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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第五章 私と神社

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第五十話 あなたが選んだ姿

 翌日。


 放課後になると、私は昨日と同じ道を歩いていた。


 向かう先は、あの神社。


 昨日、巫女さんから言われた言葉が、ずっと頭から離れなかった。


『あなたが女の子になった、その理由を――』


 どうして私は女の子になったのか。


 ずっと気になっていた。


 でも。


 いざ答えを聞けるとなると、少し怖い。


 もし、その理由が自分の知らない何かだったら。


 もし、今の私が――


 何かの間違いだったとしたら。


「……違う」


 私は小さく首を振った。


 そんなことを考えても仕方がない。


 今の私は、私だ。


 そう思いながら、鳥居をくぐった。


     ◇


 境内には、昨日と同じように巫女さんが立っていた。


「お待ちしておりました」


「……来ました」


 私は巫女さんの前まで歩いていく。


「本当に、教えてくれるんですよね?」


「ええ」


 巫女さんは静かに頷いた。


「今日は、すべてお話しいたしましょう」


 その言葉に、私は息を飲む。


「……お願いします」


 巫女さんはしばらく黙っていた。


 そして――


「まず、あなたが女の子になったことに、誰かがあなたを無理やり変えたという事実はありません」


「……え?」


 予想していた答えと違った。


「じゃあ……どうして?」


「あなた自身が、そうなることを望んだからです」


「私が……?」


 思わず自分を指差す。


「そんなの、覚えて――」


 そこで言葉が止まった。


 巫女さんは首を横に振る。


「思い出す必要はありません」


「……え?」


「大切なのは、過去を掘り返すことではありません」


 巫女さんは、鈴を見つめた。


「あなたが今、どう生きているかです」


 私は黙って聞いていた。


「かつてのあなたは、自分自身について、たくさんの迷いを抱えていました」


「……」


「自分はどうありたいのか。


 誰と一緒にいたいのか。


 どんな自分なら、自分自身を好きになれるのか」


 胸の奥が、少しだけ苦しくなる。


 それは、今の私にも分かる気がした。


「そして、ある時あなたは願ったのです」


「……何を?」


 巫女さんは私を見る。


「『今の自分とは違う自分になってみたい』と」


「……それだけ?」


「いいえ」


 巫女さんは静かに首を振った。


「その願いには、もう一つ続きがありました」


 私は息を止めた。


「『もし別の自分になれたなら、本当に自分が好きになれるのか知りたい』」


「……!」


 その言葉を聞いた瞬間。


 胸の奥が、強く揺れた。


 何かを思い出したわけじゃない。


 けれど。


 その言葉が、妙に自分の中へ入ってくる。


「だから……私は女の子になった?」


「正確には」


 巫女さんが言葉を続ける。


「あなたが望んだ『別の自分』が、今のあなたなのです」


 私は自分の手を見る。


 細い指。


 見慣れた手。


 もう、自分の手だと思える。


「……じゃあ、元に戻れるんですか?」


 その質問に。


 巫女さんは少しだけ微笑んだ。


「戻る必要があるのですか?」


「……」


 答えられなかった。


     ◇


 私は、みんなの顔を思い浮かべる。


 莉奈。


 美咲。


 彩花。


 結衣。


 沙耶。


 そして凛。


 この姿になったから出会えた人。


 この姿だから過ごせた時間。


 この姿だから知ることができた気持ち。


 全部が頭の中を巡っていく。


「……戻りたいとは、思いません」


 気づけば、そう言っていた。


「私は……今の私が好きです」


 巫女さんは静かに微笑んだ。


「それが、答えです」


「でも……」


 私は鈴を見る。


「じゃあ、この鈴は何だったんですか?」


「あなたの願いを叶えたものではありません」


