第四十四話 鈴が示す私の縁
神社の境内。
私は巫女さんの前に立っていた。
「私が、これから何を大切にするか……?」
「はい」
巫女さんは静かに頷く。
「ですが、難しく考える必要はありません」
「そう言われても……」
私は困ってしまう。
「急にそんなこと言われても、よく分からないよ」
「それでいいのです」
「え?」
「分からないからこそ、選ぶ意味があります」
巫女さんはそう言って。
私の手にある鈴を指差した。
「その鈴を持って、目を閉じてください」
「目を?」
「はい」
私は言われた通り、目を閉じる。
「そして、あなたが大切だと思う人を一人、思い浮かべてください」
「一人……」
誰だろう。
私は考える。
すると。
すぐに一人の顔が浮かんだ。
「……莉奈ちゃん」
幼なじみ。
昔から一緒にいて。
私のことを誰よりも知っている。
今の私のことも、変わらず接してくれる。
その瞬間。
――チリン。
「……!」
鈴が鳴った。
私は目を開ける。
「鳴った……」
「ええ」
巫女さんが微笑んでいる。
「では、次の方を」
「次?」
「あなたが大切だと思う人を、もう一人」
「……」
私は考えた。
今度に浮かんだのは。
「美咲ちゃん」
真面目で。
少し不器用だけど。
いつも私のことを気にかけてくれる。
――チリン。
「……また鳴った」
「では、もう一人」
「えっと……」
彩花ちゃん。
いつも明るくて。
私を笑わせてくれる。
――チリン。
結衣ちゃん。
静かだけど。
私が困っていると、そっと助けてくれる。
――チリン。
「……」
私は鈴を見つめた。
四回。
全部、同じように鳴った。
「すごい……」
思わず呟く。
すると。
後ろから声がした。
「……なんか、すごいね」
莉奈ちゃんだった。
「私、こんなの初めて見た」
「私も……」
巫女さんは二人を見て、静かに笑う。
「これが、湊さんの縁です」
「私の……縁」
「はい」
私は鈴を握り直す。
不思議だった。
今まで私は。
自分がどうして女の子になったのかとか。
どうしてこんなことが起きたのかとか。
そんなことばかり考えていた。
でも。
今、目の前にいる人たちのことを考えると。
胸の奥が温かくなる。
「……私」
私は小さく呟いた。
「今の私にも、大切なものがあるんだ」
莉奈ちゃんが笑った。
「当たり前じゃん」
「……莉奈ちゃん」
「だって湊ちゃん、私たちとずっと一緒にいるじゃん」
その言葉に。
私は少しだけ笑った。
「うん」
巫女さんはそんな私たちを見ながら。
「それが分かったのなら、今日は十分です」
「え?」
「今日のお願いは、それだけです」
「これだけ?」
「はい」
私は少し拍子抜けする。
「でも……何か起きるんじゃないんですか?」
「もう起きていますよ」
「……?」
巫女さんは鈴を指差した。
「湊さん自身が、自分の大切なものに気づいたこと」
「……」
私は鈴を見る。
小さな鈴。
ただの鈴に見える。
でも。
今は少しだけ特別なものに感じた。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ」
「え?」
巫女さんは微笑んだ。
「来てくださって、ありがとうございます」
その言葉に。
私は少し不思議な気持ちになった。
まるで。
この神社に来ることを、ずっと待っていたみたいだった。
「……また来てもいいですか?」
「もちろんです」
「莉奈ちゃんも?」
「ええ」
莉奈ちゃんが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、また二人で来ようね」
「うん」
私たちは鳥居へ向かって歩き出した。
その途中。
私はふと振り返った。
「……あれ?」
巫女さんがいない。
「湊ちゃん?」
「巫女さん、どこ行ったんだろう」
「さっきまでいたのに?」
境内を見渡す。
でも。
どこにも姿がない。
その代わり。
社の前に、小さな紙が置かれていた。
「……これ」
私は拾い上げる。
そこには。
一言だけ書かれていた。
『次は、あなたが誰かの縁を繋ぐ番です』
「……私が?」
意味が分からない。
でも。
その瞬間。
手の中の鈴が鳴った。
――チリン。
莉奈ちゃんが私の隣で笑う。
「なんか、また始まりそうだね」
「……うん」
私は紙を握りしめた。
神社との縁は
まだ終わらないみたいだった。




