↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合好きな俺がTSしたのでこれからを楽しみたい。  作者: とみなが つき
第四章 私、昔は――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/74

第三十五話 あの子の名前

小説書くの楽しい

 ――写真の裏。


 そこには、四人の名前が書かれていた。


 私。


 凛。


 桜。


 そして――。


「……」


 私は、その名前を見つめていた。


 読める。


 文字としては、ちゃんと読める。


 なのに。


「……声に出せない」


 喉が詰まるような感覚がした。


「湊?」


 凛が心配そうに私を見る。


「……この子の名前」


「うん」


「私、知ってる」


「……」


「絶対知ってるのに」


 頭の中に、いくつもの記憶が浮かんでは消えていく。


 公園。


 四人で遊んだ日。


 一緒に帰った道。


 手を繋いだこと。


 笑ったこと。


 泣いたこと。


 そして――。


「……あの子」


 私は写真の中の少女を見る。


「私、あの子と……すごく仲がよかった」


「うん」


「凛や桜より?」


 凛は少しだけ黙った。


「……違う」


「え?」


「比べるものじゃないよ」


 凛は写真を見る。


「あの子は、湊にとって特別だった」


「……特別」


 その言葉が胸に刺さった。


「どうして?」


「それは――」


 凛が口を閉じる。


「……自分で思い出して」


「またそれ……」


 私は少しだけむくれた。


 でも。


 もう、焦ってはいなかった。


 ここまで来たなら。


 自分で思い出したい。


     ◇


 その日の夜。


 私は机の前に座っていた。


 写真を机の上に置く。


 何度見ても。


 あの子の顔を見ると、胸が温かくなる。


「……私」


 昔の私は。


 この子と何を話していたんだろう。


 何を約束したんだろう。


 どうして忘れてしまったんだろう。


 目を閉じる。


「……思い出して」


 自分に言い聞かせる。


 すると。


 頭の奥に、声が響いた。


 ――『湊!』


「……!」


 聞き覚えがある。


 昔の声。


 まだ幼かった私の声。


 そして。


 別の声。


 優しくて。


 少しだけ明るい声。


 ――『待ってよ!』


「……!」


 景色が浮かぶ。


 公園。


 夕方。


 四人で走っている。


 私が先頭。


 凛と桜が後ろ。


 そして。


 あの子が私を追いかけている。


『湊、待って!』


『早くー!』


『置いてくよ!』


『もう!』


 四人の笑い声。


 その光景が。


 あまりにも懐かしかった。


     ◇


 ――別の日。


『湊、これあげる』


『なに?』


『秘密』


『秘密って言われたら気になるよ』


『あとで見て』


『分かった』


 小さな紙を渡される。


 私はそれをポケットにしまった。


『絶対なくさないでね』


『うん』


『約束』


『約束!』


 小指を絡める。


 その感触まで覚えている。


「……」


 私は目を開けた。


「……もう少し」


 あと少し。


 思い出せそう。


     ◇


 翌日。


「湊ちゃん、おはよ!」


「おはよ、莉奈ちゃん」


「……あれ?」


「どうしたの?」


「なんか、今日すごく真剣な顔してる」


「うん」


 私は写真を鞄の中に入れていた。


「昨日、昔のことを少し思い出したの」


「本当?」


「うん」


「じゃあ、名前も?」


「それが……まだ」


「そっか」


 莉奈は少し残念そうにしたあと。


「でも、もうすぐだね」


「うん」


 私は笑った。


「たぶん」


     ◇


 昼休み。


 凛と桜も一緒にいた。


 私は写真を机の上に置いた。


「これ」


「うん」


「この子の名前」


 私は写真を指差した。


「今日こそ思い出したい」


 凛と桜は顔を見合わせる。


「……分かった」


 桜が頷いた。


「じゃあ、これを渡す」


 そう言って。


 一枚の古い紙を取り出した。


「何これ?」


「昔、四人で作ったもの」


 紙を開く。


 そこには。


 子どもの字で書かれた、短い文章。


『四人で、ずっと友達』


「……」


 その下に。


 四人の名前。


 私。


 凛。


 桜。


 そして――。


「……」


 その名前を見た瞬間。


 頭の中で。


 何かが弾けた。


     ◇


 ――『ねえ、湊』


『なに?』


『大きくなっても、一緒にいようね』


『うん』


『絶対?』


『絶対』


『じゃあ約束』


『約束!』


 笑い声。


 手を繋ぐ。


 四人で輪になる。


 そして。


 あの子が私を見る。


『湊』


『なに?』


『もし私のこと忘れても』


『忘れないよ』


『もし忘れたら?』


『……』


『そのときは』


 あの子が笑った。


『私が、湊を見つけるから』


『……本当?』


『うん』


『じゃあ、私も見つける』


『約束ね』


『約束!』


     ◇


「……!」


 私は目を開けた。


 名前が。


 頭の中に浮かんでいた。


「……思い出した」


 凛と桜が私を見る。


「……本当に?」


「うん」


 私は写真を見る。


 そして。


 初めて、その名前を口にした。


「――美月」


 その瞬間。


 胸の奥がいっぱいになった。


「美月……」


 何度も名前を呟く。


 知っている。


 この名前を。


 私はずっと知っていた。


「美月……」


 目の奥が熱くなる。


「私の、大切な友達」


 桜が静かに笑った。


「やっと思い出したね」


「うん……」


 凛も笑っている。


「これで、四人そろった」


 その言葉に。


 私は写真を見る。


 私。


 凛。


 桜。


 美月。


 四人で笑っている。


「……四人」


 その瞬間。


 また頭の中に別の記憶が浮かんだ。


     ◇


 ――夜。


 昔の私が泣いている。


『……どうして?』


 誰かが私の前にいる。


 美月だ。


『湊』


『私……』


 私は泣きながら言う。


『私、自分が分からない』


『大丈夫だよ』


『でも……』


『湊は湊だよ』


 その言葉。


 今まで何度も聞いた。


 でも。


 このときの私は。


 もっと苦しそうだった。


『私、どうしたらいいの?』


『無理しなくていい』


『……でも』


『大丈夫』


 美月が私の手を握る。


『いつか、ちゃんと自分で分かるから』


 そして。


 最後に。


『もし忘れても――』


 そこで。


 記憶が途切れた。


     ◇


「……美月」


 私は呟いた。


「私、あの子に何か相談してた」


「うん」


 凛が答える。


「何を?」


「……まだ全部は思い出せない」


 でも。


 今までとは違う。


 確実に。


 記憶が戻ってきている。


「凛」


「なに?」


「美月は……私が女の子になったことを知ってる?」


「……」


 凛が黙った。


「知ってるんだね」


「うん」


「じゃあ」


 私は立ち上がった。


「会わなきゃ」


「湊?」


「美月に」


 写真を握る。


「ちゃんと聞きたい」


 どうして私は忘れたのか。


 あの日、何があったのか。


 そして――。


 なぜ今の私は。


 女の子になっているのか。


「……全部、知りたい」


 凛は少しだけ笑った。


「うん」


「次に会ったとき」


 私は写真を見る。


「今度こそ、忘れない」


 そのとき。


 スマホが震えた。


 画面を見る。


 知らない番号から、一件のメッセージ。


『名前、思い出したんだね』


「……!」


 続けて。


『次は、あの日のことを思い出して』


 私は息を止めた。


 そして最後に。


『待ってるよ、湊』


 その文章を見た瞬間。


 私は確信した。


 このメッセージを送っているのは――。


 **美月だ。**


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。