第四十話 二つ目のお願い
次の日。
私はまた、あの神社へ向かっていた。
「……本当に、また来ちゃった」
昨日のことを思い出す。
三つのお願い。
それを全部終えれば、私について何か教えてくれるらしい。
「……二つ目は何なんだろう」
そんなことを考えながら歩いていると。
昨日と同じ場所に、赤い鳥居が見えてきた。
「やっぱりある……」
私は鳥居をくぐる。
階段を上ると。
「お待ちしておりました」
巫女さんが、昨日と同じように立っていた。
「こんにちは」
「こんにちは、湊さん」
「……なんだか、本当に普通に会うようになりましたね」
「そうですね」
巫女さんは微笑んだ。
「昨日のお願いは、無事に終わりました」
「はい」
「では、本日は二つ目を」
「お願いします」
巫女さんは境内の奥を指差した。
「今日は、少し簡単ですよ」
「昨日も簡単でしたけど」
「ふふ。そうでしたね」
そして。
「この神社には、古い絵馬がいくつかあります」
「絵馬?」
「はい。その中から、一枚を探していただきたいのです」
「一枚だけ?」
「ええ」
「どんな絵馬なんですか?」
巫女さんは少し考える。
「それは……見れば分かります」
「またそれですか」
私は苦笑した。
「じゃあ、探してきます」
「お願いします」
◇
境内の隅にある古い建物。
その中には、たくさんの絵馬が並べられていた。
「うわ……いっぱいある」
古いものから新しいものまで。
いろいろな願いが書かれている。
「合格できますように」
「家族が元気でいますように」
「友達とずっと仲良くできますように」
私は一枚ずつ眺めていく。
「……願い事って、いろいろあるんだな」
そのとき。
奥の方に。
一枚だけ、少し変わった絵馬があった。
「……これ?」
私は手を伸ばす。
その絵馬には。
名前が書かれていなかった。
ただ。
一言だけ。
『また会えますように』
と書かれている。
「……」
私は、しばらくその文字を見つめた。
なぜか。
胸の奥が少しだけざわついた。
「これ……なのかな」
絵馬を持って、巫女さんのところへ戻る。
「これですか?」
巫女さんは絵馬を見ると。
静かに頷いた。
「はい」
「これで二つ目?」
「ええ」
「……これ、誰が書いたんですか?」
「それは分かりません」
「神社の人なのに?」
「はい」
巫女さんは絵馬を受け取った。
「ただ」
「ただ?」
「この願いは、まだ終わっていないのです」
「……どういう意味ですか?」
巫女さんは答えず。
絵馬をそっと元の場所へ戻した。
「湊さん」
「はい」
「あなたは、誰かに会いたいと思ったことはありますか?」
「……あります」
私はすぐに答えた。
莉奈ちゃんたち。
凛。
桜。
美月。
そして。
まだ知らない誰か。
「でも、それがどうかしたんですか?」
「いいえ」
巫女さんは微笑む。
「ただ、あなたは人との縁が、とても強い方なのだと思っただけです」
「縁……」
「ええ」
その言葉を聞いて。
私は少しだけ不思議に思った。
「巫女さん」
「はい?」
「昨日からずっと思ってたんですけど」
「はい」
「どうして私のこと、そんなに知ってるんですか?」
巫女さんの笑顔が。
ほんの少しだけ変わった。
「……知っている、と言いましたか?」
「だって」
私は一歩近づく。
「私の名前も知ってたし」
「はい」
「私が困ってることも分かってた」
「ええ」
「それに……」
私は昨日の言葉を思い出す。
『それでこそ、湊さんです』
「私のことを、前から知ってるみたいに話すじゃないですか」
巫女さんは黙っていた。
しばらくして。
「湊さん」
「はい」
「この神社には、昔からいろいろな方が訪れます」
「……はい」
「けれど」
巫女さんは私を見る。
「あなたは、少し特別なのです」
「特別……?」
「ええ」
それ以上は言わない。
「……それって、どういう」
その瞬間。
――チリン。
境内に鈴の音が響いた。
巫女さんは社の方を見る。
「今日はここまでにしましょう」
「え?」
「三つ目のお願いは、また別の日に」
「ちょっと待ってください!」
私は慌てて呼び止める。
「まだ聞きたいことが――」
巫女さんは振り返った。
「焦らなくても大丈夫ですよ」
「……」
「あなたには、まだ時間がありますから」
「時間……?」
また意味深なことを言う。
でも。
今度は、少しだけ違った。
怖いというより。
なぜか安心する。
「……分かりました」
私は頷いた。
「じゃあ、また来ます」
「はい」
巫女さんは笑った。
「お待ちしております」
私は鳥居へ向かって歩き出した。
そして。
ふと振り返る。
巫女さんは。
まだそこに立っていた。
私を見送るように。
静かに。
微笑んでいた。
「……不思議な人」
そう呟いて。
私は神社を後にした。
まだ。
この神社が何なのかも。
あの巫女さんが何者なのかも。
何一つ分からない。
だけど。
なぜか。
またここへ来たいと思った。




