↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第一章 百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/74

第四話 女の子になった俺、四人に好かれているらしい。 

――翌朝。


「湊ちゃん、おはよー!」


「おはよう、莉奈」


 教室に入った瞬間、莉奈が駆け寄ってきた。


「今日も一緒に登校できなかったからお昼は一緒に食べよ?」


「昨日も食べただろ」


「昨日食べたから今日も食べるの」


「そういうものなのか?」


「そういうものです」


 莉奈は満足そうに笑った。


 最近、莉奈と話す時間が本当に増えた。


 昼休みも。

 放課後も。


 そして、そのたびに昔の話を聞かされる。


「そういえば湊ちゃん、昔――」


「また昔の話か?」


「だって、湊ちゃん忘れすぎなんだもん」


「悪かったな」


「じゃあ今日もいっぱい思い出させてあげる」


「……ほどほどにな」


「えー?」


 そんなやり取りをしていると。


「……湊」


 後ろから声がした。


 振り返る。


「美咲?」


 美咲が立っていた。


「……今日、放課後って空いてる?」


「放課後?」


「うん」


「えっと……」


 俺は莉奈を見る。


「今日も白石と約束してたっけ?」


「今日はまだしてないよ?」


「じゃあ――」


「待って」


 美咲が口を挟んだ。


「……今日だけ、私と帰らない?」


「……え?」


 思わず聞き返す。


 美咲からそんなふうに誘ってくるのは久しぶりだった。


「ダメ?」


「いや、ダメじゃないけど」


「じゃあ決まり」


 美咲はそう言って、少しだけ笑った。


「……よかった」


 その声は、いつもの美咲より少しだけ柔らかかった。


「じゃあ俺、放課後は美咲と――」


「私も行く」


 突然、彩花が割り込んできた。


「え?」


「私も一緒に帰りたい!」


「彩花も?」


「うん!」


 彩花はいつものように笑っている。


 けれど。


 その手は、俺の制服の袖をちょこんと掴んでいた。


「……久しぶりに三人で帰ろ?」


「いいけど」


「やった!」


 彩花は嬉しそうに笑う。


 その横で、美咲が少しだけ驚いた顔をしていた。


「……彩花も?」


「だって、最近全然湊ちゃんと帰ってないもん」


「……それは私もだけど」


「じゃあ三人で帰ろうよ」


「……うん」


 そこへ。


「……私も」


 小さな声がした。


 結衣だった。


「結衣も?」


「……うん」


 少し俯きながら頷く。


「みんなで帰りたい」


「じゃあ四人で帰るか」


「うん!」


 彩花が笑った。


 美咲も頷く。


 結衣も、小さく笑った。


 その様子を少し離れたところから見ていた莉奈は――。


「……そっか」


 小さく呟いた。


 そして、すぐに笑う。


「じゃあ、今日は私の番じゃないってことだね」


「莉奈?」


「ううん。気にしないで」


 莉奈は笑顔のまま、俺に手を振った。


「じゃあまた明日ね、湊ちゃん」


「うん。また明日」


 莉奈が自分の席へ戻っていく。


 俺はその背中を見ながら、少しだけ首を傾げた。


「……なんだったんだ?」


「さあ?」


 美咲が答える。


「でも今日は私たちと帰るから」


「なんでそんな強調するんだよ」


「別に」


「またそれか」


「……うるさい」


 美咲は少しだけ顔を赤くした。


     ◇


 そして放課後。


「湊ちゃん、帰ろ!」


「うん」


 教室を出る。


 いつもの四人。


 ……なのに。


 何かが違った。


「湊、どこ行きたい?」


「俺?」


「うん」


「特に決めてないけど」


「じゃあ駅前行こうよ!」


 彩花が先に歩き出す。


「新しいお店、見たい!」


「この前できたところ?」


「そうそう!」


「いいな」


「でしょ?」


 彩花は嬉しそうに笑った。


 そのまま俺の隣に並ぶ。


 以前なら自然に腕を組んできたはずなのに。


 今日は――袖を掴むだけだった。


「……?」


 俺が見ると、彩花は少し照れたように手を離す。


「……何?」


「いや、なんでもない」


「ふふっ」


 彩花が笑う。


