもない。


 ただ、私が自分で選んだものが、歩くたびに鳴っているだけ。


 それが、今はとても心地よかった。


 ――今度、神社へ行くときは、みんなと一緒に。


 隠されたことを暴くためだけじゃない。


 私たちがこれからどうしたいのか、ちゃんと話すために。


 そう思いながら、私は莉奈と手をつないで、いつもの帰り道を歩いていった。


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