第四十二話 学校で鳴る不思議な鈴
次の日の朝。
私は家を出る前に、昨日の鈴を確認していた。
「……本当に持っていくんだよね」
手のひらに乗せる。
小さな鈴。
昨日、神社の奥で見つけたものだ。
巫女さんには、
『明日、それを学校へ持っていってください』
そう言われた。
「何が起こるんだろう……」
少し不安だった。
でも。
どこか楽しみでもあった。
私は鈴を小さな袋に入れて、鞄の中へしまった。
「よし」
そして学校へ向かった。
◇
「湊ちゃん、おはよー!」
「おはよう、莉奈ちゃん」
教室に入ると、いつものように莉奈ちゃんが声をかけてきた。
「今日ちょっと早くない?」
「そうかな?」
「うん。なんかいいことあった?」
「え?」
思わず固まる。
「……別に?」
「ほんとー?」
莉奈ちゃんがじっと私を見る。
「なんか怪しい」
「怪しくないよ」
私は笑って誤魔化した。
神社のことは。
まだ誰にも話すつもりはなかった。
「おーい、湊!」
今度は彩花ちゃんが近づいてくる。
「おはよー!」
「おはよう、彩花ちゃん」
「今日も元気だねー」
「彩花ちゃんもね」
少し離れたところでは、美咲ちゃんと結衣ちゃんもこちらを見ている。
いつもの朝。
いつものみんな。
それなのに。
私は鞄の中にある鈴の存在が気になって仕方なかった。
◇
昼休み。
私は机の横に置いていた鞄を見た。
「……」
鈴が気になる。
でも、学校で出すのも少し怖い。
巫女さんは何か起こると言っていた。
「湊ちゃん?」
「え?」
莉奈ちゃんの声で我に返る。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
「そう?」
莉奈ちゃんが首を傾げる。
「なんか今日、朝からぼーっとしてない?」
「ちょっと考え事してただけ」
「ふーん」
莉奈ちゃんが私の鞄を見る。
「何か入ってるの?」
「えっ」
「いや、さっきから鞄ばっかり見てるから」
「……」
どうしよう。
見せてもいいのかな。
私は少し迷った。
そして。
そっと鞄を開けた。
「これ」
「……鈴?」
「うん」
小さな鈴を取り出す。
「かわいい!」
彩花ちゃんが身を乗り出した。
「どこで買ったの?」
「買ったんじゃなくて……」
言葉が止まる。
「……神社でもらった」
「神社?」
美咲ちゃんが反応する。
「昨日、神社に行ったの?」
「うん」
「一人で?」
「そう」
結衣ちゃんが鈴をじっと見つめている。
「……なんだか、不思議な感じがする」
「結衣ちゃんもそう思う?」
「うん」
私は鈴を軽く振った。
――チリン。
「……」
全員が黙った。
「……今、何か聞こえなかった?」
彩花ちゃんが言う。
「鈴の音?」
「うん」
「普通に鳴っただけじゃない?」
「でも……」
結衣ちゃんが周囲を見る。
「なんか、少し違った気がする」
「違う?」
「うまく言えないけど……」
そのとき。
――チリン。
「……え?」
今度は。
私が触っていないのに鈴が鳴った。
「湊ちゃん、今触った?」
「触ってないよ」
「じゃあ……」
全員が鈴を見る。
私は少しだけ怖くなった。
「……これ、何なんだろう」
◇
その日の放課後。
私は一人で教室に残っていた。
みんなには先に帰ってもらった。
鞄の中から鈴を取り出す。
「……」
鈴は何も変わらない。
小さくて。
普通の鈴に見える。
「巫女さん……」
私は小さく呟いた。
「これ、どういう意味なの?」
すると。
――チリン。
「……!」
また鳴った。
でも。
今度は音がした方向が違った。
「……窓?」
私は窓の外を見る。
校庭。
昇降口。
その先にある道路。
何もない。
「……気のせいかな」
そう思って鈴をしまおうとした。
その瞬間。
――チリン。
今度は。
はっきりと聞こえた。
学校の外から。
まるで。
どこかへ来い、と言っているように。
「……神社?」
私は窓の外を見つめる。
そして。
なぜか分からないけれど。
今日の帰りも、あの神社へ行かなければならない。
そんな気がした。
「……行ってみよう」
私は鞄を持つ。
教室を出ようとした、そのとき。
「湊ちゃん?」
「……!」
振り返る。
教室の入口に。
莉奈ちゃんが立っていた。
「まだ帰ってなかったんだ?」
「あ……うん」
莉奈ちゃんは私の鞄を見る。
「また、その鈴?」
「うん」
「……なんかあった?」
「……」
私は少し迷った。
でも。
今日は、一人で抱え込まないほうがいいのかもしれない。
「莉奈ちゃん」
「ん?」
「今日、ちょっと変なことがあって――」
その瞬間。
――チリン。
鈴が鳴った。
莉奈ちゃんの表情が変わる。
「……今の、何?」
「分からない」
私は鈴を握りしめた。
すると。
莉奈ちゃんが私の手をそっと握った。
「じゃあ、私も行く」
「え?」
「どこに行くのか知らないけど」
莉奈ちゃんは笑った。
「湊ちゃんが困ってるなら、一緒に行くよ」
「……莉奈ちゃん」
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
そして。
鈴がまた、小さく鳴った。
――チリン。
まるで。
それを待っていたかのように。
疲れた。けど楽しい。