「湊ちゃん、最近私たちとあんまり一緒にいなかったから」


「そうだな」


「だから今日はいっぱい話したいなって」


「……そっか」


「うん」


 その笑顔は、久しぶりに見る気がした。


     ◇


「ねえ、湊」


「ん?」


 駅前のベンチに座っていると、美咲が話しかけてきた。


「最近、白石さんとよく一緒にいるよね」


「うん」


「楽しい?」


「楽しいよ」


「……そっか」


 美咲は少し黙った。


「……じゃあ、私たちといるのは?」


「え?」


「楽しい?」


「もちろん楽しいだろ」


「……本当に?」


「本当だよ」


 俺が答えると。


 美咲は少しだけ安心したように笑った。


「……なら、よかった」


「どうしたんだ?」


「なんでもない」


「またそれか」


「ふふ」


 美咲が笑う。


 その表情を見て、俺も自然と笑った。


     ◇


 その日の帰り道。


「湊ちゃん」


 結衣が隣から声をかけてきた。


「ん?」


「……明日も、一緒に帰れる?」


「明日?」


「うん」


「もちろん」


「……本当?」


「なんでそんなに確認するんだよ」


「……だって」


 結衣は少しだけ俯いた。


「最近、湊ちゃんが遠くにいる気がするから」


「……」


「私……嫌だった」


 結衣が小さな声で言う。


「でも、どうしたらいいか分からなくて」


「結衣……」


「だから」


 結衣が俺を見る。


「これからは、ちゃんと誘う」


「……え?」


「私からも、ちゃんと湊ちゃんに話しかける」


 そう言って、結衣は少しだけ笑った。


「……頑張る」


「うん」


「約束」


「約束な」


 俺たちは小指を軽く絡めた。


 その様子を、少し前から見ていた美咲と彩花。


「……結衣、やるじゃん」


 彩花が小声で言う。


「うん」


 美咲も頷く。


「……私たちも負けてられないね」


「え?」


「何でもない」


     ◇


 翌日。


「湊ちゃん!」


 朝から莉奈がやってきた。


「今日の放課後、空いてる?」


「今日は――」


「私と帰る」


 美咲が即答した。


「え?」


「昨日約束したから」


「あ、そうだった」


「……忘れてたの?」


「ごめん」


「もう」


 美咲が頬を膨らませる。


「じゃあ今日は私と帰るから」


「うん」


「……よし」


 その会話を聞いていた莉奈は。


「ふふ」


 楽しそうに笑った。


「じゃあ、今日は美咲ちゃんに譲るね」


「……譲る?」


「うん」


 莉奈は俺を見る。


「でも、明日は私ね?」


「え?」


「約束」


「……分かった」


「やった」


 莉奈は嬉しそうに笑った。


 そして。


「私、負けないから」


「……何に?」


「秘密」


 そう言って、莉奈は自分の席へ戻っていった。


「……?」


 俺には何のことか分からない。


 けれど。


 その日の放課後。


 俺の周りには、以前より少しだけ多くの笑顔があった。


 美咲は俺を誘うようになった。


 彩花は以前のように話しかけてくるようになった。


 結衣も、自分から話しかけてくれるようになった。


 そして莉奈は――。


 相変わらず、俺のことを追いかけてくる。


「湊ちゃん、明日は何食べたい?」


「なんでもいい」


「じゃあ私が決める!」


「それでいいのか?」


「いいの!」


 笑う莉奈。


 その後ろから。


「湊、明日は私と帰るからね」


「うん」


「湊ちゃん、明日は私とも話そ!」


「もちろん」


「……私も」


「結衣もな」


「……うん」


 気づけば。


 俺の周りは、また騒がしくなっていた。


 少し前まで、三人との距離が遠くなっていたのに。


 今度は逆に。


 四人が俺との距離を縮めようとしている。


「……なんか、最近みんな積極的じゃないか?」


「「「「……」」」」


 四人が一瞬だけ黙った。


「……気のせいじゃない?」


 美咲が言う。


「そうそう!」


 彩花が笑う。


「……うん」


 結衣も頷く。


「そうだよ」


 莉奈も笑った。


「気のせい」


「そうなのか?」


 俺は首を傾げる。


 ――まだ、分からない。


 俺を見つめる四人の視線に。


 それぞれ違う意味が込められていることも。


