第三十三話 約束の場所
鬼がかってるスピードで頑張って書き出している今日このごろ。
――翌日。
放課後になった。
「湊ちゃん、今日一緒に帰ろー!」
「ごめん、今日はちょっと用事があるの」
「用事?」
「うん」
私は鞄を持った。
「ちょっと行きたいところがあって」
「そっか」
莉奈は少し寂しそうに笑った。
「じゃあ、気をつけてね」
「うん。また明日」
「また明日!」
莉奈たちと別れる。
私は一人で歩き出した。
向かう場所は決まっている。
昨日、紙に書かれていた場所。
――昔、私たちが遊んでいた公園。
◇
公園に着くと。
「……懐かしい」
思わず声が漏れた。
昔とほとんど変わっていない。
ブランコ。
滑り台。
小さなベンチ。
そして。
公園の奥にある、大きな木。
「ここ……」
胸がざわつく。
知っている。
この場所を。
昔の私は、何度もここに来ていた。
凛と。
桜と。
そして――。
「……」
私はベンチに座った。
しばらく待つ。
誰も来ない。
「……まだかな」
時計を見る。
もう少しだけ待ってみよう。
そう思ったとき。
「――湊」
「……!」
後ろから声がした。
振り返る。
「……え?」
そこにいたのは。
見覚えのない女の子だった。
同じくらいの年齢。
長い髪。
静かな表情。
でも。
その目を見た瞬間。
胸の奥が、大きく揺れた。
「……誰?」
女の子は何も言わない。
ただ。
私を見つめていた。
「私のこと……知ってるの?」
「うん」
小さく頷く。
「ずっと知ってる」
「……ずっと?」
「昔から」
その言葉を聞いた瞬間。
頭の奥が痛んだ。
「……っ」
視界が揺れる。
――公園。
――小さな私。
――凛。
――桜。
そして。
今、目の前にいる女の子。
「……え?」
一瞬だけ。
昔の姿が重なった。
小さな女の子が、私の隣に座っている。
笑っている。
手を握っている。
『また会おうね』
「……あなた」
私は目の前の女の子を見る。
「昔……私と会ったことがある?」
「あるよ」
「凛と桜とも?」
「うん」
「じゃあ……」
私は震える声で聞いた。
「あなたが……あの約束をした人?」
女の子は少しだけ笑った。
「そう」
その瞬間。
頭の中に、記憶が流れ込んできた。
◇
――昔。
公園で三人で遊んでいた。
「ねえ、湊」
桜が言う。
「なに?」
「私、引っ越すんだ」
「……え?」
凛と私は驚いた。
「いつ?」
「来週」
「そんな……」
私は俯いた。
「もう三人で遊べなくなるの?」
「ずっとじゃないよ」
桜が笑う。
「また会えるから」
「……本当?」
「うん」
三人で指を出す。
「約束」
「約束!」
「また会おうね!」
三人の小指が重なった。
◇
その日の帰り。
私は一人で公園に残っていた。
すると。
「湊」
誰かが隣に座った。
「……誰?」
「私?」
「うん」
「私は――」
そこで記憶が途切れる。
「……っ!」
私は現実に戻った。
目の前の女の子を見る。
「……今、思い出しかけた」
「うん」
「あなたの名前……」
喉まで出かかっている。
でも。
出てこない。
「……思い出せない」
「まだ全部じゃないから」
女の子は優しく笑った。
「でも、大丈夫」
「……何が?」
「ちゃんと、思い出せるよ」
「どうして?」
「だって――」
女の子は私の目を見た。
「ずっと待ってたから」
「……!」
その言葉。
胸の奥に、強く響いた。
「……私のことを?」
「うん」
「ずっと?」
「ずっと」
私は言葉を失った。
「じゃあ……」
震える声で聞く。
「どうして、今まで会いに来なかったの?」
女の子は少しだけ寂しそうに笑った。
「湊が、自分で思い出すまで待つって決めたから」
「……誰と?」
「昔の湊と」
「私と……?」
「うん」
意味が分からない。
だけど。
その言葉を聞いた瞬間。
また記憶が浮かんだ。
◇
――昔。
「湊」
目の前の女の子が言う。
「なに?」
「もし、私のことを忘れても」
「忘れないよ」
「もし忘れちゃったら?」
「……」
「そのときは、私が待ってる」
「どこで?」
「ここ」
女の子が公園を指差す。
「この場所で?」
「うん」
「じゃあ、約束」
私は小指を差し出した。
「約束」
小指が重なる。
「また会おうね」
「うん」
「絶対だよ」
「絶対」
そして。
私は笑った。
◇
「……思い出した」
私は呟いた。
「少しだけ」
目の前の女の子は、何も言わない。
「あなたと……ここで約束した」
「うん」
「私が忘れても、待ってるって」
「うん」
「……ずっと?」
「ずっと」
胸が苦しくなった。
「……ごめん」
自然と、その言葉が出た。
「私……あなたのこと、忘れてた」
「いいよ」
「でも……」
目が熱くなる。
「あなたは、ずっと覚えてたんだね」
「うん」
「……ありがとう」
女の子は少し笑った。
「やっと言えたね」
「何を?」
「おかえり、湊」
「……」
その一言を聞いた瞬間。
涙がこぼれた。
「……ただいま」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が出た。
◇
しばらくして。
私は涙を拭った。
「ねえ」
「なに?」
「あなたの名前を教えて」
女の子は少しだけ笑った。
「……まだ、思い出せない?」
「ごめん」
「ううん」
彼女は立ち上がる。
「だったら、もう少しだけ待つ」
「え?」
「次に会ったとき」
彼女は振り返った。
「そのときは、ちゃんと名前を思い出してね」
「……うん」
「約束」
「約束」
そう言って。
彼女は公園を去っていった。
私はその背中を見送った。
「……名前」
まだ思い出せない。
でも。
もう、分かる。
この人は。
昔の私にとって――。
**絶対に忘れたくなかった人だった。**




