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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第六章 いつもの日常?

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第五十五話 扉の向こうの鈴

 翌朝。


 目を覚ました私は、真っ先に机の引き出しを開けた。


 布に包まれた、小さな鈴。


 昨夜、もう一度確認したけれど、文字は消えていなかった。


 ――次の守り手へ。


「……守り手って、何を守るんだろう」


 神社?


 あの巫女さん?


 それとも、もっと別の何か?


 考えてみても、答えは出てこない。


「はぁ……朝から難しいこと考えすぎ」


 私は鈴をしまい、制服に着替えた。


 今日は学校。


 まずは、いつもの一日をちゃんと過ごそう。


     ◇


「湊ちゃん、おはよ!」


「おはよう、莉奈」


 教室に入ると、莉奈が手を振ってくれた。


 その隣では、美咲と彩花が何やら楽しそうに話している。


「ねえ、湊。今日の放課後って暇?」


 美咲が尋ねてきた。


「たぶん暇だけど、どうしたの?」


「みんなで寄り道しない? 新しいカフェができたんだって」


「カフェ?」


「そう! スイーツがおいしいらしいよ!」


 彩花が勢いよく身を乗り出す。


「行こうよ、湊!」


「うーん……」


 少しだけ考える。


 鈴のことも気になる。


 でも、ずっとそればかり考えているのも違う気がした。


「……うん、行こうかな」


「やった!」


 彩花が嬉しそうに両手を上げる。


「莉奈も行くよね?」


「もちろん」


 莉奈は私のほうを見て、にこっと笑った。


「湊と一緒に行きたいし」


「……っ」


 不意打ちだった。


「な、何それ……」


「え? 普通のこと言っただけだけど?」


「そ、そうだけど!」


 美咲がすかさず口を挟む。


「はいはい、ごちそうさまです」


「美咲!」


 教室に笑い声が広がった。


 ……もう。


 最近、莉奈はこういうことをさらっと言う。


 そのたびに、私のほうが意識してしまうのは、ちょっと悔しい。


     ◇


 放課後。


 私たちは駅前のカフェに向かった。


 店内は明るく、窓際の席には小さな花が飾られていた。


「わあ、かわいい!」


 彩花がメニューを開く。


「見て見て! 季節限定のパフェがある!」


「彩花、さっきからそればっかりだね」


 美咲が呆れたように笑う。


「だって大事じゃん!」


 結衣と沙耶も、楽しそうにメニューを眺めていた。


 私は莉奈の隣に座り、メニューを覗き込む。


「……どれにしよう」


「湊は甘いもの好きだよね?」


「うん。好きだけど……」


「じゃあ、これとか?」


 莉奈が指差したのは、いちごのパンケーキだった。


「おいしそう……」


「半分こする?」


「えっ?」


 思わず莉奈を見る。


「一人で食べきれなかったら、だけど」


「……じゃあ、半分こしたい」


 口にしてから、少し恥ずかしくなった。


 莉奈は嬉しそうに笑う。


「決まりだね」


 注文を済ませ、みんなで話しているうちに、私は久しぶりに神社のことを忘れていた。


 鈴も。


 紋様も。


 凛の忠告も。


 今は、目の前のみんなと笑っていたい。


 そう思えた。


     ◇


 しばらくして、飲み物が運ばれてきた。


 私は鞄からスマホを取り出そうとして、手を止めた。


「あれ……?」


「どうしたの、湊?」


 莉奈がこちらを見る。


「いや、なんでもない」


 鞄の中に入れていた小さな布袋。


 鈴を持ち歩くのはやめようと思って、今朝は机の引き出しにしまったはずだった。


 なのに。


 布袋だけが、鞄の内ポケットに入っている。


「……なんで?」


 自分で入れた覚えはない。


 もちろん、鈴が勝手に移動するはずもない。


 私はそっと布袋を取り出した。


「湊ちゃん、それ何?」


 沙耶が尋ねる。


「えっと……」


 説明しようとした、そのとき。


 布袋の中から、小さな音が聞こえた。


 ――チリン。


 私の手が止まる。


 莉奈も、すぐに気づいた。


「……今、鈴の音がしなかった?」


「したよね?」


 美咲が周囲を見回す。


「どこかのお店の飾りじゃない?」


 彩花はそう言ったけれど、私は布袋から目を離せなかった。


 鈴は家に置いてきたはずだ。


 それなのに、どうして?


「……湊」


 莉奈が静かに呼んだ。


「開ける?」


 私は少し迷った。


 凛との約束が頭をよぎる。


 鈴に変化があっても、すぐに神社へ持っていかないこと。


 でも、ここで確かめないままにするのも落ち着かない。


「……うん。中を見るだけ」


 私は布袋を開いた。


 中にあったのは、見慣れた小さな鈴。


「……え?」


 確かに、家の机の引き出しにしまったはずなのに。


 鈴の表面には、あの紋様が浮かんでいた。


 そして、その中央に。


 昨日まではなかった、小さな線が一本増えていた。


「これ……」


 指で触れようとした瞬間。


 莉奈が、そっと私の手を押さえた。


「待って」


「……莉奈?」


「何か分からないなら、今は触らないほうがいいと思う」


 その言葉に、私は手を止めた。


 莉奈は鈴をじっと見つめていた。


 怖がっているというより、私を心配している顔だった。


「……そうだね」


 私は鈴を布袋に戻した。


 その直後。


 音は、ぴたりと止まった。


 みんなが顔を見合わせる。


「……今の、本当に何だったんだろう」


 結衣が小さく呟いた。


 誰も答えられなかった。


     ◇


 帰り道。


 みんなと別れたあと、私は莉奈と二人で歩いていた。


「……ごめんね」


 私が言うと、莉奈は首を傾げた。


「何が?」


「せっかく楽しかったのに、変なことになっちゃって」


「湊のせいじゃないでしょ」


「でも……」


「それに、楽しかったよ?」


 莉奈は笑った。


「パンケーキもおいしかったし」


「……半分こしたやつ?」


「うん。また一緒に食べたいな」


 その言葉に、胸が温かくなる。


「……私も」


 小さく答えると、莉奈は少しだけ目を丸くした。


 そして、嬉しそうに笑った。


「約束ね」


「うん、約束」


 私は鈴のことを考えていた。


 けれど、莉奈と歩いているこの時間まで、不安に塗りつぶしたくはなかった。


 だから今は。


 鈴の答えよりも、隣にいる莉奈の温かさを大切にしたかった。


     ◇


 その頃。


 山あいの神社では、巫女が社の奥に立っていた。


 目の前には、古びた扉。


 長い間、開かれたことのない扉だった。


 巫女は、その前で静かに頭を下げる。


「……どうか、今しばらくお待ちくださいませ」


 返事はない。


 ただ、扉の向こうから小さな音が響いた。


 ――チリン。


 巫女の表情がわずかに曇る。


「……あの子は、まだ何も知りません」


 そう告げる声は、祈りにも似ていた。


「この役目が何を意味するのかも。そして、あなた様がなぜ、あの子をお選びになったのかも」


 扉の向こうで、何かが動いたような気配がした。


 巫女は顔を上げない。


 ただ、もう一度だけ、深く頭を下げた。


「どうか、あの子自身が答えを選ぶ、その時まで」


 社の奥は、静まり返っていた。


 けれど。


 扉の隙間から漏れる淡い光は、昨日よりもわずかに強くなっていた。

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