 誰かに取られたくないと思う気持ちが。


 少しずつ、「好き」という感情に変わり始めていることも。


 そして。


 この日を境に――。


 俺を巡る、四人の距離が。


 少しずつ変わり始めたことも。


 俺だけがまだ知らなかった。


     ◇


 それから数日。


 俺の周りは、以前にも増して騒がしくなった。


「湊ちゃん、今日のお昼は私と食べよ!」


「湊、放課後は私と帰る約束だから」


「湊ちゃん、次の休み時間、一緒に購買行こ!」


「……私も、誘っていい?」


「もちろん」


 四人から次々に声をかけられる。


 嬉しいことではある。


 けれど、同時に少しだけ不思議だった。


 以前は、俺が誘わなければ集まらなかったのに。


 今は、俺を中心に四人が集まっている。


「……みんな、仲良くなったよな」


 俺がそう言うと。


「「「「……」」」」


 また四人が黙った。


「……そうかな?」


 美咲が目を逸らす。


「うん。前よりずっと」


「そ、そうだね!」


 彩花が笑う。


「……湊ちゃんがいるから」


 結衣が小さく呟いた。


「え?」


「なんでもない」


 結衣は顔を赤くして俯いた。


 莉奈はそんな三人を見ながら、静かに笑っていた。


「ねえ、みんな」


「何?」


 美咲が莉奈を見る。


「今日の放課後、少しだけ話さない?」


「私たちだけで?」


「うん」


 莉奈は俺の方を見た。


「湊ちゃんには、ちょっと待っててもらうことになるけど」


「俺は別にいいけど」


「じゃあ決まりね」


 四人は顔を見合わせた。


 その表情には、いつもの明るさとは違う、少しだけ真剣な色があった。


     ◇


 放課後。


「湊ちゃん、先に帰ってて」


「え?」


「ごめんね。今日は四人で話したいことがあるの」


「四人で?」


「うん」


 莉奈が申し訳なさそうに笑う。


「終わったら連絡するから」


「分かった」


 俺は一人で教室を出た。


 その背中を見送ったあと。


 教室に残った四人は、しばらく黙っていた。


「……それで、話って何?」


 美咲が莉奈に尋ねる。


「みんな、もう分かってるんじゃない?」


 莉奈は窓の外を見ながら言った。


「何を?」


「湊ちゃんのこと」


 その言葉に。


 美咲、彩花、結衣の三人が息を呑んだ。


「……」


「……」


「……」


「私、湊ちゃんのことが好き」


 莉奈は、まっすぐに言った。


「友達としてじゃなくて。幼なじみだからでもなくて。ひとりの男の子として、好き」


 美咲は俯いた。


「……私も」


 小さな声だった。


「私も、湊のことが好き」


 彩花が胸の前で手を握る。


「私もだよ」


 結衣はしばらく黙っていた。


 けれど、やがて顔を上げた。


「……私も。湊ちゃんが好き」


 四人の間に、静かな沈黙が落ちた。


 誰も驚かなかった。


 きっと、みんな気づいていたのだ。


 自分だけではないことに。


「……やっぱり、そうだよね」


 莉奈が苦笑する。


「みんな、湊ちゃんを見る目が変わってたから」


「莉奈だって、ずっと湊にべったりだったじゃん」


 彩花が言う。


「うん。だから、私もみんなの気持ちに気づいてた」


 莉奈は笑った。


「でも、正直に言うと……誰にも取られたくない」


「……私も」


 美咲が呟く。


「湊が誰かと楽しそうにしてると、嫌だった。私以外の誰かを見て笑ってると、胸が苦しくなった」


「私もだよ」


 彩花が続ける。


「湊ちゃんが白石さんと一緒にいると、私のこと忘れちゃったのかなって思って……すごく寂しかった」


「……私も」


 結衣は膝の上で手を握った。


「湊ちゃんが遠くに行っちゃう気がして、怖かった」


 莉奈は三人の言葉を聞きながら、ゆっくり頷いた。


「私も、同じ」


 四人は顔を見合わせた。


 好きで。

 好きで。

 好きでたまらない。


 だからこそ、誰かに譲るなんてできない。


「……どうする?」


 美咲が尋ねた。


「このまま、湊を取り合う?」


「それはそれで楽しそうだけど……」


 彩花が少し考える。


「でも、誰かが傷つくよね」


「……うん」


 結衣が頷く。


「私、みんなと仲悪くなりたくない」


「私も」


 莉奈が言った。


「湊ちゃんのことが好きだからって、みんなを敵にしたくない」


