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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第五章 私と神社

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第四十八話 鈴がなくても、隣に

 翌朝。


「湊ちゃん、おはよー!」


 教室に入ると、いつも通りの声が飛んできた。


 莉奈だ。


「おはよう、莉奈」


「……ん?」


 挨拶を返しただけなのに、莉奈は私の顔をじっと見つめてきた。


「な、なに?」


「ううん。昨日、ちゃんと眠れたかなーって」


「眠れたけど……どうして?」


「そっか! ならよかった!」


 そう言って笑う莉奈。


 いつもと変わらない笑顔。

 いつもと変わらない声。


 なのに、昨日の帰り道に見せた、あの少し寂しそうな表情が頭から離れなかった。


 ――もし、私たちが出会ってなかったら、湊ちゃんは、今の自分を好きになれてたと思う?


 あの質問は、どういう意味だったんだろう。


 私が答えたのは、みんなと出会えてよかった、という気持ちだった。


 それは嘘じゃない。


 でも、莉奈が本当に聞きたかったことには、答えられていなかったのかもしれない。


「湊?」


「えっ?」


「ぼーっとしてるよ?」


 いつの間にか、美咲までこちらを覗き込んでいた。


「もしかして、朝から莉奈の顔見すぎて頭がいっぱい?」


「ちょっ、美咲!?」


 莉奈が真っ赤になった。


「いや、そういうわけじゃ……!」


「へえー?」


 彩花まで乗ってくる。


「もう、やめてよ!」


 いつもの騒がしさに、思わず笑ってしまう。


 その輪の少し外側で、沙耶が控えめに微笑んでいた。


「……みんな、仲いいんだね」


「うん。まあ、毎日こんな感じ」


 私が答えると、沙耶は少しだけ視線を落とした。


「私も……いつか、こんなふうに自然に話せるようになるかな」


「なるよ」


 気づけば、すぐに口にしていた。


「だって、もう一緒にお昼食べてるし。昨日だって一緒に帰ったじゃん」


「それは……そうだけど」


「最初から何でも話せなくたっていいんだよ。少しずつでいいんだから」


 沙耶は驚いたように目を見開いて、それから小さく頷いた。


「……ありがとう、湊ちゃん」


 その瞬間。


 制服のポケットに入れていた小さな鈴が、ちりん、と鳴った。


 私は反射的にポケットを押さえる。


 けれど、今度は鈴の音を確かめようとは思わなかった。


 音がしたから声をかけたわけじゃない。


 鈴が鳴ったから、沙耶を仲間に入れたいと思ったわけでもない。


 ただ、彼女に笑ってほしかった。


 それだけだった。


「湊ちゃん?」


「ん?」


「今、なんか嬉しそう」


 沙耶に言われて、私は自分の頬に触れた。


「……そうかな?」


「うん。すごく」


 その言葉に、私はまた笑った。


 鈴はもう鳴らなかった。


     ◇


 昼休み。


 みんなで机を寄せてお弁当を広げていると、莉奈が隣から小さく話しかけてきた。


「ねえ、湊ちゃん」


「んー?」


「昨日のことなんだけどさ」


 箸を持つ手が止まる。


「……うん」


「私、変なこと聞いちゃったよね。ごめんね」


 莉奈は笑っていた。


 けれど、その笑顔はいつもより少しだけぎこちなかった。


「変なことじゃないよ」


「でも、困らせちゃったでしょ?」


「それは……ちょっと考えたけど」


 正直に答えると、莉奈は「あはは」と小さく笑った。


「だよねー……」


 その声が、妙に寂しく聞こえた。


 私はお弁当を机に置き、莉奈の方へ向き直った。


「莉奈」


「ん?」


「私、昨日の質問に、ちゃんと答えられてなかった気がする」


 莉奈の笑顔が止まった。


「……そんなことないよ」


「ううん。私、みんなと出会えてよかったって言ったでしょ?」


「うん」


「それは本当。でもね」


 言葉を探す。


 自分でも、まだうまくまとまっていない気持ちだった。


「みんなと出会う前の私は、今の私とは違ったと思う。だから、今の自分を好きになれてたかなんて、わからない」


 莉奈は黙って聞いていた。


「でも、今は好きだよ」


「……え?」


「今の自分。みんなと一緒に笑ったり、悩んだり、誰かのことを大事にしたいって思ったりする自分が、私は好き」


 言い終えてから、急に恥ずかしくなった。


「……なんか、すごいこと言っちゃった」


「ううん」


 莉奈は首を横に振った。


 その目が、少しだけ潤んでいるように見えた。


「そっか」


「うん」


「……よかった」


 莉奈は俯いて、手元のお弁当を見つめた。


 それから、そっと私の袖をつまんだ。


「じゃあさ」


「うん?」


「これからも、隣にいていい?」


 その質問に、胸の奥がきゅっとなった。


 どうしてそんなことを聞くんだろう。


 隣にいるのは、当たり前じゃないの?


 昨日までだって、今日だって。


「……もちろん」


 私は答えながら、莉奈の手に自分の手を重ねた。


「莉奈が隣にいてくれたら、私は嬉しいよ」


 莉奈は一瞬だけ目を丸くして、それから、いつもの笑顔を見せた。


「……えへへ。そっか」


 その手は、すぐには離れなかった。


 向かい側から、美咲の声が飛んでくる。


「はいはい、お二人さん。お弁当の時間ですよー」


「み、美咲! 違うから!」


「何が違うのかなー?」


「もうっ!」


 莉奈が慌てて手を離す。


 その様子を見て、みんなが笑った。


 私も笑った。


 ポケットの中の鈴は、静かなままだった。


 それでいい。


 誰かとの繋がりを、音で確かめなくたっていい。


 私は今、莉奈の隣にいる。


 莉奈も、私の隣にいてくれる。


 それは鈴が教えてくれたことじゃない。


 私たちが、自分たちで選んだことなのだから。

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