「え?」


「鈴は、あなたに答えを与えるものではないのです」


 巫女さんは鈴を指差した。


「あなたが誰かと出会い、誰かを大切に思い、その人との縁を自分で選んだ時――」


 一度、言葉を区切る。


「鈴は、それを知らせていただけです」


「……じゃあ」


 私は鈴を握る。


「私が今の私になれたのも……」


「あなた自身の選択です」


 その言葉を聞いて。


 胸の奥が、ふっと軽くなった。


 ずっと探していた答えが。


 ようやく見つかった気がした。


     ◇


「……巫女さん」


「はい」


「じゃあ、もうここに来る必要はないんですか?」


 少し寂しい気持ちで聞く。


 巫女さんは、優しく微笑んだ。


「必要かどうかも、あなたが決めることです」


「またそれですか」


 私は思わず笑った。


「ふふ」


 巫女さんも笑う。


「ですが、一つだけ申し上げておきましょう」


「何ですか?」


「あなたのこれからは、これまで以上にあなた自身の選択で決まっていきます」


 風が吹く。


 木々の葉が揺れる。


「鈴が鳴らなくなったからといって、縁が消えたわけではありません」


「……はい」


「むしろ、これからが本当の始まりなのです」


 私は鈴を見る。


 もう鳴らない。


 けれど。


 今は、それでいいと思えた。


「ありがとうございました」


 私は深く頭を下げる。


「こちらこそ」


「……また来ます」


 そう言って、私は神社を後にした。


     ◇


 鳥居を出る。


 夕方の道を歩く。


 スマホを見る。


 莉奈からメッセージが届いていた。


『今日も一緒に帰ろ!』


 私は笑って返信する。


『うん。今向かってる』


 少し歩く。


 すると――


「湊ー!」


 前から莉奈が走ってきた。


「遅いよ!」


「ごめんごめん」


「どこ行ってたの?」


 莉奈が不思議そうに私を見る。


「……神社」


「また?」


「うん」


「何かあった?」


 私は少しだけ考える。


 そして。


「うん。ちょっとね」


「そっか」


 莉奈はそれ以上聞かなかった。


 ただ、自然に私の隣を歩き始める。


「帰ろっか」


「うん」


 私たちは並んで歩いた。


 ポケットの中の鈴は、静かなまま。


 もう、鳴らない。


 だけど。


 私はもう、それを寂しいとは思わなかった。


 私が今ここにいること。


 莉奈が隣にいること。


 みんなと笑えること。


 それは、鈴が決めたことじゃない。


 私が選んだこと。


 そして――


 これからも、自分で選んでいく。


 神社で知った答えを胸に。


 私は、いつもの日常へ戻っていった。


     ◇


 その頃。


 誰もいなくなった神社の境内で。


 巫女さんは、一人で空を見上げていた。


 手には、もう一つの鈴。


 湊が持っているものと、よく似ている。


 けれど――


 こちらの鈴には、まだ小さな音が残っていた。


 チリン。


「……ようやく、ここまで来ましたか」


 巫女さんは、静かに呟く。


 そして、湊が去っていった鳥居を見る。


「ですが……」


 その表情から、先ほどまでの微笑みが消える。


「まだ、すべてをお話ししたわけではありません」


 風が吹いた。


 巫女さんの髪が揺れる。


「あなたが選んだ姿については、お話ししました」


 そして。


「けれど――」


 その先の言葉を、巫女さんは口にしなかった。


 ただ、手の中の鈴を見つめる。


 その鈴には――


 見覚えのない紋様が刻まれていた。


「……あの子が知るべき時は、まだ先」


 巫女さんはそう言って、静かに目を閉じる。


 まるで、誰かに語りかけるように。


「あなたも、そう思うのでしょう?」


 返事はない。


 ただ。


 境内の奥から、一度だけ鈴の音が響いた。


 チリン――。


 巫女さんは、その音を聞いて小さく微笑んだ。


「ええ。まだ、始まったばかりです」


 夕暮れの神社に。


 鈴の音だけが、静かに残った。

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