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百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第四章 私、昔は――

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第三十七話 あの日の私、何を望んでいたの?

 ――あの日。


 美月と向かい合っていると。


 頭の奥が、少しずつ熱くなっていく。


「……思い出せそう?」


「うん……」


 私は目を閉じた。


 すると。


 ぼんやりとした景色が浮かんできた。


 ――小学生の頃。


 今よりずっと短い髪。


 まだ男の子だった頃の私。


 その隣には、凛と桜。


 そして――美月。


「四人で……遊んでた」


「うん」


 美月が静かに頷く。


「いつも一緒だった」


「……そうだったんだ」


 知っていたはずなのに。


 今まで、ちゃんと思い出せなかった。


 四人で公園に行って。


 学校が終わったあとも一緒にいて。


 くだらないことで笑って。


 そんな毎日。


 その中で。


 私は、あることを気にするようになった。


『湊って、女の子みたいだよな』


 誰かに言われた言葉。


 それが、頭から離れなくなった。


 髪が長い。


 顔が女の子っぽい。


 話し方も少し柔らかい。


 そんなことを言われるたびに。


 私は、少しずつ気にするようになった。


「……私、嫌だったのかな」


「最初はね」


 美月が答える。


「でも、本当に嫌だったのは……女の子みたいって言われることじゃなかったと思う」


「え?」


 私は美月を見る。


「じゃあ、何が嫌だったの?」


「自分が、分からなくなってたんだと思う」


 その言葉を聞いた瞬間。


 また、記憶が流れ込んできた。


 ――公園。


 ベンチに座る私。


 隣に美月がいる。


『俺、もっと男らしくしたほうがいいのかな』


 幼い私がそう言っていた。


『どうして?』


『だって……男なのに女の子みたいって言われるの、変じゃん』


『変じゃないよ』


 美月はすぐに答えた。


『湊は湊じゃん』


『でも……』


『でも?』


『俺、女の子同士が仲良くしてるのとか好きなんだ』


 そこで。


 私は少し恥ずかしそうに俯いていた。


『それも……変なのかな』


『変じゃないよ』


 美月は笑った。


『好きなものは、好きでいいんじゃない?』


 ――そこで記憶が途切れる。


「……っ」


 私は目を開けた。


「思い出した?」


「少しだけ……」


 胸が苦しい。


 昔の私は。


 今よりずっと、自分のことが分からなかった。


 男の子なのに。


 女の子みたいと言われる。


 女の子同士が仲良くしているのが好き。


 それを好きだと言うことまで、変なのかもしれないと思っていた。


「それで……私、どうしたの?」


 美月は少し黙った。


「湊は、自分を変えようとした」


「……男の子らしく?」


「うん」


 私は息を呑む。


「髪を切って」


「……うん」


「話し方を変えて」


「うん」


「服装も、仕草も」


 美月は少し寂しそうに笑った。


「全部、男の子らしくしようとした」


 それは。


 今の私とは、正反対だった。


「でも……」


 美月が続ける。


「それでも湊は、好きなものを嫌いにはなれなかった」


「……」


「女の子同士が仲良くしてるのを見ると、やっぱり嬉しそうだった」


 私は思わず苦笑する。


「……昔から変わってないんだ」


「うん。そこは全然変わってない」


 美月が笑う。


「だから湊は、ずっと悩んでた」


「何を?」


「男の子としていればいいのか。それとも、自分の好きなものをそのまま好きでいていいのか」


 胸の奥が、ざわついた。


 そして。


 次の瞬間。


 また記憶が――。


 今度は、今までより鮮明だった。


 夕方。


 誰もいない公園。


 私は一人でベンチに座っていた。


『……もう、分かんない』


 幼い私の声。


『男の子らしくしないといけないのかな』


 そこへ。


 美月がやってくる。


『湊』


『……美月』


『どうしたの?』


『俺……』


 幼い私は。


 しばらく黙ったあと。


 小さな声で言った。


『……自分を変えたい』


「……!」


 私は息を呑んだ。


 美月を見る。


「これが……あの日?」


「うん」


 美月は頷いた。


「あの日、湊はそう言った」


「自分を……変えたい」


 その言葉を口にすると。


 胸の奥が痛くなる。


 でも。


 記憶はまだ終わらなかった。


 美月が、幼い私に近づいて。


 優しく言う。


『本当に、それでいいの?』


『……分からない』


『じゃあ、どうしたい?』


『……分からない』


 幼い私は泣きそうになりながら。


 こう言った。


『俺が、俺じゃなくなれば……楽になるのかな』


「……っ」


 そこで。


 記憶が途切れた。


「……湊?」


 美月の声が聞こえる。


 私は胸元を押さえた。


「私……」


 言葉が出てこない。


 怖かった。


 あの日。


 私は何を望んだのか。


 どうして今、女の子になっているのか。


 そして――。


 どうして、その記憶を失っていたのか。


「美月」


「うん」


「私……本当に、自分を変えたかったの?」


 美月はすぐには答えなかった。


 ただ。


 静かに私を見る。


「……あの日の最後まで思い出せば、分かるよ」


「最後……」


「うん」


 美月が立ち上がる。


「でも、それを思い出すのは……たぶん、今までで一番怖いと思う」


「……」


 私は黙ってしまった。


 それでも。


 逃げたくはなかった。


「……思い出したい」


 自分でも驚くくらい。


 はっきりと言えた。


「私が何を望んだのか」


 美月を見る。


「全部、思い出したい」


 美月は少しだけ笑った。


「……うん」


 そして。


「じゃあ、次は――あの日の最後を思い出そう」


 その言葉と同時に。


 頭の中に。


 ひとつの光景が浮かんだ。


 幼い私。


 美月。


 そして――。


 誰かの手。


 その手を握った私が。


 泣きながら言っていた。


『……お願い』


『私を――』


 そこで。


 記憶は、また途切れた。


 でも。


 今度は一つだけ。


 はっきりと聞こえた。


『大丈夫だよ、湊』


 ――あの声だった。


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