「じゃあ、どうするの?」


 美咲が聞く。


 莉奈は少しだけ考えたあと、手を差し出した。


「協定を結ばない?」


「協定?」


「うん。抜け駆けなしの協定」


 彩花が目を丸くする。


「抜け駆けなしって……」


「誰か一人だけが湊ちゃんを独占しない。湊ちゃんに無理をさせない。みんなで正々堂々、好きでいる」


「……それって、結局みんなで競争するってこと?」


「そうかも」


 莉奈は笑った。


「でも、誰かを蹴落とすんじゃなくて、みんなで湊ちゃんを好きでいるの」


 美咲はしばらく黙っていた。


 そして。


「……いいと思う」


「美咲?」


「私も湊が好き。だから、みんなに譲るつもりはない」


 美咲は三人を見る。


「でも、みんなと喧嘩するのも嫌」


「私も賛成!」


 彩花が手を挙げた。


「湊ちゃんのこと、好きで好きでたまらないけど、みんなのことも大切だから」


「……私も」


 結衣が小さく手を差し出す。


「それで決まりね」


 莉奈が手を重ねた。


 美咲も。

 彩花も。

 結衣も。


 四人の手が、中央で重なる。


「1、湊ちゃんを好きでいること」


「2、抜け駆けしないこと」


「3、誰かを邪魔しないこと」


「4、遠慮もしないこと」


 最後の言葉に、四人は顔を見合わせた。


「……遠慮はしないんだ?」


 彩花が笑う。


「だって、好きな気持ちは我慢できないもん」


 莉奈が答える。


「それに、湊ちゃんに選んでもらうなら、ちゃんと自分の気持ちは伝えたい」


「……うん」


 美咲が頷く。


「私も、もう逃げない」


「私も頑張る」


 結衣が言った。


「ちゃんと、湊ちゃんに好きって思ってもらえるように」


 四人はもう一度、手を重ねた。


「抜け駆けなし」


「正々堂々」


「みんなで湊ちゃんを好きになる」


「協定成立!」


 彩花が明るく宣言した。


 その瞬間。


 教室の扉が開いた。


「……何してるんだ?」


「「「「えっ!?」」」」


 四人が一斉に振り返る。


 そこには、帰ったはずの俺が立っていた。


「忘れ物を取りに戻ったんだけど……」


 俺は四人の重なった手を見る。


「なんか、すごいことになってないか?」


「な、なんでもない!」


 美咲が慌てて手を離す。


「そうそう! 女子会みたいなもの!」


 彩花が笑顔で誤魔化す。


「……女子会?」


「うん!」


 結衣も頷く。


「四人で、仲良くするための話をしてたの」


「そっか」


 俺は納得したように頷いた。


「それなら、俺は帰るな」


「待って!」


 莉奈が声を上げた。


「え?」


「……一緒に帰ろ?」


 莉奈が俺を見る。


 その隣で、美咲も彩花も結衣も、俺を見つめていた。


 四人の視線が、まっすぐ俺に向けられている。


「……みんなで?」


「うん」


「いいけど」


 俺が答えると。


「やった!」


 彩花が嬉しそうに笑った。


 美咲も。

 結衣も。

 莉奈も。


 みんな、幸せそうに笑っていた。


 教室を出る。


 俺の右隣には美咲。

 左隣には彩花。

 少し後ろに結衣と莉奈。


 けれど、しばらく歩くと。


「湊、私の隣に来て」


「え?」


「今日は私の番だから」


「抜け駆けは禁止でしょ?」


 莉奈がすかさず言う。


「順番ならいいんじゃない?」


 美咲が返す。


「じゃあ次は私ね!」


 彩花が手を挙げる。


「……私も、順番に入れて」


 結衣が小さく言った。


「分かった分かった」


 俺は苦笑する。


「順番に歩けばいいだろ」


「「「「うん!」」」」


 四人の声が重なった。


 その笑顔を見ながら、俺は思う。


 最近、みんなが積極的になった理由は、まだ分からない。


 けれど。


 俺の知らないところで、四人の間に何か大切な約束が結ばれたことだけは、なんとなく伝わってきた。


 そして四人は、同じ気持ちを胸に抱えていた。


 湊が好きで。

 好きでたまらなくて。


 だからこそ、誰か一人だけが独占するのではなく。


 みんなで笑って。

 みんなで競い合って。

 みんなで、湊の隣を目指す。


 ――抜け駆けなし。


 それが、四人の新しい約束だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。